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怒涛の催事
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しおりを挟むやっぱイイ。
あの、超高低差、裏声高音域で音量下がるかと思えば、無茶苦茶力強い。
どんな喉してるんだか半端ない。
鳥肌立って、大満足と、そのままの勢いで娘さん達連れて走る。
そのまま、満杯会場外枠で、遠くに見える、汗に濡れて歌う清牙の姿。
俺様な癖に、歌う時は本当に繊細に、言葉一つ一つを抱きしめるように歌う。
丁度終わりかけのバラードに、掠れる様に静かに…唸ってシャウト?
「そんな曲違いますやん」
シャウトいらない。
何が高ぶった?
あ、なんか、目が合った気がする。
「今日の最後、刻め」
そんな煽る清牙のぎらついた笑いに、野太い声で会場が揺れる。
叩き付ける、感情の言葉の羅列に、来た来た、コレコレと、どんどん心臓が走り出す。
引き摺り出されるように引き上げられて、清牙の声だけで世界が広がる。
たった数分の世界が、叩き込まれて、ちょっと降りてきそうにない。
「明日、覚えとけ」
ふふんっと偉そうに笑って、袖に引っ込んでいく清牙に、会場がまた揺れる。
なんかゴチャゴチャとした声と興奮が冷めきらないまま、会場がどよめくだけで全く動かない中、深呼吸して娘さん達を見れば、笑って会場から引き離される。
そのままイートインエリアに連れられ、隅でお茶を一服。
「ホント、歌ってる清牙カッコイイ」
「それ、本人に言わないの?」
ミーよ。
そんな当たり前の事、聞くではない。
「ギター弾いてる駆郎君、カッコイイ」
「舞人さんもカッコよかったよ」
だよねぇ。
奴らの普段を知っているだけに、ステージ上の姿が半端ない。
特に、フェスだと豪華なセットも衣装も仕掛けもないから、歌だけの勝負。
いや、SPHYは元々、ライブだろうがテレビだろうが、凝ったことしないで歌だけなんだけどさぁ。
「テレビでもやっぱ、抜群に歌が上手いじゃん」
他が下手というか、音楽番組はやっぱりアイドル割合高いからねぇ。
アイドルの後とかに聞くと、何かしてても動き止まるもん。
なんか、意識した訳でもないのに、気が付いたら普通に、じっと、ただただ、聞いてるし。
「声、綺麗、だよね。でもでもっ、駆郎君の指、物凄く速く動くの! なんか足もすって動いてて、やっぱカッコイイ!!」
そう、なんだよね。
駆郎君全身であれこれ動いてるのに、動きがホントスマートでバタバタしてないから、何となく何気なくやっているように見えて、カッコイイのよね。
実際は、タイミングがコンマ切ってる神感覚なんだけど。
自由人と神業をまとめ上げてリズム叩きだしている舞人君もまた、半端じゃない。
なんだかんだと、3人共凄いのだ。
ライブ中の姿は問答無用でカッコイイ。
それだけは間違いない。
「二人とも、好きなら最初から見れば良かったんじゃないの?」
イヤイヤ、美凉華君。
カッコは良いのだけどね。
正直、SPHYのライブはこの先でも大丈夫。
酔っぱらいつつ鼻歌歌ってる清牙の生声だって普通に聞いてるし。
希少度とタイミングを鑑みれば、今押さえておかなければならないのはSPHYではない。
「QEENBEのギナちゃんのあの超高低音差、今聞いとかないと」
アレはとんでもない技術と努力の匠の技。
だけど、あれ、喉の負担、半端ないモン。
「後5年後に同じクオリティで聞けるとは、ちょっと思えないんだよねぇ」
女性ボーカルに割と多いが、超高音で歌っていて、10年後にはキー下げ捲くり、見る影もない人って、結構いるし。
誤魔化せてでも歌えている技術はまあ、凄いけど、やっぱり、全盛期ってあるんだよ。
CDなんかの記憶媒体なら聞ける。
そうじゃない、生での大迫力は、そこにしかない訳で…。
生で聞けるチャンスがあるなら、それが限られているなら、そっち優先したくなるじゃん。
こんなオバサンは、そんなに頻繁にフェスなんてこれないもの。
年齢的に、色々考えちゃうしなぁ。
「失礼ね。10年後は、更に上行ってるけど?」
なんか聞いたことあるような声がすると後ろを見れば、小顔に帽子にフェスTシャツにジーンズの、オーラ半端ない人が立っている。
「止めてくれ」
これ以上の、そっち関係、いらないから。
軽く帽子を上げて唇を舐めたその方は、お化粧はされていないけれど、つい先ほど見た方で。
「希更黙れ」
私の言葉にさっと、希更の口を塞いだミー偉い。
「本当に失礼ね。初めまして、の筈だけど?」
それ以外の何物でもありませんが何か?
なんで、この人、当たり前に、私らの席に座ってきて、炭酸水飲んでるのかしら?
気が、遠くなりそうなんですが?
「ちょっとね。お願いがあったのよ。ジャイゴ通したら即拒否食らってね。まあ、清牙なんでしょうけど。ここに来てるって情報聞いたから、出来れば直接お願いしちゃおうかしらって思ったのよね」
嫌です。
なんだか分からんが、勘弁してください。
「それにしても、こっちの子もいいわね」
そしてなぜか、一応は口を解放された、ぽかんと大口開けた希更の顎に伸びた手を、何かが走り込んで叩き落した。
そのまま、希更が椅子ごと後ろへ。
「未成年!!」
ついさっきまでステージにいた、駆郎君が、なんで、イートインスペースくんだりまで来ているのか?
あ、なんか、終わって直後走ってきたんだなって分かる格好である。
全身汗まみれで、思いっきり肩でハアハア言ってるし。
だが、椅子ごと抱えた希更は下ろさず確保。
何しに来たのかも聞きたくないけれど、まあ、大きな誤解がありそうななさそうな?
っていうか、流石フェスに喜び勇んで着ているお客様。
駆郎君の存在に気付いているらしく、視線が集まってます。
自称存在感のない男。
芸能人オーラなんてないからねと悲しげに笑う駆郎君に。
「とって食いやしなわいよ。ただ、ちょっと、弄ったら面白そうかなって」
何をどうする気か、聞きたくないが、駆郎君は即答だった。
「面白くない!」
「そんなこと「ないからやめてくれ。ウチの王子に殴り飛ばされんぞ」」
そこにかかる疲れた舞人君の言葉に、ギナちゃんはやっと溜息を吐いて立ち上がる。
「ちょっと、監視キツ過ぎない?」
「ウチの専属と姫に手を出そうとするからだ。もう断った話だろうが」
「はいはい。ママ。気が向いたらうちの事務所に連絡頂戴ね。そこの「しない! ないから!!」」
なんか、駆郎君の威嚇に面倒臭そうに余裕で手をヒラヒラさせた、一般人にはないボディラインのお方が歩いて行く。
これ、なんなんでしょう?
「希更ちゃん。あれは、最重要危険物だから、見たら叫んで本気で「逃げたら喜んで追ってきそうだよな」」
なにそれ、怖い。
でも、絵的には納得出来そう。
清牙に並ぶ色物判定だもんね、あの人。
笑顔で、猛スピードで追ってくるその姿だけで普通にエロ怖い。
それを想像したのか、イートインスペースの折りたたみ椅子ごと、希更を大切に抱きしめる、駆郎君の姿。
ちょっと異常。
まあ、あの清牙の一番古くからのお友達でお仲間なので、多少の異常性はまあ、仕方が無かろう。
だが、後日ロリだのペドだの言われても、私は知らん。
私がさせたのではない。
どのような理由があろうとも、自発的だ。
「本当に、本番直後の疲労困憊の人間に労働させんでくれんかな? 姐さんよ」
それ、私の所為じゃないし。
だが、本番直後に全力疾走だったっぽい駆郎君はお疲れ様である。
「希更、ミー。ホテル戻るぞ」
舞人君の言葉に、なぜか希更は首まで真っ赤にして何度も頷いている。
「希更、BERIDEは良いの?」
頷いて首を振る。
何をどうしたいのかはさっぱり分からない。
「BERIDEなら、明日もある。連れてってやるから、お願いだから、ホテルで大人しくしてろ」
溜息交じりの舞人君のお言葉。
なんか、色々降り積もって大変らしい。
だがしかし、なぜに私の名前が出ないんですかね?
「姐さんは清牙の子守だ。あいつ、まだこの後インタビューあるから」
ええぇぇ?
全員で仲良く受ければ良いじゃん。
私は娘さん達と他を…ミーに思いっきり首を振られました。
刺激するなと。
その時の私は色々あり過ぎて、言葉のやり取りの重要性に気が付けてなかった。
言葉の一つ一つを大事に受け止めることの重要性。
後になって気が付いても、遅いのである。
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