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第18話 氷獄の門番
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――ドォン……。
階段を下りた先、巨大な鉄の扉が待ち構える。
部屋中に無数の氷が張り付いており、扉からは抑えきれない大量の冷気が溢れ出している。
「ナニモノダ、ココヲ トオスワケニハイカヌ」
扉の前には、巨大な白銀のゴツイ鎧を来た大男? が立っている。
その手には、長い柄の先に斧のようなものが付いた武器が握られており、一般的にハルバードなどと呼ばれているものに形状が近い。
顔も兜でしっかり隠されており、表情が分からない。
その鎧は光の当たり方によって蒼く見え、見惚れてしまうほどだ。
「久しぶりね、普通に喋っていいわよ、コキュートス」
カルディナは、平然と大男に近づき話しかける。俺はギョッとして止めかけたが、その必要はないようだ。
「……これは、カルディナ様でありましたか。ローブを羽織られていないので気づかず、申し訳ございません」
この大男、コキュートスってヤツは見た目よりも話しやすい相手なんだな。
俺もカルディナの後ろからちょこちょこついて近づくが、その大きさがよく分かる。
俺どころか、カルディナよりも遥かに背が高い。ざっと3メートル近くはあるんじゃないか。
「まぁ、ワケあっていつものローブなくしちゃったのよね。代わりのローブ、黒いヤツでいいからすぐに用意できない?」
「なくされた!? あのローブを……申し訳ございません。最近タワー内に限らず、ローブの在庫が枯渇しておりまして、明日にはお届けできるように手配致します」
「そうなの? ありがとう、助かるわ」
ローブの枯渇……? 心当たりがあるとすれば、メフィストの元で違法に働いていた死神たちが原因なのでは。
そのローブがハデス社から盗まれたものだったら……。いや、今は余計なことを口にするのはやめよう。
「ところで、カルディナ様の後ろについてこられているお客様は……」
カルディナの影に隠れていたが、ついに触れられてしまったので恐る恐る少し前に出る。
すると、俺の姿を見たコキュートスは分かりやすく驚いた。
「……ユミル様!? なぜここに、すでに死神を引退されたのでは……!?」
コキュートスもユミルを知っている。ユミルという死神について知るチャンスだ。
俺は彼の知るユミルではなく、元々フブキという人間だということをコキュートスに説明した。
余計なことを話しそうになるとカルディナがうまくフォローしてくれた。
こんなヤツと敵対したら勝ち目ないだろうからな……。
「フム、貴公はユミル様ではなく、『フブキ』と申すのか。事情は分かった」
「話の分かるヤツで助かったよ……」
「だが、入社するには勿論ハデス様の許可が必要。その前にハデス様に会う資格があるか見極めさせてもらおう」
――ガキィン!
コキュートスは、持っている武器の柄を地面に突き立てると、金属音が鳴り響くとともに部屋の青白い明りが強くなる。
嫌な予感はしていた。まさか、コイツと戦わなきゃいけないのか?
試験的なものだとは言え、万が一失格なんてことになれば……。
「寒いんだから早くしてよねー」
なんてことだ……、カルディナはまるで興味なさそうにしている。助けてくれるような素振りは一切ない。
「我と同じ名を持つ『斧槍コキュートス』の餌食となるがいい……」
コイツ、手加減する気ないだろと思いながらも急いで俺も身構える。
「ウォオオ……!」
コキュートスは唸ると、右手に斧槍を構え、左手には冷気が集まり、巨大な盾を形成した。
纏っている巨大な鎧からも冷気が溢れ出し只ならぬ強者の風格だ。……俺は間違いなく、負ける。
「くたばれ、小僧!!」
コキュートスは斧槍を勢いよく振り上げると、強風と氷塊が乱舞する。
「うわああああああああああ!?」
……間違いなく死んだ。
と思ったが、あれ。なんとも……ない? 恐る恐る確認するように目を開ける。
「どう……したんだ?」
そこにはがっくりと膝をつくコキュートスの姿があった。
「できぬ……ユミル様ではないと分かっていても、同じ姿の相手に刃を向けるなど……」
「はぁ」
カルディナは、やっぱりと言いたげに呆れた表情でため息をついた。
話を聞くと、コキュートスは元々ユミルの忠誠なる部下だったらしい。
かつてはユミルが氷獄の管理をしていたのだが、死神を引退の際に、コキュートスがその責務を継ぐことになったのだ。
氷獄の管理者ってことは、ユミルという死神はハデス社にとって相当重要な存在だったってことだ。
「フブキ殿の実力に免じてハデス様に会うことを許可しよう」
「俺、何もしてないけどな……」
しかし、ハデスは日頃から会議などで忙しく、現在ヘヴンタワー内部にはいないらしい。
明日には会える許可が出たということで、一旦帰ることにした。カルディナのローブの件もその時だな。
ヘヴンタワー1階にあるお土産コーナーを覗くと、天使と猫を合わせたような謎のキャラクターのマスコットが目に付いた。手のひらサイズでカバンにぶら下げられるヤツだ。
「これ、コユキにいいかもな」
ふと、思ったことが口に出てしまった。
「コユキちゃん……妹さんだよね? ちゃんと今起きていること説明してあげないとダメだよ」
「分かってるよ……」
カルディナの言葉に随分と大人……というより年上みを感じてしまった。
俺だって混乱している。コユキをこれ以上巻き込んでいいのかという葛藤もある。
――その帰り道、空が暗くなり始めたが街は明るい。
「で、今日どうするんだ?」
「どうするんだって、今日もあんたのとこに泊めてもらうわよ」
「はぁ!? 当たり前のように言ってるけどなぁ……」
「ローブが無い今、ヘヴンタワーに寝泊りできないの。誰のせいだと思ってるわけ?」
何も反論できなかった。その夜、コユキにお土産のマスコットを渡すと思いのほか喜んでくれた。
そして、川の字で仲良く三人で就寝……いや、俺はみ出てんだけど。
階段を下りた先、巨大な鉄の扉が待ち構える。
部屋中に無数の氷が張り付いており、扉からは抑えきれない大量の冷気が溢れ出している。
「ナニモノダ、ココヲ トオスワケニハイカヌ」
扉の前には、巨大な白銀のゴツイ鎧を来た大男? が立っている。
その手には、長い柄の先に斧のようなものが付いた武器が握られており、一般的にハルバードなどと呼ばれているものに形状が近い。
顔も兜でしっかり隠されており、表情が分からない。
その鎧は光の当たり方によって蒼く見え、見惚れてしまうほどだ。
「久しぶりね、普通に喋っていいわよ、コキュートス」
カルディナは、平然と大男に近づき話しかける。俺はギョッとして止めかけたが、その必要はないようだ。
「……これは、カルディナ様でありましたか。ローブを羽織られていないので気づかず、申し訳ございません」
この大男、コキュートスってヤツは見た目よりも話しやすい相手なんだな。
俺もカルディナの後ろからちょこちょこついて近づくが、その大きさがよく分かる。
俺どころか、カルディナよりも遥かに背が高い。ざっと3メートル近くはあるんじゃないか。
「まぁ、ワケあっていつものローブなくしちゃったのよね。代わりのローブ、黒いヤツでいいからすぐに用意できない?」
「なくされた!? あのローブを……申し訳ございません。最近タワー内に限らず、ローブの在庫が枯渇しておりまして、明日にはお届けできるように手配致します」
「そうなの? ありがとう、助かるわ」
ローブの枯渇……? 心当たりがあるとすれば、メフィストの元で違法に働いていた死神たちが原因なのでは。
そのローブがハデス社から盗まれたものだったら……。いや、今は余計なことを口にするのはやめよう。
「ところで、カルディナ様の後ろについてこられているお客様は……」
カルディナの影に隠れていたが、ついに触れられてしまったので恐る恐る少し前に出る。
すると、俺の姿を見たコキュートスは分かりやすく驚いた。
「……ユミル様!? なぜここに、すでに死神を引退されたのでは……!?」
コキュートスもユミルを知っている。ユミルという死神について知るチャンスだ。
俺は彼の知るユミルではなく、元々フブキという人間だということをコキュートスに説明した。
余計なことを話しそうになるとカルディナがうまくフォローしてくれた。
こんなヤツと敵対したら勝ち目ないだろうからな……。
「フム、貴公はユミル様ではなく、『フブキ』と申すのか。事情は分かった」
「話の分かるヤツで助かったよ……」
「だが、入社するには勿論ハデス様の許可が必要。その前にハデス様に会う資格があるか見極めさせてもらおう」
――ガキィン!
コキュートスは、持っている武器の柄を地面に突き立てると、金属音が鳴り響くとともに部屋の青白い明りが強くなる。
嫌な予感はしていた。まさか、コイツと戦わなきゃいけないのか?
試験的なものだとは言え、万が一失格なんてことになれば……。
「寒いんだから早くしてよねー」
なんてことだ……、カルディナはまるで興味なさそうにしている。助けてくれるような素振りは一切ない。
「我と同じ名を持つ『斧槍コキュートス』の餌食となるがいい……」
コイツ、手加減する気ないだろと思いながらも急いで俺も身構える。
「ウォオオ……!」
コキュートスは唸ると、右手に斧槍を構え、左手には冷気が集まり、巨大な盾を形成した。
纏っている巨大な鎧からも冷気が溢れ出し只ならぬ強者の風格だ。……俺は間違いなく、負ける。
「くたばれ、小僧!!」
コキュートスは斧槍を勢いよく振り上げると、強風と氷塊が乱舞する。
「うわああああああああああ!?」
……間違いなく死んだ。
と思ったが、あれ。なんとも……ない? 恐る恐る確認するように目を開ける。
「どう……したんだ?」
そこにはがっくりと膝をつくコキュートスの姿があった。
「できぬ……ユミル様ではないと分かっていても、同じ姿の相手に刃を向けるなど……」
「はぁ」
カルディナは、やっぱりと言いたげに呆れた表情でため息をついた。
話を聞くと、コキュートスは元々ユミルの忠誠なる部下だったらしい。
かつてはユミルが氷獄の管理をしていたのだが、死神を引退の際に、コキュートスがその責務を継ぐことになったのだ。
氷獄の管理者ってことは、ユミルという死神はハデス社にとって相当重要な存在だったってことだ。
「フブキ殿の実力に免じてハデス様に会うことを許可しよう」
「俺、何もしてないけどな……」
しかし、ハデスは日頃から会議などで忙しく、現在ヘヴンタワー内部にはいないらしい。
明日には会える許可が出たということで、一旦帰ることにした。カルディナのローブの件もその時だな。
ヘヴンタワー1階にあるお土産コーナーを覗くと、天使と猫を合わせたような謎のキャラクターのマスコットが目に付いた。手のひらサイズでカバンにぶら下げられるヤツだ。
「これ、コユキにいいかもな」
ふと、思ったことが口に出てしまった。
「コユキちゃん……妹さんだよね? ちゃんと今起きていること説明してあげないとダメだよ」
「分かってるよ……」
カルディナの言葉に随分と大人……というより年上みを感じてしまった。
俺だって混乱している。コユキをこれ以上巻き込んでいいのかという葛藤もある。
――その帰り道、空が暗くなり始めたが街は明るい。
「で、今日どうするんだ?」
「どうするんだって、今日もあんたのとこに泊めてもらうわよ」
「はぁ!? 当たり前のように言ってるけどなぁ……」
「ローブが無い今、ヘヴンタワーに寝泊りできないの。誰のせいだと思ってるわけ?」
何も反論できなかった。その夜、コユキにお土産のマスコットを渡すと思いのほか喜んでくれた。
そして、川の字で仲良く三人で就寝……いや、俺はみ出てんだけど。
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