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踏み躙られてこそ花は香る
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しおりを挟む人間は、とことん図太く生きられるものらしい。
「楓。起きて着替えて顔洗え」
清牙に揺り起こされるまで、ぐっすり眠りこけていた自分の図太さにびっくり。
「リビング、浅見いるからな」
シャワーを浴びたてらしい清牙が、クローゼットを開け、なんかをぬりぬり。
「清牙?」
「序だから背中塗ってくれ」
なにを?
そのまま普通に起きようとして、首の後ろの重さに引き戻され、ベッドに逆戻り。
何でと、疑問に思うより先に金属の擦れる結構重いジャラ着いた音に現実を思い出した。
「やっぱ、現実…」
「寝ぼけてんの?」
寝ぼけるとか、なくないか?
「清牙さん、首が痛い」
「そのうち慣れるだろ」
「慣れたくないんですが!?」
「うっせぇなぁ」
そう言って、清牙は首から引っ張り出したネックレスの先の鍵を取り出して、私の首に差し込む。
そしてカチャンと言って革が緩んでやっと、重みから解放される。
「それで楓、背中」
「お前も苦しめ!!」
ベッドに落とされた首輪を清牙に回すが、上手く嵌まらない。
「あれ? これ、どうなってんの?」
「バックル通して、そこに鍵かけるんだよ。不器用だな」
そう言って自分で通して鍵かけて、そしてまたもや引っ張った鍵で開けて外して、鎖付き首輪ベルトをベッドに放り投げた清牙。
なんか、違う。
大きく、違う気がする。
「楓。日焼け止め、背中塗ってくれ」
いや良いけど。
渡された薬瓶的な液体を取って、清牙の背中にぬりぬり。
清牙の肌は、完全に白人種寄りなので、日焼けすると火傷になるらしい。
肌が弱い訳ではないのに、直射日光避けなければならない骨骨ロック言ったら、どつかれそう。
「これさぁ、いつもはどうしてんの?」
「自分で濡れる範囲だけで終わるしかねぇだろ」
ですよねぇ。
流石に、迎えに来てくれた浅見さんや別所さんに頼んでいたら、面白いと思うし。
サラサラのベージュのスラックスに、肌が透けて見えそうなオレンジシャツを着た清牙は、サングラスをかけてから髪を緩く三つ編みにする。
色素が薄い清牙は、眼も直射日光に弱い。
お洒落ではなく、本気で防御策なところが、全くその性格言動に似つかわしくない。
そんでもって今日は、撮影関係の仕事はないらしい。
三つ編みにすると跡になるので、メグさんに怒られるので普通はしないし。
でも、夏場は暑くて髪まんま後ろに流しているとうっとうしいので、何とかしたいとか何とか言いつつ、どこに行くにもお車での送迎移動。
無駄に丈夫な清牙だが、直射日光には結構弱い。
暑いのも嫌いだ。
そう、苦手とか弱いではなく、嫌い。
ただ単に、無駄に暑がりなだけ。
体力はあるので、熱さでへばる姿を見たことがない。
腹減ったはよく見るが。
余程の事がない限り、梅雨以降は冬まで、外を歩きたくない、基本歩かない清牙に、日焼け止めが本当に必要なのかどうかは、結構な疑問ではある。
フェスとかになると、もう、普通に日焼け止め塗ったくらいではどうにもならないレベルだろうし。
なので昼出演の時は結構気を遣って貰ってるとか何とか。
直射日光直は、色々手が入るとか何とか?
でも結局は、暑い暑い言って、室内でほぼ裸、らしいし。
「楓。着替えないなら首輪嵌めるぞ」
やだ。
何言ってんの、この人?
まあ、首輪をまたもや嵌められるのは嫌なので、パジャマを脱ごうとして止まる。
「アンタ、何してんの?」
「脱ぐの見てる」
わざわざかけた、サングラスずらして迄?
馬鹿なのか?
いや、馬鹿だった。
「出てけ」
「今更じゃね?」
「今更じゃねぇだろうが!!」
お前に素っ裸見せた事はねぇわ!
散々服破られたり捲くり上げられたりこねくり…結構、色々されてんな。
最早、紙一重なのか?
いや、その紙一枚は、確実に越えたくない。
越えるのは違う。
越えちゃいけねぇ。
「サッサとしろよ」
「分かったから出てけ」
「おっぱいは、まだ生で見てねぇのに」
阿保なの?
生じゃなくても見せた覚えはねぇ。
生じゃない見せ方って、映像?
その方がよっぽどねぇよ!!
昨日に続き、今日は阿保なの!?
そんな軽い怒りを流して、扉が閉まり、清牙の姿が消えたのを確認してから、さっさと着替える。
ベッドの足元に置いてあったのは下着一式と、ノースリーブに3wayワンピースにジーンズ。
やっぱ、パンツから着替えるの?
シャワーも浴びてないのに?
いや、まあ、ブラとショーツは基本セットなので、そう、なるんだよね?
って云うか、本日のブラショーツも、清牙が選んだのか?
そういう指示?
まあ、女子力って面倒臭いなと思いながら着替え、着ていたパジャマで夜用下着を包んで抱えて寝室から出れば、夏でも黒服の浅見さんに頭を下げられた。
「おはようございます」
「おはようございますって言うか、浅見さん。普通の人は、ベッドから伸びた鎖に、繋がったりはしないと思うんですよ」
「おはようございます」
なるほど。
余計な会話は聞かなかったことにする方針か。
塩野君だと困ったり、なんか目が泳いだり、突っ込みどころがあるのに。
浅見さん手強い。
って云うか、清牙の下僕度が上、なんだろうなぁ。
清牙が絶対。
それ以外は、まあ、支障のない範疇で。
「楓。良いから顔洗え。ネットもコットンも使えよ。脱いだのは籠に放り込んどけ」
なぜに、そこで乙女指導入るのか。
まあ、ネットの泡立ちも違うし、手で叩き込むよりコットンの方が、肌には優しいんだろうけどさぁ。
そんな、昨日からの、人としての在り方に疑問を抱きつつ、顔洗って出すもん出して、がっつり清牙に腰抱かれてのお外。
と言っても、エレベーター乗って横付けされた車に、ちゃっちゃと乗り込んで終わりですが。
そのまま警察署に連行。
私用にと、車にコンビニサンドイッチに野菜ジュースがありました。
まあ、昨日の今日だしね。
外食は予定変更した模様。
清牙はお仕事があるので、どこかの安い早い系の店で朝ご飯食べた後、タクシーに乗り換えるらしい。
普通に清牙仕事送ってから…ああ、私の安全優先なのね。
なんか、結構な大掛かりになってる事に驚けば良いのか、慄けば良いのか?
浅見さんのフォローの元、警察とのオハナシです。
既に、健吾君のリストは警察に渡っていて、ここのところの細かなスケジュール移動とか、怪しげなストーカーリスト顔写真付きとか、見せられて困惑。
細かく確認されるんですが、答えられない。
当然、健吾君が作成した、私の部屋にあるだろう私物リストだって、あやふやだ。
どこで買って幾らだったのかなんて、覚えていませんよ?
そしてそれが本当にあったかも怪しい記憶でしかなく?
どこに置いてあったか?
そんなン、知らんがな!
そのまま、人の顔写真見せられても、ですねぇ…。
健吾君が提出したストーカーだとか言われても、知らない人ばっか。
いや、3人くらいは、なんか見覚えがあった。
スーパーレジ打ちしてた時のお客さんで、結構近くで見てたから。
日に2・3回来ることあるし、こっちの質問には一切答えないのに、無言でこっちじっと見てから帰るので、顔だけはなんとなく覚えていたのだ。
それくらいしか、記憶にありません。
1週間前の移動経路とか言われて、覚えているとでも?
昨日仕事前に寄った、コンビニの住所だって怪しい。
いや、駅前にあれば、その駅住所だって普通に思うだろ?
だけど微妙な区画整理で、住所がコンビニ内で切り替わってたりするとか、只昼飯の買い物に寄ってるだけの人間は知らんがな。
そこで聞かれる、自分の御勤め先のスーパーでなぜ買わないのか?
そんなもん、昼時スーパーで買い物なんてしてたら、貴重な昼休みが半分になるからだよ。
お願いだから、緊急性の無い買い物を昼間にするのは止めてくれ。
コンビニ難民節約難民が、怒涛で押し寄せるのだ。
そこで空気が全く読めない、会計機から動かず日常会話展開させたがる暢気者は、なぜか、スルー。
本人にではなくレジ店員に怒りが向く。
さっさとしろ、早くしろ。
介助なりなんなりして、前の奴さっさ終わらせて、俺のも終わらせろよ、と。
思うのは勝手だが、自分で出来る人間に余計な手出しすると、分かってるって、逆切れされんだよ。
会話ぶった切ると、あの店員聞いたことにも答えず感じ悪いって、拡大誇張表現で店にクレーム電話してきて、延々1時間電話切らないんだよ。
とにかく、会計は速やかに終わらせて帰れ!
大人しく自分の順番待てや!
いや、今はそんな話ではなく…。
歩いて道の途中の横道とか、ポスト位置言われてもですね、よく覚えてないんですよ。
そこに、いた人の顔なんて覚えていません。
塩野君凄い記憶力だよね。
これ、塩野君の提出している移動経路込みの報告者を基にの、質問なんですよ。
つまり、塩野君はこれらの質問内容をきっちり文章にまでして、把握している訳で。
まあ、それがお仕事なんですけど、ポスト位置まで正確な移動経路って…最早地図では?
あ、ポストって、人が立って、別のことしてる振りに丁度良い置物なんですか。
知らんがな、そんな事!
そして私の知らない間に、私の面識の無い、直属黒服3人以下の下僕君達が、私の部屋の前や郵便受けの荷物を定期的に確認していた現実。
なんか、プレゼントが置かれている事が、あったらしいですね。
全部事務所指示で回収の上、処分厳重保管して、提出迄されているそうですけど。
その頂いた事実を、私が知らんし。
なので、答えようがない。
とにかく、質問が細かい。
終わりそうにないので、一旦昼休憩。
食欲なんて起ころう筈もなく、浅見さんの好きなのを聞いたのに、安全面からか、警察署目の前の喫茶店になりました。
全部食べられそうになかったので、またもやサンドイッチにしたら、浅見さんが大きな溜息。
ごめんね、残り押し付けて。
そのままコーヒー飲んで、またもや事細かな記憶発掘作業。
当然あやふや。
学生生活以来の久方ぶりの宿題、お持ち帰りです。
質問状は、健吾君に押し付けちゃえば良いんだけど。
私より明確に確実に短時間で、回答出してくれる筈なので。
各種書類は、健吾君と云うか、事務所付きの弁護士さんに確認してからサインして提出になるとか。
一応は、今日で、私の警察お伺いは終わりらしいけど。
後は健吾君と弁護士さんで、何とかなるらしい。
ヘロヘロになったところで浅見さんに運ばれたのは、駆郎君のお家でした。
玄関前には塩野君が待ち構えており、玄関開けて清牙がお出迎え。
腕掴まれての連行は、どうなのか?
そして通されたリビングで、青褪めた希更に睨まれています。
あちゃー。
まあ、言うよね。
言われるよね?
「えっと、舞人君も駆郎君もお疲れ」
多分、今、まとめて事情説明がなされたのではないかと…。
皆様?
目付きが怖いですよ?
なぜに、美咲さんは泣いているのかしら?
「清牙、アンタ、ちゃんと説明は出来たの?」
「説明は、健吾がした。健吾はお前と入れ違い」
うわぁぁ。
「えっと、心配せんでも、私の身体には何ら、問題はなく…なくもねぇな」
思わず零れた言葉に、我慢の限界だった希更が突っ込んでくる。
「カエちゃんの馬鹿馬鹿馬鹿!!!」
ギューギューに抱きつかんでくれんかな?
まあ、無理だよね。
話聞いた…。
「どこまで話したん?」
「健吾がきっちり、事実だけ説明してったぞ」
舞人君の言葉に背中がヒヤリ。
「え? 首輪の話も?」
そこで、空気が凍った。
「自分は、塩野と一緒に、外の確認に行きます」
そして浅見さん逃げる。
塩野君を見捨てなかった精神は、偉いとは思う。
え?
もしかして、そこの話はしてない?
間違いなく、墓穴を掘り深めた瞬間である。
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