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呪いを解く1

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 体中を満たしている豊かな魔力は、昔は関知できないものだった。
 でも今は。
 イグナーツ先生に教わって、そしてたくさん練習した成果でその存在を感じることができる。
 温かくて力強い、私の魔力。

「おお……まさしく素晴らしき『レイテの魔女』です。姫……なんと美しい……」

 イグナーツ先生がまぶしいものを見るようにしながら呟いた。
 マルガレーテにはあまり自覚はなかったが、その時マルガレーテの黄金の瞳は大量の魔力を反映してキラキラと金色の光を放っていた。

「ほう、これが本来の『レイテの魔女』か。なかなか迫力がある。ではこの離宮に来たときにはもう、魔力を随分と削がれていた状態だったのだな」

 王妃様も感心したように言った。
 王妃様がこの離宮で初めて見たときのマルガレーテの瞳は、これほどの金の光を放ってはいなかったのだ。
 
 ということはきっと、この国に入ってから王宮で謁見をし、そして魔力の判定をされて離宮に居場所を移す間にも、沢山の悪意のある魔術に触れてしまっていたということなのだろう。
 でもマルガレーテには当時その自覚は全くなかったから、もしかしたらあのまま王宮で過ごし続けていたら、あっという間に弱ってしまっていたのかもしれないとマルガレーテは今更ながらに思った。

 あのままあの第二王子と婚約をしていたら。
 そうしたら今頃は、どうして弱っていくのかもわからないうちに、魔力を枯らし果てて死んでしまっていたかもしれない。

 でも、ここに来れた。
 そして、王妃様やクラウス様と一緒に元気に生きている。
 それはマルガレーテにとってとても幸運だった。。

 今マルガレーテは、自分の魔術の威力が増したであろう事も感じ取っていた。
 そっと魔力を制限する王妃様からもらった指輪の上に手をかざした。

 今までは、少し開閉するだけしか出来なかったけれど。
 今、マルガレーテが指輪に魔力を入れてその魔力を通す道を開くと、するすると魔力の通り道が限界まで開いたのだった。

 そして魔力の残りが少なくなって魔力の流れる量が減ったら、即座に道を最小に閉じる魔術を重ねがけする。
 きゅうっと、そしてすっぱりと。

 イグナーツ先生がマルガレーテのかけた魔術を感じたようで、目を見張って無言で驚いていた。

 でも、クラウス様の呪いとも言える魔術を解くには大量の魔力が必要なのだ。おそらく。
 今までの、かけられた魔術が抵抗を始めても、それさえも吹っ飛ばせるくらいの大量で勢いのある魔力を一度に入れなければならない。
 ならば、限界まで頑張らなければ。

 当のクラウス様は、そんなマルガレーテの姿をぽーっと眺めているだけだったけれど。

「クラウス様」

 マルガレーテは犬の姿のクラウス様に話しかけた。

「……ワウ」

 はっと意識を戻して、律儀に返事をしてくれるクラウス様。
 犬の意識と人間の意識が半々くらいだろうとイグナーツ先生は言っていたので、きっと簡単な説明ならわかるだろう。
 そして、わかるのならばクラウス様にも理解した上で解呪するべきだと思ったから、マルガレーテはゆっくりとした口調で言い聞かせるように言った。

「これから、クラウス様に私の魔力を入れて、クラウス様にかけられた魔術を出来るだけ消します」

「ワウ?」

 クラウス様は、そうなの? とでも言うように首をかしげた。
 もしかしたら、まだあまり細かな事情は理解していないのかもしれない。
 
 でも、もしも万が一、魔力の放出がうっかり限界を超えて失敗したら、マルガレーテは死んでしまうかもしれない。そんな可能性はゼロではない。なにしろ初めてやることだから。
 だから、マルガレーテはクラウス様に伝えたい言葉を今伝えようと思ってさらに口を開いた。

「どこまで消せるかはわかりませんが、全部消せるように頑張ります。でももしも私が失敗して、その結果死んでしまっても、後悔はしないでください。私は、私の意志でやるのです。私は、クラウス様を、元にもどしたい。だから、頑張る。わかります?」

「ワウ! ワウワウ! キュウ……」

 クラウス様は、びっくりしたように返事をした。そして不安げに鳴きはじめた。

 キュウウ……キュウン……。

 なのでそんなクラウス様に、マルガレーテは優しく語りかける。

「大丈夫ですよ。一応保険はかけました。何かあっても最後はこの指輪が止めてくれると信じます。だから、きっと大丈夫」

「クラウス、大丈夫だ。マルガレーテを死なせはせん。もしも倒れたら、その瞬間に私がこのルルベ液を浴びせるように飲ませると約束しよう」

 王妃様がそう言って、小瓶の栓を開けた状態で待機するように身構えた。

「意識を無くして王妃様が飲ませられなくても、私が直接魔力をマルガレーテ様に注ぎましょう。なに、私の魔力が枯れることはありませんよ。もしもの時は私がその液を飲めばいいのですから」

 そう言ってイグナーツ先生も、マルガレーテの王妃様とは反対の横に来た。

 そしてマルガレーテは両手をクラウス様の方に差し出して言った。

「クラウス様、さあ来てください」

 でも、なぜかクラウス様は不安そうにして、近づこうとはしない。
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