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第19話 冥界の神兼社長ハデス

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 俺はハデスに会うために、カルディナと共にヘヴンタワーに戻ってきた。

 今日はハデスとの面接か……、ハデスって神様だよな。

 正直怖いが、今まで何体もの悪魔を見て戦ってきた。

 そもそも今の俺だって死神だし、カルディナも死神なんだ。

 まぁ、なんとかなると思い込んで自分を落ち着かせる。



「なぁ、カルディナ。ハデスってどんな人、いや、どんな神様なんだ?」

「ハデス様? んー、威厳があって頼れる社長……かな。あと、怒るととっても怖いらしいわ」

「マジか……怒らせないように気を付けないと」

「聞いた話だと、ハデス様が本気を出せば地上の生命の9割が死滅するとかなんとか」

「ハァ!? 冗談だろ……いや、神様だしそれが普通……なのか?」

「でも、今のハデス様は分裂している状態で、世界各地のヘヴンタワーの管理をしているのよ」



 カルディナの話で、ハデスについてある程度解ってきた。

 ハデスは元々は一人の神様だったが、世界各地にヘヴンタワーを設け、それを管理するために分裂している。

 分裂したハデスは長い年月を経て、それぞれが自我を持ち、再び元通りになることは現状ない。

 万が一、元通りになった場合は本気モードってことなのか。その時は世界の終末だな。

 ハデスはかなりヤバい神様だと分かったが、魂を管理している一番偉い神様である。

 それだけは忘れてはいけない。



 前回は下に向かうためのエレベーターを利用したが、今回は上に向かうための白いエレベーターを利用する。

 カルディナは代わりのローブを受け取る手続きがあるというので、一旦分かれ、面接が終わり次第合流することに決めた。



 『天階行き』



 エレベーターにそう書かれていた。天界? いや、天階。まぁ、おそらく天界とかけているんだろう。

 この塔は天界と冥界を繋げているということになる。

 少し前なら度肝を抜かれていたんだろうが、人って慣れてくるものなんだな、今は人ではないけど。

 ハデスがいるのは社長室のある最上階。最上階というが、その上には天階と呼ばれる階層がある。

 いろいろ気になることはあるが、とりあえず最上階の社長室に向かう。



 白いエレベーターは、ものすごい速度で上昇する。不思議と身体に負荷はかかっていないので耳がパーンとなることもない。トウキョウの景色がよく見える。俺のアパートが見えないかついつい探してしまう。



 気づけば雲の中。白くて眩しくて、ちょっと暗くて、また眩しい。

 もう完全に自分が今どこにいるのか分からない状態だ。

 あれ……おかしい。このタワーって確か1059メートルとかじゃなかったか?

 明らかにそれ以上、いや、追及するのはやめておこう。

 もはや何があっても不思議じゃないんだから。



 パンポーン、とチャイムが鳴ると扉が開く。

 あれこれ考えているうちにもう最上階に着いてしまった……。



「お待ちしておりました、フブキ様。社長の元へご案内致します」



 エレベーターの扉が開くと、そこには綺麗なスーツ姿の眼鏡美女。ハデスの秘書だろう。

 案内されるまま、白くて綺麗な廊下をゆっくりと一歩ずつ進む。

 冥界の神様がいるってのにイメージと違うなぁ……なんて。



『社長室』



 ついに来てしまった。立派なドアの向こうにはハデスが……。



 ――。



「おい、どうした。聞いているのか? 小さき者よ」



「――は、はい!?」



 威厳のある男の声がいきなり聞こえ、思わず飛び上がりそうになった。

 ……気づけば、社長室の中。緊張のあまり頭が真っ白で棒立ちになっていた。

 目の前には、立派な椅子に腰を下ろした濃い紫のスーツを来た筋肉質の大男。

 パッと見ガタイの良い強面のおっさんだ。この方が噂に聞く社長ハデス。



「このワタシが直接『面接』をすることなど滅多にない。今回はそれほどイレギュラーだということだ。分かっているな?」

「……はい」

「キサマがなぜここに来たのか、今までに何をしてきたのか、もちろん把握している。そのことについてキサマの口から出るのを待ってもよいのだが、生憎ワタシも暇じゃないのでね」



 ハデスは少し苛立ちを見せ、早口で喋る。俺はそれに圧倒され、たじろいでしまう。

 嘘をついてもムダ、そんなことは分かりきっているので謝罪の言葉を口にした。

 俺の口から言う必要はないとハデスは言うが、言わないと気が済まなかった。

 今まで犯してきた罪、俺を騙してきたメフィストの事も。



「謝罪をしてほしいわけではない。本来ならば罪を犯したキサマの魂は跡形もなく消し去るところだったが、今回はカルディナに免じておこう」

「ほ、本当ですか。ありがとうございます……」

「行動で示せ、そして罪を償え。ただそれだけだ、フブキよ」



 このタイミングで聞くべきではないと思ったが、我慢できないことがある。

「あの、ユミルのこと、死神『ユミル=ブリザード』について教えていただけませんか」

 ハデスは、少しだけ俺を睨んだ後に口を開いた。

「……個神情報をキサマに教えるわけには、と言うのは容易だがキサマの白いローブは間違いなくユミルのローブだ。その代物はユミルが死神を引退する際に処分されるはずだった」

「処分……、これはメフィストから死神を始めるときに買ったんだ」

「ほう、やはりか。盗まれたとすればメフィスト、それに関係する悪魔や死神の仕業だと予想はしていたが、見つからないままローブの捜索は打ち切りとなっていた」

「じゃあ、俺は盗品を……」

 今まで気になっていたことが、確信となりヤバいと冷や汗が出て俯いてしまう。



 すると、ハデスは鼻で笑う。

「そういうことになるな。だが、盗まれたところでユミルのローブは並大抵の者が扱える代物ではない。だが、キサマはどうだ? そのローブを羽織り平気でいられるには何かワケがある。どちらにせよ我が社で死神として働くのであればローブは必要、そいつはキサマに預けよう」

「あ、あの最後に聞きたいんだ。ユミルが死神を引退した理由って……」



 ハデスは、少しだけ躊躇ったが呆れた表情で口にする。

「人間になりたかった、だとよ。散々ヒトの魂を刈り続けてきた死神が面白いことを言う。ユミルほどの実力を持つ死神を失いたくはなかったが、何百年も世話になったからな」

「その、ユミルが人間に転生したのっていつ頃……」

「そこまでは知らんよ。引退したのは大体20年前だが、あれほどチカラを持つ魂を洗浄するのには多少時間がかかることは間違いない。本来であれば洗浄に何年もかかるはずだが、優先的によくしてくれたみたいだがな」



 これで知りたかった謎はある程度把握できた。ローブのこと、ユミルのことはまだまだ気になるけど……。

 ハデスは、ゴツくて高級そうな腕時計を確認すると、少し喋りすぎたか、と急ぎで次の仕事場へ向かった。



 思いの外、面接はあっさりと終わった……気がする。社長は忙しいって言ってたしな。

 これで俺はハデス社に所属する死神となった。

 昔の借金は無くなったとはいえ、俺が犯した罪を償うために給料からたっぷりと引かれていくのだ。

 しばらく生活はあまり変わらなさそうだな……。

 ヘヴンタワー内にある昔ユミルが使っていたという部屋を正式に俺が使う権利をくれた。

 忙しいときは使うかもしれないが、コユキを一人にしてしまうからな。



 そして俺が今、最優先にしなければならないカルディナのローブ奪還。

 他の仕事もしつつとなると今まで以上に忙しくなりそうだ。
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