泡沫の欠片

ちーすけ

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波状攻撃爆散

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朝一公演とは言っても、開催後の中日、前日夜ギリ入り。
リハはリモートで、どこぞのスタジオで既にやっていたらしい。
昨日のは、最終的な打ち合わせメインの、リハ的ななにかだったとの事。
なので、一応開場前に軽く立ち位置確認くらいでの、かなり、いきなり、本番。
本ステージで、本日の開始挨拶告げてからの、あっちこっちステージ開始。
集客見込めるSPHYはやっぱり、本ステージになっており、客を呼びたい、朝一だけでも、夜ラストだけでも参加しておきたいなどの特殊枠の客に応えるべく、朝一ラストという、結構なスケジュール。
地蔵対策とか色々言われてるけど、SPHYの場合、参加時間が限られたお客様の要望と、どうしても見たいお客様の要望の折衷案、らしいけど。
まあ、当然、公演の合間には、フェス関係や地元関係だののインタビューが入るので、全部待ちでは、ないのだけども、一日は長い。
それを気持ち良く言う為にも、朝一公演を綺麗に終わらせなければならない。
流石にこの現状…。
ストーカーに、命までは狙われてないと思いたいが、結構な危険要素がぶっこまれているので、大人しくしてようかなぁと思っている私に、娘さんが我が儘ぶっぱ。
「会場から見たい。ダメ?」
首を傾げる本気のおネダリに、駆郎君と舞人君が渋い顔。
「袖からじゃダメなの?」
「護衛付けても、会場はヤバいんだって」
「そう、なのかな? SPHYのファンの人、皆親切だよ」
牙の奴らは、完全下僕だからね。
当然、SPHYの可愛がっている妹分のお姫様に、デレデレになる事はあっても、攻撃性を持つ事は無い。
ある意味、SPHY自身より、大人な精神層がファンなので。
いつもの、ライブハウスでのSPHY限定のライブなら、まあ、確実に牙しかいないから、安全性が高いんだけどね。
規模が違い過ぎる。
いつものライブハウスの集客人数の百倍、下手したら千倍になるのだ。
フェスの会場として開放している以上、中に、牙以外が紛れる事も仕方がないのよ。
まあ、混ざれば無茶苦茶目立つけど。
混ざってるにしろ無いにしろ、いるのか、ストーカー?
私と希更が必ず会場入りするとは、普通思わんよね。
襲撃直後だし。
安全性確保の絶対安全域を確保するなら、ブース。
それじゃ可哀想だから袖。
って云うか、SPHY本人達も、希更の可愛い応援は欲しいので、袖鑑賞奨励。
ただ、正直、見るなら、袖より真正面だよねぇ。
まあ、牙もいるし、なんかあれば、すぐに分かりそうだし、行けん事は無いけど、どうよ?
そんな思いの中、夏芽君は元気に発言。
「攻撃許可出るなら、僕と兄ちゃんで行けるでしょ。開場正面から見るママは、ファンの中でも人気ですし」
え?
「そこで私なの?」
「鈴鹿もやっぱり人気ですよ。美人なので」
まあ、それは分かるんだけどさぁ。
「俺は動けない。別所と塩野が行くなら、どうです?」
なんだかんだと、希更に甘い、ウチのメンバー。
それは勿論、社長から護衛組、裏方スタッフ迄含まれる。
そこで、どうでも良さげに清牙が言い放つ。
「まあ、何かあったら、ステージ降りればイイしな」
あんた、何する気ですか?
限られた範囲と人数の、テレビ収録の時とは、訳が違うのです!
大人しく歌ってて下さい。
「夏芽、手加減はしろよ」
そこで嫌そうな浅見さんの言葉に、不安しかない今。
心配されるのは、あくまでも攻撃してくる、相手、なんですね…。
「大丈夫ですよ。最後尾で、いつでも逃がせる体制取りますし」
「まあ、塩野が盾になれば」
塩野君、やっぱ、そう云う扱いになっちゃうのね?
そのまま、会場観戦許可が出て、会場締め切りギリギリでの移動。
スタッフ扱いなので、閉めだしされた人を横目にごめんなさい。
そこで、最後尾、なぜか、健吾君に手招きされる。
何を予測して、待ち構えていた?
いつの間に来てた?
なぜ、来るにしても、そこ!?
そして目にする、とても不思議な…いや、間違いなくの…。
「若い、ユウちゃんがいる…」
希更の暢気な言葉に、言われた本人が顔を顰め、隣にいた金髪に近い美少年?
線の細い、とても綺麗な顔立ちの男の子が、ゲラゲラ笑いだす。
「佑ちゃんとか、ホントに、呼ばれてるし!」
まあ、あんな大御所をちゃん付けする小娘は、まあ、世に、希更1人だけだと思われる。
「それにしても、勿体無い」
そこで美少年は目を眇め、まあ、いつもの視線を私は受ける訳だ。
胸部一点集中。
「普通、そこは、サイズの小さいTシャツでしょ」
見た目に反して、この子、お馬鹿かも。
「それは、盛ってる人がする、胸部を強調する為の手段の一つで、本当にデカいと、逆に出来ないんです。胸で入らないので。他は余裕があるのに、胸だけで引っ掛かるんです」
健吾君?
朝から喧嘩売ってるんなら、買おうか?
「腕やら首やら余裕あって緩く見えて、胸はみっちり、横に皺入って伸びてるでしょ。それで、太ってるように見えやすいんです。オーダーメイドでもない限り、適正サイズになりません」
そんな説明いらねぇよ。
なんの、解説だよ。
「直に見たいなぁ」
「玲央」
そこにかかる掠れた声は、もう間違いなく…。
「ユウちゃんだ」
「希更」
あんたがそれ言う度に、どう見ても、稲本様そっくりな少年が顔顰めてるだろうが。
「健吾君、どう云う事?」
まあ、聞かんでも分かるけど。
「昨日、貴方達が飛行機に乗った頃連絡がありまして、合流すると。自分も移動なので、序に連れてきました」
え?
「話、展開、早過ぎませんかね?」
「夏休みで退屈なんで」
イヤイヤ、金髪美少年よ。
君の顔、何か、良からぬこと考えてそうな顔ですけど?
清牙よりは可愛い系の美形で、だけど甘さよりきつさを感じる、男の子。
多分、駆郎君と変わらない身長。
日本人としては、まだまだ成長しそうな、年齢考えても確実に高身長になりそうだけど、清牙より低い。
いや、奴より高いのはアスリートぐらいなので…。
いや、アスリートの中にいても、普通にデカいんだけど。
バスケやバレー選手に普通に混ざれるし。
とにかく、可愛らしい感じがするこの子からは、松葉様の要素が全く見られない。
いや、目元はそうやって見てみれば、似ているのかも?
眼の色まで、コンタクトではなく、日本人にあるまじき赤みがかった紅茶色だけど。
それでいて、もう1人の子が、完全に稲本様なんですよ。
まあ、稲本様よりは小柄。
背も低ければ筋肉もなく、全体的に、薄いし可愛い。
幼い顔立ちだけど、間違いなく、ウン十年前の稲本様と言われれば、納得してしまいそうなルックス。
声も、一瞬だったけど、ハッとするほどそっくりだったので、まあ、間違いようもない。
どこかの専門モノマネの人らより、よっぽど声も似てるし。
「ウチの娘の為に、ご足労頂きまして、申し訳ない」
「いえいえ。天下のSPHY袖にして、ウチの父親達に蕩けた巨乳女優とか、早く会いたいでしょ」
ああ、もう、この子、良い性格し過ぎである。
「袖にはされておりません。ELseedに時々流されているだけで。まあ、流され過ぎて、正体不明になっているだけで」
余計なお世話である。
「夏芽…には言うだけ無駄か。塩野、別所。人数は増えるが、こっちは護衛慣れしている。楓さんよりマシな筈だ。とにかく、公演終わって、ブース迄間違いなく連れて戻れ」
「「はい」」
まあ、それしか出来ない返事だよね。
「慧士」
その言葉に、稲本様のそっくりなお子様は、背中に抱えていたギターケースを健吾君に渡し、それを受け取った健吾君は会場外に。
「おっぱいが上田楓さんで、そっちが希更ちゃんね。今日は宜しく」
にこやかな美少年の笑顔に、希更は首を傾げる。
「誰?」
「ELseedの松葉の息子」
「あ、ギターのオジチャン」
「ぶふっ」
息子様に、腹抱えて笑われてますよ?
まあ、普通に、あの方を、オジチャン呼ばわりする小娘も、日本国内、早々に、いないんだけど。
「希更だよ。宜しくね」
そこで上がる爆歓声もものともしない、業界に慣れてしまった勘違い小娘。
「あっ、セイちゃん出てきた。セイちゃんは、自分がステージに出てる時、ちゃんと見てないと、ホントに怒って、面倒臭いからね。ちゃんと聞いてあげてね」
まあ、その通りなんだけどね。
金髪の美少年、さっきから腹抱えて笑って、本気で、苦しそうなんですが?
「ってか、あの顔、何?」
ぼそりと、稲本さんボイスで喋らないで。
「楓さん。叩くなら自分じゃなくて塩野に」
別所さん、結構冷たい。
「って云うか、既に、清牙さん睨んでるんですが?」
夏芽君、そう云う仲間内説明いらない。
て云うか、いきなり「キシャアアア」はない。
それもマイク無しで、響く響く。
「清牙さん、絶好調ですね」
アレがそう見える、夏芽君が素晴らしい。
目を眇めた駆郎君がギターを鳴らし、舞人君がドラムを叩く。
揺れる清牙が、なんか睨んでいるのは、気の所為、だと、思いたい。
「会場内異常無し。ステージ超不機嫌です、どうぞ」
定期連絡らしい夏芽君の余計な一言に気が抜けつつ、始まったライブを楽しむ。
「まあ、歌えば、カッコいいんだよ、清牙も」
「今は顔が腫れているのでアレですが、清牙さんは見た目もかなり良い筈ですよ」
「筈じゃなくて、見た目と歌だけは良い」
夏芽君も別所さんも、言いたい放題…皆様、普段から結構しているし、今更なのか。
一発目は万人で盛り上げる為か、鬼森第1シーズン主題歌。
フェスだから、珍しくアニメバージョン。
私、オリジナルのが好きなんだけど、これはまあ、牙じゃなくても盛り上がる。
オープニングと同時に、客の歓声が轟音となって弾ける。
それに負ける事なく流れる歌声。
あの顔で、よくその声出せるなと、不思議でならない。
まあ、3日前には、もっと酷い顔で普通に歌ってたんだけど。
それ以上に、あの清牙の顔に、客が何の反応も示さないのが怖い。
多分、ネットとかで事前情報知ってたからだよね?
そうである事を祈る。
そんなの気にならないぐらい、アレは、昔であれば日常だったとかは、知りたくないので。
そんな客もそうだけど、観客の顔見えて、自分らの事大好きなファンの前で煽られて、ノリノリで歌う時の清牙の楽しそうな事。
ホント、無茶苦茶ご機嫌だ。
すんげぇ楽しそうに一曲歌い切って、清牙は煽る。
「歌か? 歌うか!?」
「「「「「歌」」」」」
ノリが分からなきゃ意味不明だけど、多分、もっと聞きたいなら声を出せと言いたい模様。
獣は時々、日本語が不自由になる。
そのまま復活飾った曲に移り、ここでなぜか、恵子さんに提供した筈の曲へ。
へ?
ここでそれ歌うの?
って云うか、キーが違うから、曲の雰囲気から全然違う。
姐さんのはゴスペル調でカッコ良かったのに、そこで唸るんかい。
恵子さんへの提供曲なら、清牙のキーでも普通に歌えそうなのに、低く落としてくるとか、珍しい事やりやがったと思ったところで、なぜか『鈴百合』に。
当然キーは下げて来てるんだけど、それでも、タテの高音生かした曲だよ?
普通にキー下げただけじゃ、まとまり悪くなるだけで、アレンジも相当に入れているらしく、リズムが桁違い。
最早、別曲か…。
タテの時は可愛く高らかに、泣きたくなるほど清廉だったのに、なぜ、ダカダカ先走って、エロくなる?
清牙には、歌をエロくしか出来ない呪いがかかっているのか?
今までにない選曲からの定番に戻り、車CM、アニメ曲と移る。
そして清牙は叫んだ。
「駆郎、行け!!」
そこで流れるELseedの『幻惑』に、意識がよろめく。
お前、何考えてんの?
それも、アレを更に、超スローテンポに激改変とか、原型無くなっとるわ!!
いや、まあ、状況的に、無許可はないだろう。
けど、阿保なの!?
そして何より、確実に、稲本さんよりエロい。
通り越して卑猥だ。
無茶苦茶誘ってるその歌に、目眩がする。
なのに、なぜ、女性台詞差し込みで叫んだ?
そこで一瞬私を見た牙の皆さん。
私は何も聞いてません。
なんの予定もありませんからね。
つーか、ラップ、エロ過ぎないか?
そして重要な女性台詞、完全、すっ飛ばし。
そんなの感じさせない、歌詞は変わらない筈なのに、お前、卑猥だろ?
馬鹿なの?
歌い切って、奴は汗まみれで笑顔。
「夜は曲変えるぞ。来るよな」
そこに溢れる野太い声に、満足そうに頷いて、奴はホラー映画の曲で締めくくった。
なんか酷く疲れた気がする。
「ふっ、ははははっ、馬鹿なの!?」
美少年が壊れてます。
「ううう゛」
小娘、涙目でジタバタ暴れて大興奮。
別所さん、希更だと素直に叩かれてんのね。
扱いの差が大き過ぎます。
まあ、良いんだけど。
「セイちゃんも駆郎君も、舞人君もカッコいい!!!」
ですです。
分かるから落ち着きなさいと、私からは逃げた癖に、希更には叩かれまくってる別所さんを尻目に、溜息を吐く。
「あのバカ。嫌がらせか」
それがカッコイイとか、最早、どうすればイイのか?
そんな中、公演終わってぞろぞろ出ていく観客もあれば、こちらをチラチラ。
中には「ママ、無事で良かった」と声をかけてくれる牙の方もいる。
それにありがとうと返して、まばらになってからやっと、会場を出る。
「このままイートインとかに逃げちゃダメかな?」
「清牙さんが鬼の形相で、汗まみれで抱き着いてきますよ」
夏芽君の笑顔の言葉に負けた私は、素直にブースに帰る事にしました。
お子様達いるし、それしかなかったとも、云うけれど。
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