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怒涛の催事
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しおりを挟む完全な、SPHYバックヤードブースの到着までは、やたらに目立った。
なにしろ、私は清牙にがっつり左腕を掴まれ、右腕にはミーがしがみ付き、希更は清牙のシャツの裾を掴んで小走り状態。
天下の芸能人様ご一向には、ちょっと…な、組み合わせは、嫌でも目立つ。
清牙に子供、バランス悪過ぎである。
いや、希更は身長だけ言えば成人女性くらいはあるので、ぱっと見は、そこまでお子様お子様してはいないのだけど。
フェス最中に、女3人引きずる清牙。
普通に考えて、絵面は良くない。
まあ、清牙の素行の真偽はともかく、普段からあまり宜しくないらしいので、そう言う意味では驚いてなさそうだけど、連れの女が、如何にもな素人感に合わせて、良く見れば、子供、だからね。
清牙が女連れ?
あれ誰?
一般人じゃね?
到頭、一般人まで手を出したの?
それに、後ろの未成年って云うか、完全に子供じゃね?
ヤバくない?
そんな声が聞こえそうな空気を突っ切り、SPHYのエリアに入れば、私達の周知が行われているのか、なぜかほっとしたような顔で見られた。
清牙、単純にも荒れてた模様。
独自ブースだからか、そこまで居心地は悪くなかったんだけどさ。
別の意味で視線も集まっている。
なぜに、今?
早く来いよ、的に。
「もう、心配したよ。逃げたんじゃないかって」
と言って、小走りで息を乱す希更を回収してミーを促す駆郎君は、本日も若干黒目。
ライブ前の興奮かしら?
嫌だわぁ。
「姐さんも懲りねぇなぁ。別に、開始前に他見て回るぐらい、言ってから行けばいいのによ」
そう笑いながらお茶を用意してくれる舞人君だけが、いつもと、あまり変わらない気がする。
「希更が、なかなか起きなくて時間が足りなかったんだよ」
これは本当。
余裕があれば、ここに寄るか、連絡入れるくらいはした。
その後戻ってくる予定はなかったが。
昼飯呼び出しも、「気が付かなかったの。時間が押したから直接行くね」で誤魔化す気満々でした。
実際は、SPHYじゃなくQEENBEを見に行ってるんだとしても。
でもまあ、SPHYの下僕達に完全に顔バレしてる時点で、そんな下手な嘘は通じないことは分かった。
それが知れただけでも重寵である。
下手な言い訳するぐらいなら、潔く真実に胸を張ろう!
ごめん、他所優先しちゃった…と!
清牙の機嫌はどうしようもないけど。
後の事はその時任せじゃ!
大丈夫、娘さん達、なんでか、思いの外、清牙と相性がイイみたいだし。
一緒に遊ばせておけば、機嫌もそれなりに戻るだろうし。
そんな事を考えていたら、清牙は自分の席らしきパイプ椅子に座り、目の前に健吾君がお弁当を並べていくのを睨む。
なぜかその間も、私の腕はとられたままだが。
「飯」
腕を解放され、でーんと座って口を開ける清牙様。
食わせろと?
まあイイけどと、お手拭きで手を拭ってから手近にあった丼…ロコモコにスプーンを突っ込んで、清牙の口に運ぶ。
でっかいお口なのは、沢山食べる食べる為なのよね。
だけど、だ。
「口、横」
飯粒ついてるのは気にしないらしい。
良いのか、芸能人?
「あー」
早く食わせろと?
お腹空いてたんなら、うちら待たないで、バックヤードの方のご飯食べてれば良かったのに。
「カエちゃん、何してるの?」
希更の眉間に、皺が寄ってます。
答えたのはモグモグ清牙。
「体力温存」
意味が大きく違う。
「ご飯、自分で食べるコトも出来ないのに、この後歌うの?」
「今、エネルギーチャージして、歌うの」
バチバチの子供視線よ。
つうか、上演一時間前切った状態で、ご飯、食べた事ないなぁ。
上映会の時でさえ、そんな心の余裕、なかったし。
慣れなのか、清牙様だからなのか。
そして天下の清牙様は、丼秒殺です。
当たり前に差し出されるのはローストビーフ丼。
健吾君、貴方、何してるのかな?
「ジャイゴに、食べさせてもらえばいいと思う」
そうだね。
次の丼用意するくらいなら、そっちのが早くて効率的。
「野郎は断る」
コテンと首を傾げる娘さんの可愛い事よ。
ご飯食べさせるのに、男も女もないだろうに…とでも思っているのだ。
希更の目にはコレ、介護として映っているのだろうから。
これ、嫌がらせですからね?
「希更もミーも、さっさと食べな」
私を待っていたら、次の移動が間に合わない。
「セイちゃん、手痛いの?」
自分でご飯を食べないのは、どこかしらの不調があるのかもしれないと、ちょっと不安になってきた模様。
結果、カトラリーすら持てない程の不調との結論に、至った模様。
だがな、希更よ。
体調不良の人は、次のロコモコに取り掛からないからな?
カツサンドをチラリとして、顔を背けたりもしない。
カツサンドでは、腹の足しとして不十分だった模様。
「パンは、オヤツなんだよ」
「ご飯だよね?」
「飯じゃねぇ」
「お昼、ご飯だよね?」
「オヤツだ」
日本語の筈なのに、全く、会話が噛み合っておりません!
目敏く…この会話の流れ的に、あまりそうだと感じたカツサンドを持ってきたミー。
「カエちゃん。食べて」
ちゃんと手を拭って差し出されるのはまあいい。
だが、絵面がおかしい。
ふんぞり返る清牙の口にご飯を運びつつ、ミーに差し出されるカツサンドに噛みつく私。
「カエちゃん、今日はまだ、食べてないでしょ」
「食べた」
「飴もコーヒーもご飯じゃないでしょ。倒れるよ?」
希更よ、余計な事言うな。
「お前、もう、うろちょろすんな」
ほら、結構清牙は細かいんだから。
いや、違った。
お優しいのだ。
心配性だから。
「水分はとってたでしょ」
「暑い日は、お茶じゃなくてスポーツドリンク持ってきなさいって」
学校で指導入ってるらしいねぇ。
昔はお茶持って行くのにさえ、許可が必要だったのに。
「暑い中、良く食えるな」
清牙よ、特に。
「食わなきゃ死ぬ」
その通りだね。
この炎天下の中、ようやる。
ステージ、ライト直下だからね。
直射日光とあらゆる放射熱で、本当に死にそうになるだろうし。
ってか、ここは涼しいけどね。
エアコン扇風機フル活用で、清牙が独占。
「寒いんだけど?」
「どうぞ」
と、健吾君から差し出されるスタッフジャンバーはいりません。
絶対に、受けとりません。
着たら最後、確実に呪われるブツだし。
「希更、カモン」
ミーよりもお子ちゃま体温の希更の方が熱い。
カツサンドをもぐもぐさせた希更が胸に飛び込んで…私の方が身長が低いので、おかしな体勢になっている。
「カエちゃんひんやり」
「ふーん」
清牙?
そのまま引き寄せると、希更と私が団子でアンタの膝の上なんだが?
「希更、お前熱い。邪魔」
「なんで、そう云う事…」
何かを言いかけた希更は、当然の如く人の胸を鷲掴んでいる清牙の腕に噛みついた。
「だあああ!」
一瞬で離されたけれど、希更は私の身体を離さず、私ごと地面へ。
そして耳元でガルガル唸っております。
「信じらんない! ナ…信じらんないっ!! 最低! ばかばかばか!!!!」
「おまっ、普通噛みつくか!? 見ろよ、この歯形!!」
筋張ってほっそりした腕に燦然と輝く歯形。
色気も糞もない、コメディである。
「もおぉぉぉっ! ばかばかばか!!」
私に抱き着いて怒るの止めてくれないかな?
希更、熱いんだけど?
そしてしばらくして沸き起こる爆笑。
笑ってないで、誰か助けろ。
「来るな!!」
「いかねぇよ!!!」
「最低!!」
「何がだよ」
清牙の精神年齢は、時々落ちるよね。
冷静な時は高めなのに、総合すると低くなる、不思議。
「希更、あんま興奮すると熱出るよ。落ち着け。まだ、帰りたくないだろ?」
「だぁっで」
あ、泣き出した。
「「清牙」」
そして上がる、非難と云うか、呆れる声は駆郎君と舞人君。
「希更ちゃん、そんなとこ座ってないで、ね」
「んんん。セイちゃんが」
「アイツは、あそこから動かないからな」
「カエちゃんは、私のだもん」
「ちょっと待て!」
「「黙れ、清牙」」
綺麗に揃ってましたね。
でもまあ、芸能人様が、子供の泣き愚図りにオロオロする姿は結構面白い。
「ほら、希更。落ち着こう。トイレでも行こうか」
「あ、私もいく」
自己申告したミーを引き連れ、案内されるがままトイレに向かうと思いきや、私に抱き着いていてグリグリしていた希更がおもむろに顔を上げた。
「カエちゃん、今のうちだね」
見事に、涙跡一つない。
そっか、やっぱウソ泣きだったか。
希更は、人前で泣くの、絶対嫌がるから、おかしいと思っていたのだ。
「お前、策士だね?」
「とにかく、今行かなきゃまた捕まっちゃうよ! QEENBE行くんでしょ?」
「BERIDEまで、行けるかな?」
希更の好きな韓流な。
ちょっと間が開くし、微妙だな。
顔バレして、情報筒抜け。
健吾君がどう動くかが問題である。
流石に、清牙を野放しにはしないだろうけど、奴が荒れたら、どう動くかまでは、分からん。
下僕達総出の捜索にもなりかねない訳で。
「じゃあ、私ら、他所廻りますんで」
ここまで案内してくれたスタッフさんに手を振り走る。
「あ」だの「お」だの言ってはいるが、清牙のような強硬確保は出来ない模様。
走り抜けて、エリア受付の人達に、ぎょっとした顔されたけど、知らんがな。
ただ、言わせていただきたい。
炎天下の全力ダッシュはやっぱ、年齢的にそろそろ限界です。
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