24 / 103
俺は冒険者として生きている
15
しおりを挟むハッとしたらベッドの上にいた。頭が滅茶苦茶痛い…少し目眩がして、俺がこうなる前の状況が思い出される。俺は今、とっても渋い顔をしていることだろう。
痛む場所を撫でると包帯が巻かれていた。なんとか起き上がって辺りを見回すと、小さな背中がせっせと動いているのが見える。
見覚えのある赤茶色の後頭部を眺めていると、赤茶色の頭がくるりと回転して同じ色の瞳が俺を捉えた。始めは驚いた顔をしていたが、すぐに安堵したように顔が綻ぶ。馴染みのその表情に俺は気持ちが安らぐ。
「よかった、やっと目が覚めたねアル。気分はどう?」
「最悪だ、頭が凄く痛いよエルダ。」
「まだ傷が塞がっていないからね。薬を用意するね?あっ、その前にご飯かな?」
「お腹空いてない。」
「1週間も気を失っていたんだから仕方がないよ。パン粥を用意するね。タサファンに目が覚めたこと伝えてくるよ。」
「うん、頼むよエルダ。」
ふわふわの髪が揺れ、Ω特有の甘い匂い。癒やされる存在…タサファンの奥さんのエルダが俺を看病してくれていたらしい。
エルダがいそいそと部屋から出て行くのを眺め、1週間も気を失っていたことに驚きつつ、こうなってしまった原因の馬鹿共を思い出し頭を抱える。
あのギルドマスターからの尋問?中は椅子に縛られたままだった俺はキレ散らかした保護者の面々の暴走した魔力を一身に受けてふっ飛ばされた。身動き出来ないのに逃げられるわけがない。
多分、ギルドマスターとヨルダンの騎士団長さんは逃げられたと思う。あれでも実力はタサファンに引けを取らぬくらい強いのだから。俺を捕まえるだけの力はある。どうか無事であってほしい…。
「暴走した魔力で叩きつけられたんだ…そりゃ痛むわけだ…。」
ジクジク、キリキリとひっきりなしに痛む頭の傷。普通に出来た傷と違い大量の魔力を含んだ攻撃は、簡単には治らない。バイ菌が入ったみたいに治りが極端に遅くなり、化膿して下手すると壊死していく。
ヒールの魔法で治す方法もあるけど、それは怪我を負わせた魔力より強く打ち消すほどの強い魔力で、実力者が行って初めて効果が出る。残念ながら今回のこの怪我はヒールでは治せない。
こうなると薬草などで地道に治していくしかない。体が丈夫なαで良かったと心底思った。これがΩだったら確実に死んでたな…。
エルダが俺の面倒を見てくれていたのは彼が薬師としても有能だからだ。彼が調合した薬は本当によく効く。
「しっかし、こうも痛みが続くとなると暫くは仕事できないな…金には困ってないし、とにかく今は休むとするか。」
はぁ~、なんて情けないため息をつきながら俺はベッドに横になる。視界には見慣れない天井…そういや、ここ何処だ?流石にヨルダンからは移動してないとは思うけど。
ぼんやりとそんなことを考えながら俺は瞼を閉じる。あれだけ騒がしかったのが嘘のようだ。
なんだか賑やかな声が懐かしくなってしまった。あいつら不貞腐れてなきゃいいけど…。過保護でいるなら一目散に駆けつけてこいよなー、全く。
170
あなたにおすすめの小説
【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
カミサンオメガは番運がなさすぎる
ミミナガ
BL
医療の進歩により番関係を解消できるようになってから番解消回数により「噛み1(カミイチ)」「噛み2(カミニ)」と言われるようになった。
「噛み3(カミサン)」の経歴を持つオメガの満(みつる)は人生に疲れていた。
ある日、ふらりと迷い込んだ古びた神社で不思議な体験をすることとなった。
※オメガバースの基本設定の説明は特に入れていません。
モブらしいので目立たないよう逃げ続けます
餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。
まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。
モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。
「アルウィン、君が好きだ」
「え、お断りします」
「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」
目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。
ざまぁ要素あるかも………しれませんね
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
たとえば、俺が幸せになってもいいのなら
夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語―――
父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。
弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。
助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~
マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。
王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。
というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。
この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる