77 / 508
第4話:忍び寄る破綻
#13
しおりを挟む「またえらいトコを選びやがったな…」
旗艦『ヒテン』の司令官席で、艦橋の前方ビュアー一杯に映るロンザンヴェラ星雲を眺め、ノヴァルナは苦笑を浮かべた。
合同演習が行われるロンザンヴェラ星雲は、トゥ・エルーダ星系からおよそ19光年の位置にあり、濃密な星間ガスは赤く、直径約4光年の範囲にまるで薔薇の花のような形状で広がっている。また内部には、複数の原始恒星が点在しているために重力勾配が酷く、恒星間転移航法のDFドライヴは使用出来ず、長距離センサーなどの遠距離観測装置も、機能が大幅に低下するようであった。
「ノヴァルナ様。シェイヤ=サヒナン殿から通信が入っております」
通信オペレーターがそう知らせて来ると、ノヴァルナは「繋げ」とぶっきらぼうに命じる。すると前方ビュアーの一部が切り替わり、そこに銀髪とアイスブルーの瞳を持つ、三十代半ばの女性が映し出された。シェイヤ=サヒナンである。
「ノヴァルナ様」
一応、ノヴァルナの方が上位であるから、シェイヤは会釈と共にへりくだった物言いをした。それに対しノヴァルナは鷹揚に頷き、「シェイヤ殿」と応じる。
「この度の無理な申し出をお受け頂いたこと、あらためて御礼申し上げます」
シェイヤがそう言うと、穏やかな笑顔で言葉を返すノヴァルナ。
「いえ。我等としても折角の機会。願ってもない話をどうして断れましょう」
ノヴァルナの言葉に、シェイヤは僅かに笑みを見せて尋ねた。
「…時にノヴァルナ様は、ガルガシアマ星雲をご存知ですか?」
「ガルガシアマ…確かシナノーラン宙域の端にある、かなり大きな星雲のはず」
シェイヤは満足げに頷いて「さすが、よくご存知ですね」と言い、さらに続ける。
「隣国エティルゴア宙域との境界近くにあるガルガシアマ星雲は、これまでに二度、タ・クェルダ家とウェルズーギ家の戦場となっており、さらに三度目の会戦も予想されております…そして、このロンザンヴェラ星雲は規模は小さいですが、内部の気象環境はガルガシアマ星雲とよく似ています。つまり今回の合同演習では、タ・クェルダ家とウェルズーギ家のガルガシアマ星雲会戦を、自分達であればどのように戦うかを試してみよう、というわけです」
「なるほど、それは興味深い趣向です」
少々わざとらしい口調で応じるノヴァルナ。無論これが本当の目的ではない事は、百も承知である。
ノヴァルナの白々しい反応は、シェイヤの方でも当然の事と受け取っていた。双方とも最初から、本気の撃ち合いになるのを共通認識として行動しているからだ。そうでなければこんな常識外れの、突然で無計画な合同演習が実現しようはずもない。
「我が師父タンゲンを何度も翻弄された、ノヴァルナ様のお手並みを拝見出来るのが、楽しみです。二時間後に演習を開始したいと思います。ご異存はありませんか?」
そうシェイヤが言うと、ノヴァルナは落ち着き払って言葉を返す。
「特には。こちらこそ、タンゲン殿の愛弟子と聞くシェイヤ殿の手腕、勉強させて頂きたく思います」
するとシェイヤは意味深な気配を感じさせる笑みで告げた。
「ではノヴァルナ様、よろしくお願い致します。くれぐれも事故の無きよう、安全第一で参りましょう…」
そこで終了する通信。シェイヤの姿がスクリーンから消えると、ノヴァルナは「アッハハハ!」といつもの高笑いを発した。
「なかなか、おもしれーねーさんじゃねーか!」
そこに艦隊参謀が歩み寄り、まもなくロンザンヴェラ星雲に進入する事と、早くも長距離センサーに障害が起き始めた事を知らせて来る。その直後、艦橋中央の戦術状況ホログラムから、幾つかの情報表示が消えたり明滅したりしだした。今しがたシェイヤが告げた通り、タ・クェルダ家とウェルズーギ家のガルガシアマ星雲会戦のように、手探り同然の状態で遭遇戦となる可能性が高くなるだろう。
「シェイヤ艦隊が離れていきます」
オペレーターの報告で艦橋の窓を見ると、ロンザンヴェラ星雲の赤黒い雲海の中へと、シェイヤのイマーガラ第3艦隊が姿を消してゆく。今回の合同演習は、名目上はノヴァルナの艦隊がタ・クェルダ家、シェイヤの艦隊がウェルズーギ家の役割を演じ、ガルガシアマ星雲会戦と同様の状況で模擬戦闘を行う事が趣旨となっている。そのためシェイヤ艦隊は一旦、ノヴァルナ艦隊と距離を置くのだ。
「シェイヤ艦隊、まもなく探知圏外」
同じオペレーターが続けて報告した。やはり濃密な星間ガスの影響で、少し離れただけでセンサーが反応しなくなる。
「重力勾配率増大中。左舷前方に原始恒星」
その報告に左へ視線を遣ると、黒い雲が綿飴状に絡みついた、溶岩の塊のような誕生寸前の恒星が浮かんでいる。ノヴァルナは不敵な笑みで家臣達に命じた。
「さぁて、おっぱじめるか!!」
▶#14につづく
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
スペースランナー
晴間あお
SF
電子レンジで異世界転移したけどそこはファンタジーではなくSF世界で出会った美少女は借金まみれだった。
<掲載情報>
この作品は
『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n5141gh/)』
『アルファポリス(https://www.alphapolis.co.jp/novel/29807204/318383609)』
『エブリスタ(https://estar.jp/novels/25657313)』
『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054898475017)』
に掲載しています。
銀河太平記
武者走走九郎or大橋むつお
SF
いまから二百年の未来。
前世紀から移住の始まった火星は地球のしがらみから離れようとしていた。火星の中緯度カルディア平原の大半を領域とする扶桑公国は国民の大半が日本からの移民で構成されていて、臣籍降下した扶桑宮が征夷大将軍として幕府を開いていた。
その扶桑幕府も代を重ねて五代目になろうとしている。
折しも地球では二千年紀に入って三度目のグローバリズムが破綻して、東アジア発の動乱期に入ろうとしている。
火星と地球を舞台として、銀河規模の争乱の時代が始まろうとしている。
未亡人クローディアが夫を亡くした理由
臣桜
キャラ文芸
老齢の辺境伯、バフェット伯が亡くなった。
しかしその若き未亡人クローディアは、夫が亡くなったばかりだというのに、喪服とは色ばかりの艶やかな姿をして、毎晩舞踏会でダンスに興じる。
うら若き未亡人はなぜ老齢の辺境伯に嫁いだのか。なぜ彼女は夫が亡くなったばかりだというのに、楽しげに振る舞っているのか。
クローディアには、夫が亡くなった理由を知らなければならない理由があった――。
※ 表紙はニジジャーニーで生成しました
異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした
水の入ったペットボトル
SF
これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。
ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。
βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?
そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。
この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。
量産型英雄伝
止まり木
ファンタジー
勇者召喚されたら、何を間違ったのか勇者じゃない僕も何故かプラス1名として召喚された。
えっ?何で僕が勇者じゃないって分かるのかって?
この世界の勇者は神霊機って言う超強力な力を持った人型巨大ロボットを召喚し操る事が出来るんだそうな。
んで、僕はその神霊機は召喚出来なかった。だから勇者じゃない。そういう事だよ。
別なのは召喚出来たんだけどね。
えっ?何が召喚出来たかって?
量産型ギアソルジャーGS-06Bザム。
何それって?
まるでアニメに出てくるやられ役の様な18m級の素晴らしい巨大ロボットだよ。
でも、勇者の召喚する神霊機は僕の召喚出来るザムと比べると月とスッポン。僕の召喚するザムは神霊機には手も足も出ない。
その程度の力じゃアポリオンには勝てないって言われたよ。
アポリオンは、僕らを召喚した大陸に侵攻してきている化け物の総称だよ。
お陰で僕らを召喚した人達からは冷遇されるけど、なんとか死なないように生きて行く事にするよ。量産型ロボットのザムと一緒に。
現在ストック切れ&見直しの為、のんびり更新になります。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる