泡沫の欠片

ちーすけ

文字の大きさ
上 下
21 / 78
怒涛の催事

しおりを挟む



やっぱイイ。
あの、超高低差、裏声高音域で音量下がるかと思えば、無茶苦茶力強い。
どんな喉してるんだか半端ない。
鳥肌立って、大満足と、そのままの勢いで娘さん達連れて走る。
そのまま、満杯会場外枠で、遠くに見える、汗に濡れて歌う清牙の姿。
俺様な癖に、歌う時は本当に繊細に、言葉一つ一つを抱きしめるように歌う。
丁度終わりかけのバラードに、掠れる様に静かに…唸ってシャウト?
「そんな曲違いますやん」
シャウトいらない。
何が高ぶった?
あ、なんか、目が合った気がする。
「今日の最後、刻め」
そんな煽る清牙のぎらついた笑いに、野太い声で会場が揺れる。
叩き付ける、感情の言葉の羅列に、来た来た、コレコレと、どんどん心臓が走り出す。
引き摺り出されるように引き上げられて、清牙の声だけで世界が広がる。
たった数分の世界が、叩き込まれて、ちょっと降りてきそうにない。
「明日、覚えとけ」
ふふんっと偉そうに笑って、袖に引っ込んでいく清牙に、会場がまた揺れる。
なんかゴチャゴチャとした声と興奮が冷めきらないまま、会場がどよめくだけで全く動かない中、深呼吸して娘さん達を見れば、笑って会場から引き離される。
そのままイートインエリアに連れられ、隅でお茶を一服。
「ホント、歌ってる清牙カッコイイ」
「それ、本人に言わないの?」
ミーよ。
そんな当たり前の事、聞くではない。
「ギター弾いてる駆郎君、カッコイイ」
「舞人さんもカッコよかったよ」
だよねぇ。
奴らの普段を知っているだけに、ステージ上の姿が半端ない。
特に、フェスだと豪華なセットも衣装も仕掛けもないから、歌だけの勝負。
いや、SPHYは元々、ライブだろうがテレビだろうが、凝ったことしないで歌だけなんだけどさぁ。
「テレビでもやっぱ、抜群に歌が上手いじゃん」
他が下手というか、音楽番組はやっぱりアイドル割合高いからねぇ。
アイドルの後とかに聞くと、何かしてても動き止まるもん。
なんか、意識した訳でもないのに、気が付いたら普通に、じっと、ただただ、聞いてるし。
「声、綺麗、だよね。でもでもっ、駆郎君の指、物凄く速く動くの! なんか足もすって動いてて、やっぱカッコイイ!!」
そう、なんだよね。
駆郎君全身であれこれ動いてるのに、動きがホントスマートでバタバタしてないから、何となく何気なくやっているように見えて、カッコイイのよね。
実際は、タイミングがコンマ切ってる神感覚なんだけど。
自由人と神業をまとめ上げてリズム叩きだしている舞人君もまた、半端じゃない。
なんだかんだと、3人共凄いのだ。
ライブ中の姿は問答無用でカッコイイ。
それだけは間違いない。
「二人とも、好きなら最初から見れば良かったんじゃないの?」
イヤイヤ、美凉華君。
カッコは良いのだけどね。
正直、SPHYのライブはこの先でも大丈夫。
酔っぱらいつつ鼻歌歌ってる清牙の生声だって普通に聞いてるし。
希少度とタイミングを鑑みれば、今押さえておかなければならないのはSPHYではない。
「QEENBEのギナちゃんのあの超高低音差、今聞いとかないと」
アレはとんでもない技術と努力の匠の技。
だけど、あれ、喉の負担、半端ないモン。
「後5年後に同じクオリティで聞けるとは、ちょっと思えないんだよねぇ」
女性ボーカルに割と多いが、超高音で歌っていて、10年後にはキー下げ捲くり、見る影もない人って、結構いるし。
誤魔化せてでも歌えている技術はまあ、凄いけど、やっぱり、全盛期ってあるんだよ。
CDなんかの記憶媒体なら聞ける。
そうじゃない、生での大迫力は、そこにしかない訳で…。
生で聞けるチャンスがあるなら、それが限られているなら、そっち優先したくなるじゃん。
こんなオバサンは、そんなに頻繁にフェスなんてこれないもの。
年齢的に、色々考えちゃうしなぁ。
「失礼ね。10年後は、更に上行ってるけど?」
なんか聞いたことあるような声がすると後ろを見れば、小顔に帽子にフェスTシャツにジーンズの、オーラ半端ない人が立っている。
「止めてくれ」
これ以上の、そっち関係、いらないから。
軽く帽子を上げて唇を舐めたその方は、お化粧はされていないけれど、つい先ほど見た方で。
「希更黙れ」
私の言葉にさっと、希更の口を塞いだミー偉い。
「本当に失礼ね。初めまして、の筈だけど?」
それ以外の何物でもありませんが何か?
なんで、この人、当たり前に、私らの席に座ってきて、炭酸水飲んでるのかしら?
気が、遠くなりそうなんですが?
「ちょっとね。お願いがあったのよ。ジャイゴ通したら即拒否食らってね。まあ、清牙なんでしょうけど。ここに来てるって情報聞いたから、出来れば直接お願いしちゃおうかしらって思ったのよね」
嫌です。
なんだか分からんが、勘弁してください。
「それにしても、こっちの子もいいわね」
そしてなぜか、一応は口を解放された、ぽかんと大口開けた希更の顎に伸びた手を、何かが走り込んで叩き落した。
そのまま、希更が椅子ごと後ろへ。
「未成年!!」
ついさっきまでステージにいた、駆郎君が、なんで、イートインスペースくんだりまで来ているのか?
あ、なんか、終わって直後走ってきたんだなって分かる格好である。
全身汗まみれで、思いっきり肩でハアハア言ってるし。
だが、椅子ごと抱えた希更は下ろさず確保。
何しに来たのかも聞きたくないけれど、まあ、大きな誤解がありそうななさそうな?
っていうか、流石フェスに喜び勇んで着ているお客様。
駆郎君の存在に気付いているらしく、視線が集まってます。
自称存在感のない男。
芸能人オーラなんてないからねと悲しげに笑う駆郎君に。
「とって食いやしなわいよ。ただ、ちょっと、弄ったら面白そうかなって」
何をどうする気か、聞きたくないが、駆郎君は即答だった。
「面白くない!」
「そんなこと「ないからやめてくれ。ウチの王子に殴り飛ばされんぞ」」
そこにかかる疲れた舞人君の言葉に、ギナちゃんはやっと溜息を吐いて立ち上がる。
「ちょっと、監視キツ過ぎない?」
「ウチの専属と姫に手を出そうとするからだ。もう断った話だろうが」
「はいはい。ママ。気が向いたらうちの事務所に連絡頂戴ね。そこの「しない! ないから!!」」
なんか、駆郎君の威嚇に面倒臭そうに余裕で手をヒラヒラさせた、一般人にはないボディラインのお方が歩いて行く。
これ、なんなんでしょう?
「希更ちゃん。あれは、最重要危険物だから、見たら叫んで本気で「逃げたら喜んで追ってきそうだよな」」
なにそれ、怖い。
でも、絵的には納得出来そう。
清牙に並ぶ色物判定だもんね、あの人。
笑顔で、猛スピードで追ってくるその姿だけで普通にエロ怖い。
それを想像したのか、イートインスペースの折りたたみ椅子ごと、希更を大切に抱きしめる、駆郎君の姿。
ちょっと異常。
まあ、あの清牙の一番古くからのお友達でお仲間なので、多少の異常性はまあ、仕方が無かろう。
だが、後日ロリだのペドだの言われても、私は知らん。
私がさせたのではない。
どのような理由があろうとも、自発的だ。
「本当に、本番直後の疲労困憊の人間に労働させんでくれんかな? 姐さんよ」
それ、私の所為じゃないし。
だが、本番直後に全力疾走だったっぽい駆郎君はお疲れ様である。
「希更、ミー。ホテル戻るぞ」
舞人君の言葉に、なぜか希更は首まで真っ赤にして何度も頷いている。
「希更、BERIDEは良いの?」
頷いて首を振る。
何をどうしたいのかはさっぱり分からない。
「BERIDEなら、明日もある。連れてってやるから、お願いだから、ホテルで大人しくしてろ」
溜息交じりの舞人君のお言葉。
なんか、色々降り積もって大変らしい。
だがしかし、なぜに私の名前が出ないんですかね?
「姐さんは清牙の子守だ。あいつ、まだこの後インタビューあるから」
ええぇぇ?
全員で仲良く受ければ良いじゃん。
私は娘さん達と他を…ミーに思いっきり首を振られました。
刺激するなと。
その時の私は色々あり過ぎて、言葉のやり取りの重要性に気が付けてなかった。
言葉の一つ一つを大事に受け止めることの重要性。
後になって気が付いても、遅いのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...