泡沫の欠片

ちーすけ

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波状攻撃爆散

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ゆっ君は、更に楽しそうに言い募る。
「清牙に、不細工な骸骨言って、殴り飛ばされて、歌えなくなった慰謝料払えって、騒いでた事もあったよね」
まあ、そう云う事も、あったんだよね。
なんとなく、予想は出来ていた。
不思議は無いくらいに、バチバチだったし。
だが、それを、笑顔で楽しそうに言うゆっ君が分からない。
「現場いたの?」
「どっちもテレビ出る前の、小っちゃいライブハウスの対バンで、desusaizが歌う前に清牙に喧嘩売って、売られた清牙が飛び出して即行ボコって、ツーバンだったのに、一切歌わずに乱闘で終わって、会場は盛り上がった不思議ライブ。見るだけだった俺は結構面白かったけど、歌無しだからね。相当大変だったらしいよ、兄貴達が」
ケラケラ笑うゆっ君に、溜息マー君。
マー君は主催者側の関係者だったので、大変だったと。
「清牙」
言いかけて止める。
清牙に言うだけ無駄。
「健吾君? なにやってたの?」
「いませんでした」
それはもう、仕方ないね。
って云うか、マー君?
「止めなかったの?」
「他の仕事してて、始まって気付いて、双方回収はした」
まあ、そう云う事もあるよね。
相変わらず、物理暴力担当なのが、マー君らしいけど。
「謝り倒しで、返金対応とか、もう、しんどかった。二度と、この2組は一緒にしないって、業界の鉄板になっている」
「「「ぶふっ」」」
笑っちゃ、いけない。
いけないけど…。
「清牙もまあ、少しは大人しくなったって事だよね」
今は一応、煽られてそのままステージで大乱闘は、流石に、ねぇ?
ほら、そうしちゃうと、自分が歌えなくなっちゃうから、清牙でも我慢することを覚えたのよ。
しみじみ、清牙も成長するんだよねと頷いていたら、慧士君が苦笑い。
「清牙さんとあの人が仲悪いのは分かったし、あの人があり得ないってのは分かったんですけど、ジャイゴは昔自分がいない時に、あの人がSPHYに喧嘩売ったのが気に入らなくて、積もり積もってで、警察沙汰で、大々的にあの人本気で潰しにかかったって事ですか?」
そうじゃ、無いんだよねぇ。
これだけ聞くと、そう聞こえるよね。
でもさあ、そう云うのはSPHYが売れてしまえば、最高の報復になる訳で、わざわざ健吾君が、色々画策してまで、手を回すほどの案件ではない。
そう云う相手、絶対に、他にもいるだろう。
正直、毎回こんな事してたらキリがない。
何より、最大の敵意を持つ清牙の古巣すら、基本放置してた健吾君が、その程度のいざこざで、本気で報復なんて有り得ない。
健吾君を見れば、薄っすらとした笑顔浮かべてだんまり。
それを受けて、舞人君は溜息。
「どうせ、美凉華を売女のイロ呼ばわりしたのが、気に入らなかったんだろ。それで俺ら使うなよ」
舞人君の呆れ顔の言葉にも、健吾君は笑顔。
お願いだから、少しは否定して下さい。
「ミズカって?」
玲央君の言葉に、舞人君は溜息。
「希更の姉ちゃんで、女優の鈴鹿。若手美人女優。あのデブ、美凉華がかなりの好みだったけど、何言っても、金バラ撒いても、自分には連絡先どころか、近寄れもしない。呼び出しなんてありえない鉄壁。なのに、俺らと仲良しなのが気に入らないって、俺らに喧嘩売って、清牙と駆郎が暴れて、まあ、面倒だった」
ただファンだっただけではなく、本気で呼び寄せて、手を出そうと何かやってたの?
美凉華、完全に未成年。
事務所も周りも、そら、絶対に邪魔するって。
自分達への飛び火が、なにより怖いし。
それこそ、健吾君が本気で犯罪者として一度潰しとくかと動く程に執拗に?
あれでもまだ、懲りてなかった訳?
思わず健吾君を見ればにっこり。
またもや、答えてくれる気配は無いけれど、コレは、何かしらあったのが間違いないらしい。
「実際に何かしてきて、いい加減目障りだったんで、一時退場狙った?」
ニコニコ。
絶対、そうだ。
「馬鹿だよね。大金払って失敗して、追い打ちで健吾に釘刺された時点で、有り得ないって、諦めてれば良かったのに。さらに追い打ち犯罪。それも、貴重な、自分のスポンサー様に、伝手に、地元大々的に巻き込んでの、自滅大事件とか、ないわぁ」
ゆっ君、内容の割に、ごっつ笑顔だからな?
って云うか、地元なら、家族もいるだろうに。
やらかしたそれ、一族郎党迄巻き込んでるんだろうけど…考えなかったんだろうね。
いつ、どのタイミングでdesusaizの名前が出てくるかは知らんけど、今日のフェス中止騒ぎは、結構なニュースになっているらしい。
そこに関係性がぶちまけ…ぶちまける準備だって、健吾君が間違いなくやっている。
大きなニュースとは被らない、徹底的に責め立てられるタイミングを狙って。
そうなれば当然、一族郎党、親戚ってだけで、石投げられるレベルじゃない?
普通、家族だけは…とか、お世話になってる大恩人だけは…なんて、当たり前の感情すら、最初からなかったとか?
もしくは、頭の良い人に、社会的立場や権力ある大組織に、上手いこと転がされて乗せられて、地元実家まで含めて、狙って潰されたのかもしれない。
逃げ場を拠り所を、完全に潰す形で。
「恐喝脅迫に器物破損。名誉棄損。ストーカー行為に、女性蔑視からの犯罪教唆。フェスだけでなく、それまでの隠ぺいしてきた犯罪行為も、一気に出るだろうし。これ、やり手弁護士付けても実刑だな」
呆れ顔のマー君に、ポテチ顔にくっつけた清牙が一言。
「でも、すぐ出てくる」
嫌そうな清牙の言葉に、私も溜息。
こちらの世界は、特殊だからねぇ。
有り得ない犯罪犯しても、普通に実刑受けても、また業界でお仕事出来るのよ。
ほとぼりが冷めたら。
薬物依存の過去があっても、億稼げる世界。
結果が全てだから。
反省してる、その犯罪を経たからこそ、悟るモノがあった。
これからは…と、全面強調。
良い人が軽犯罪犯した時の責め具合が半端ないのと同じで、悪人がちょっとまともな事をすると物凄く良い人に見える不思議って奴、なのかもしれない。
確かに、健全に、心機一転で、真面目になる人も、いるのはいる、んだろうけど。
陰でコソコソ、より狡猾になって、悪質に継続するゴミ屑だっている。
犯した罪は、結局は残るんだよ。
なにしても、完全には消えない。
まあ、犯罪者の作った曲や歌に、その姿に、もう二度と共感出来ないし、姿見るのも許せないって方も大勢、いるにはいる。
だけど、人間は良くも悪くも、忘れちゃえる、生き物な訳で…。
そんな過去があるなんて知らなかった、と…それで終わり。
どんな過去があろうと、売れている間は自分達の為に、マスコミ関連は仲良く口噤んで、知っている人だけがニヤニヤでやり過ごすくらいには、特殊で根性ドブ色世界。
バレたりどっかがすっぱ抜いた後に、そんな事実を把握し損ね…って言い訳並べるのだ。
どんなに大きな、有名処でも。
結局は、まあ人間って、その時の大きく目に見えて聞こえているモノ以外、どうでも良くなるんだよ。
それだけの、インパクトって、その時の、その結果も大きいんだけど。
だけど、だ。
「SPHY頑張れってとこじゃないの?」
「あ゛あ?」
清牙、お腹空いてきて機嫌悪い?
食べてきた、筈なんだけど…。
清牙、怒ったり歌ったり、慣れないまま頭使うと、燃費が阿保みたいになるから。
まあ、歌うつもりで全然歌えなくて、元々の機嫌も悪かった訳で。
帰ってみたら、子供達と仲良く鍋食べ切っており、参加出来ず。
その後消化不良で追い出され、戻って来てのこの、不愉快話。
清牙じゃなくても、機嫌も悪くなるさ。
だけど、だ。
分かり易い、清牙に出来る報復も、確りあるじゃん。
「SPHYが売れれば売れる程、周りが忖度して、あのデブ、使わなくなるよ」
まず間違いなく、これが公になれば、年単位で活動は出来ない。
執行猶予か実刑かはよう知らんけど、今まで聞いた内容考えれば、ノルマ終えて、即活動って、訳にもいかんだろうしね。
そして復帰するにしても、その時のSPHYの人気によっては、あのデブは公には参加出来ない。
歌番組だろうが、フェスだろうが。
あのSPHYにやらかした、のをわざわざ使う?
そのメリットは?
清牙が臍曲げて、出演自体を断ったり、二度と出ないと言い出したら困る。
そこまでして使う必要ないだろ?
どうしてもって言うなら過去曲ちらっと映像…音だけ流しとけよ。
いや、それでも、清牙が嫌がるかもだから、無しでよくね?
そうなるだろう、人気と実績、これでもかと積み上げとけば良いのだ。
駆郎君辺りも言いそうだよね。
実力で叩き潰すって。
駆郎君ってば、穏やかそうに見えて、清牙に負けないくらいな俺様部分あるし、健吾君には及ばずとも、結構腹黒だし。
そして、それを匂わせてお仕事受ける健吾君。
間違いなく、敵認定した時の対応は、清牙以上に厳しいのが健吾君だ。
「ふふっ」
そしてなぜか、笑い出した玲央君。
「希更の曲が、売れても、だよね」
ああ、そう云えば、そうか…。
実の姉ちゃんのストーカーで、身内が完全被害者。
散々貶めて、無い事無い事喚いた迷惑犯罪者のデブ。
その上、ゆっ君がちょっと調べれば出てくる様な、レイプ話に、ミーも巻まれかかっていた、と。
未遂とは言え、言い訳が出揃っている。
そいつ出す局は有り得ないとか…希更は言わないだろうけど、まあ、局は忖度する。
希更を管理する事になる健吾君が、それを関係各所に徹底的に匂わせる。
そうなれば、希更が関連するところに、間違ってもdesusaizが使われる事は無い。
希更の曲が売れちゃうと、出演なんてとんでもない話に、なる可能性も、有り?
「って云うか、鈴鹿自身でも、忖度されるんじゃ?」
夏芽君の笑いながらの突込みに、私と舞人君に健吾君の、皆で溜息。
「ミーは、そう云うの気にしいだから、直接聞かれたら「大丈夫ですよ」って言っちゃうんだよ」
ドラマスタッフとかに、世間話的に何気なく「鈴鹿さんはdesusaizさんはアレですよねぇ?」とか聞かれちゃうと、自分の我が儘では強く言えないと云うか、なんか色々言わてされかかったみたいだけれど、実害無いしとかで、ドラマ制作とか今後のお仕事とか事務所とか、私やSPHYのこと気にして、「(直接会うことがなければ)大丈夫ですよ」くらいは言うのだ。
それを良いように解釈するのが、大人のやり口な訳で。
それをされちゃうと、ミーだって、自分で言った事だし…と、我慢しちゃうだろう。
テレビ局とかがそれなら…と、調子に乗った結果、どうなるかなんて目に見えている。
ミーは我慢しても、それを清牙は絶対に許さない。
清牙に、我慢なんて単語、コンマ単位だしね。
当然、頭のイイ人の記憶力は良いので、やられたことは忘れない。
健吾君が、何をするかは分かりません。
清牙は精々、その決定出した人がいる局の歌番組には出ないだろうし、製作のドラマに係わる事もしない…ぐらいだろうけど。
「そこは、セキタプロと共有して、徹底しますので」
あ、もう、色々準備が始まっている。
後は実行、結果のみ。
つまり、今回のフェス中止はもう、出来レースだったと認めちゃう訳ですね。
まあ、笑顔で肯定してたのも同意だった。
この先の展開もある程度、出来上がっている、と。
よっぽどの奇跡が起きない限り、再開はないかな。
合っても、潰されそう。
desusaizには同情出来る要素が全くないので、どうでも良いと云えば、どうでも良いけど。
「健吾。じゃあ、あのデブ周り、もうちょい弄っても、問題ないよね?」
にこやかな悪魔の言葉に、健吾君は笑顔。
「あなたが身バレしなければ」
「そんなへましないって」
まあ、ゆっ君がバレれば、SPHY関連って分かるだろうから。
にこやかな腹黒と頭脳派の視線の会話にげっそり。
そこで食べカスだらけの清牙に腕を引かれる。
「楓、なんか作って」
やっぱ、そうなるのね。
まあ、清牙がお菓子で腹が膨れる筈がないのだ。
「お好み焼きで良い?」
「僕も食べる!」
玲央君?
貴方、今日は食べ過ぎだと思うんですが?
「俺のが減る」
「いや、清牙。この時間に炭水化物、いい加減にしろよ」
舞人君の言葉にも不貞腐れ。
よっぽど歌えなかったことでご機嫌斜めらしい。
それを本日は食欲で消化しようとしているのか?
迷惑な。
「豚肉どっさりに焼きそばも入れてやるから、しばし待て」
さっき、塩野君、沢山、買い出ししてくれたから。
キャベツ少な目で広島風?
具材は完全手抜きで行く。
「暴挙だな」
舞人君の呆れながらの言葉。
普通の人からすれば、ね。
だけど、清牙、無駄に動くから。
消費カロリー無茶苦茶だから。
燃費も、馬鹿みたいに悪いし。
「早く! 今すぐ!」
完全に駄々っ子だなと立ち上がる。
「楓さん、余裕あるなら僕にも下さい」
そして胃拡張夏芽君も、参戦。
こんな夜中なのに…思いながら料理をする羽目に。
ただ、清牙の食べ散らかしは、私が料理している間に、健吾君達が片付けてくれた模様。
まあ、清牙は出来るまで私の周りをうろちょろしながら邪魔してた。
正直、子供達以下です。
そして健全な慧士君は、玲央君が希更に近付いて余計な事しないように、早々に希更の横を塩野君と仲良く陣取って就寝へ。
何でも無い日だった筈なのに、長い一日になった。
いや、まだ終わってないんだけど。
清牙達に夜食作って片付けなければ。
後、明日の朝ごはんの用意も。
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