二度捨てられた白魔女王女は、もうのんびりワンコと暮らすことにしました ~え? ワンコが王子とか聞いてません~

吉高 花

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研究の成果3

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 そしてそのままクラウス様は、マルガレーテを守るようにマルガレーテの前に立ちはだかって、イグナーツ先生に唸るのだった。
 どうやらお気に入りの主人には触られたくないらしい。

 侍女たちが身支度などで触るときには全く気にしていないようなのに、イグナーツ先生だと駄目な理由はわからなかったが。

 しかしクラウス様的には、マルガレーテの手にキスをするのはおそらく許せないのだろう。

「これはこれはクラウス様、失礼いたしました」

 一歩引いてそう言う台詞とは裏腹に、なぜかチッと舌打ちしそうな顔のイグナーツ先生だったが。
 しかしさすが中身は老齢の大魔術師。今はか弱いワンコとはいえ、雇い主の孫でかつ王子に逆らうことはしないのである。

 「ええと、それでは早速……」

 クラウス様がひたすら睨んでいる中で、まるで何事もなかったかのように麗しい微笑みを貼り付けて、袖の中からキラキラと魔力が漏れ出る小瓶を取り出した。

 そしてマルガレーテはお礼を言うと、その場でまたその小瓶を数口で飲み干したのだった。

「姫!? 大丈夫ですか? もう少し慎重にされては」

 と、イグナーツ先生は慌てていたが、マルガレーテは前回の感触から、まだ自分の魔力の容量には余裕があることを知っていたので、そのまま美味しくいただいたのだった。

 うん、美味しい。

 マルガレーテはペロリとお行儀悪く唇を舐めると、イグナーツ先生に言った。

「イグナーツ先生、もう一瓶、持って来ていただくことはできますか?」
「もちろんです。公爵家にあるルルベ草の在庫は、まだまだたくさんありますので」

 ただ、公爵家の魔術師たちは疲れ果てるだろうな、と思ったことはイグナーツはもちろん黙っているのである。
 マルガレーテはにっこりと極上の笑顔を見せた。

「楽しみにお待ちしておりますわ。おそらくですが、次の一瓶で私の魔力はほぼ最大になるでしょう」

 魔力が補給されるのに比例してキラキラと輝く金の瞳のマルガレーテを、イグナーツ先生だけでなく、その場の人たち全てが驚いたように見つめたことにマルガレーテは気がついてはいない。でも、

「さすが『レイテの魔術師』、とても優秀な魔術師で私も鼻が高うございますよ」

 イグナーツ先生が、誰よりも嬉しそうにそう言ってくれたことがマルガレーテは嬉しかった。
 大魔術師であり師匠でもあるイグナーツ先生に優秀と言われたことで、なんだか自分が魔術師として認められたような気がしたのだ。

 魔力や魔術は隠すもの。物心ついた時から言い聞かされていたそんな意識が薄れていく。

 マルガレーテは言った。

「たとえ私の魔力が最大になっても、すぐにはクラウス様の呪いを消すことは出来ません。クラウス様の呪いを消して枯渇した魔力を補給するためのさらなる小瓶が必要です。その分もお願いできますか」
 
「もちろんです。できる限り早くお持ちいたします」

 密かに弟子の魔術師たちが過労で倒れるギリギリのラインはどこだろう、とイグナーツ先生は考えたが、もちろん言わない。
 まあ、もしも魔力が枯渇してしまったとしても、その辺にある草を食べさせておけばいいだけの話だ。
 
「必要な費用は遠慮無く請求してくれていい。最大限急いでおくれ」

 もちろんその言葉は麗しのイグナーツ先生が最高に美しい笑顔を見せ、そして最高のパフォーマンスをも見せる魔法の言葉なのだった。
 

 小瓶三本は、すぐさま届けられた。

「……公爵家の魔術師たちは、今でもちゃんと生きているのか?」

 あまりの早さに、さすがの王妃様もちょっと引き気味だ。
 
「もちろん生きておりますよ。このルルベ液は効果絶大ですから」

 一点の曇りもない麗しい満面の笑みを浮かべるイグナーツ先生と、非常に心配顔の王妃様の温度差が対照的だった。
  
 そしてそのイグナーツ先生の様子を見て、密かにそのルルベ草の濃縮液――それはいつの間にルルベ液と呼ばれるようになったようだが――を作った魔術師たちはきっと今頃は屍のように横たわっているに違いないと妙に確信したマルガレーテだった。

 しかし、出来上がったのだからめでたい。
 公爵家の財力と優秀な魔術師たちの努力、血と汗と涙の結晶が、そこにはキラキラとした光を纏いながら鎮座していた。

「それでは早速いただきますね」

 マルガレーテはそう言うと、三本のうちの一本を手に取った。

 見たところこの前飲んだものと同じようだったので、マルガレーテは一口、そしてまた一口と飲んでいったのだった。

 魔力とともに、気力や元気も湧いてきた気がする。
 温かな力が体に満ちるのがわかった。

 そして。

「……魔力が完全に復活したと思います」

 マルガレーテはそう自信を持って宣言したのだった。
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