41 / 64
呪いを解く1
しおりを挟む体中を満たしている豊かな魔力は、昔は関知できないものだった。
でも今は。
イグナーツ先生に教わって、そしてたくさん練習した成果でその存在を感じることができる。
温かくて力強い、私の魔力。
「おお……まさしく素晴らしき『レイテの魔女』です。姫……なんと美しい……」
イグナーツ先生がまぶしいものを見るようにしながら呟いた。
マルガレーテにはあまり自覚はなかったが、その時マルガレーテの黄金の瞳は大量の魔力を反映してキラキラと金色の光を放っていた。
「ほう、これが本来の『レイテの魔女』か。なかなか迫力がある。ではこの離宮に来たときにはもう、魔力を随分と削がれていた状態だったのだな」
王妃様も感心したように言った。
王妃様がこの離宮で初めて見たときのマルガレーテの瞳は、これほどの金の光を放ってはいなかったのだ。
ということはきっと、この国に入ってから王宮で謁見をし、そして魔力の判定をされて離宮に居場所を移す間にも、沢山の悪意のある魔術に触れてしまっていたということなのだろう。
でもマルガレーテには当時その自覚は全くなかったから、もしかしたらあのまま王宮で過ごし続けていたら、あっという間に弱ってしまっていたのかもしれないとマルガレーテは今更ながらに思った。
あのままあの第二王子と婚約をしていたら。
そうしたら今頃は、どうして弱っていくのかもわからないうちに、魔力を枯らし果てて死んでしまっていたかもしれない。
でも、ここに来れた。
そして、王妃様やクラウス様と一緒に元気に生きている。
それはマルガレーテにとってとても幸運だった。。
今マルガレーテは、自分の魔術の威力が増したであろう事も感じ取っていた。
そっと魔力を制限する王妃様からもらった指輪の上に手をかざした。
今までは、少し開閉するだけしか出来なかったけれど。
今、マルガレーテが指輪に魔力を入れてその魔力を通す道を開くと、するすると魔力の通り道が限界まで開いたのだった。
そして魔力の残りが少なくなって魔力の流れる量が減ったら、即座に道を最小に閉じる魔術を重ねがけする。
きゅうっと、そしてすっぱりと。
イグナーツ先生がマルガレーテのかけた魔術を感じたようで、目を見張って無言で驚いていた。
でも、クラウス様の呪いとも言える魔術を解くには大量の魔力が必要なのだ。おそらく。
今までの、かけられた魔術が抵抗を始めても、それさえも吹っ飛ばせるくらいの大量で勢いのある魔力を一度に入れなければならない。
ならば、限界まで頑張らなければ。
当のクラウス様は、そんなマルガレーテの姿をぽーっと眺めているだけだったけれど。
「クラウス様」
マルガレーテは犬の姿のクラウス様に話しかけた。
「……ワウ」
はっと意識を戻して、律儀に返事をしてくれるクラウス様。
犬の意識と人間の意識が半々くらいだろうとイグナーツ先生は言っていたので、きっと簡単な説明ならわかるだろう。
そして、わかるのならばクラウス様にも理解した上で解呪するべきだと思ったから、マルガレーテはゆっくりとした口調で言い聞かせるように言った。
「これから、クラウス様に私の魔力を入れて、クラウス様にかけられた魔術を出来るだけ消します」
「ワウ?」
クラウス様は、そうなの? とでも言うように首をかしげた。
もしかしたら、まだあまり細かな事情は理解していないのかもしれない。
でも、もしも万が一、魔力の放出がうっかり限界を超えて失敗したら、マルガレーテは死んでしまうかもしれない。そんな可能性はゼロではない。なにしろ初めてやることだから。
だから、マルガレーテはクラウス様に伝えたい言葉を今伝えようと思ってさらに口を開いた。
「どこまで消せるかはわかりませんが、全部消せるように頑張ります。でももしも私が失敗して、その結果死んでしまっても、後悔はしないでください。私は、私の意志でやるのです。私は、クラウス様を、元にもどしたい。だから、頑張る。わかります?」
「ワウ! ワウワウ! キュウ……」
クラウス様は、びっくりしたように返事をした。そして不安げに鳴きはじめた。
キュウウ……キュウン……。
なのでそんなクラウス様に、マルガレーテは優しく語りかける。
「大丈夫ですよ。一応保険はかけました。何かあっても最後はこの指輪が止めてくれると信じます。だから、きっと大丈夫」
「クラウス、大丈夫だ。マルガレーテを死なせはせん。もしも倒れたら、その瞬間に私がこのルルベ液を浴びせるように飲ませると約束しよう」
王妃様がそう言って、小瓶の栓を開けた状態で待機するように身構えた。
「意識を無くして王妃様が飲ませられなくても、私が直接魔力をマルガレーテ様に注ぎましょう。なに、私の魔力が枯れることはありませんよ。もしもの時は私がその液を飲めばいいのですから」
そう言ってイグナーツ先生も、マルガレーテの王妃様とは反対の横に来た。
そしてマルガレーテは両手をクラウス様の方に差し出して言った。
「クラウス様、さあ来てください」
でも、なぜかクラウス様は不安そうにして、近づこうとはしない。
10
お気に入りに追加
654
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる