泡沫の欠片

ちーすけ

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微妙な再開

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駆郎君最高。
あんな昔の曲に迄参入とか、彼は凄過ぎる。
毎日毎日聞いていたあの曲のあの部分を、駆郎君がとか…。
最高である。
なにせ、生演奏も聞けた。
本当に尊い。
どうやってお布施したらいいのかと聞けば、ひきつった笑顔で「いりません」と即答されたのは解せぬが、駆郎君は謙虚なのだ。
彼は謙虚で心正しいからこそ、あの方々の曲に参入。
本当に尊いと幸せを享受していた毎日も、何時しか終わりが来るのである。
糞爺や糞婆の暴言やボケっぷりを笑顔で流してきた日々も、許容範囲を超えるのである。
今日は芸能人様ではないが、笑顔な悪魔がっやってきた。
「いらっしゃいませ」
別に来なくていい。
って言うか、さっさと帰れと内心で強く思っていたとしても、定型言語は来店歓迎の言葉である。
「うん。まだご機嫌そう。カエは相変わらず単純だね」
うっさいわ。
幸せに生きて何が悪い。
「はい」
差し出されるのど飴。
それは良い。
だが、その上にある見覚えのあるような無い様なラミネート加工のネームプレート。
「スタッフ証って書かれていますが、落とし物ですか?」
「な訳ないよね。清牙からの召喚状」
止めろ。
恐ろしいモノを私に押し付けるんじゃねぇ。
「借りを返せって」
なんの借りじゃ!
「私、その為に東京まで行ったよね!?」
折角東京まで行ったのに、観光のかの字も見当たらず、フラフラのまま帰って、肌ボロボロにして!
心配してだろう呼び出しに、大人しく従って、真面目に協力したじゃん!!
「本当にね。大人しく打ち上げしていれば良かったのに、清牙のご機嫌損ねるから」
は?
「私、なんもしてないじゃん」
「そうだよね。何もし無さ過ぎ。PV打ち上げで、そのPV見もしないとか、普通有り得ない。アニキ、死ぬほど頑張ってたのに」
いや、ちょっと待て?
「あれは、駆郎君を称える会だった筈」
「そんなもの催した覚えはないね」
あれぇぇ?
「只でさえ我が強い清牙の前で他のVo褒め称えるとか、カエってばカッコイイ」
どうしよう?
全然、嬉しくない。
「そもそもが、カエって清牙の歌、まともに聞いたことないからの反応なんじゃないかって話で、一応の決着をつけたらしいよ?」
そんな決着いらねぇ。
「って云うか、普通に、テレビでもアニメでも、ドラマでも聞きましたが?」
昨日、医療ドラマの番宣始まったし。
「でも、生は違うでしょ?」
それはそうだ。
生ライブは最高である。
何よりの癒しと天国な空間。
だが、しかしっ!
「私、もうチケット買った」
初めて会った日に聞いた、フェスのチケットを。
呪いの召喚状なんていらないのである。
「なんで無駄なことするかな。兄貴か俺に言えば用意したし、今ここにあるし」
その、目の前にあるのものが、一番いらねぇ。
「タダで貰う理由がないってのが一番だけどさぁ、ウチの姪っ子達が拗ねててさぁ」
ここの所清牙達に振り回され過ぎである。
全然顔見に行ってなかったら、泣かれたのだ。
姪っ子達の「嫌いになった?」はキツイ。
忙しさにかまけて蔑ろにしてたのは認めるが、姪っ子達は無条件に可愛い。
遊んでと言われれば遊ぶさ。
ただ、生活の為働かなければならない。
加えて休暇は貴重。
結果、休暇の共有と相成った。
フェスに奴らの好きな韓流アイドルも出てたので。
「1人で行くのもなんだし、一緒に行くことにした」
「清牙を見に?」
「……まあ」
清牙はこっちが望んでなくても自分からやってくるので、どっちでもイイかなとは言わない。
ライブも、急がなくてもその内でいい気がする、とも言えない。
ぶっちゃけ、いつでも聞けるだろうしとかも、言っちゃいけない。
「カエ。今清牙が目の前にいたら、ブチ切れてるよ?」
ですよねぇ。
あの我が儘唯我独尊王子、自分が一番じゃないと気が済まない…アレ?
「もしかして、前回の飲み会で全く構わなかったこと拗ねてるの?」
「もしかしなくても、当然そうだよ」
笑顔で言い切られました。
「まあ、私は勝手に行って勝手に楽しんで来るから、これはお返しします」
そんな恐ろしげなものいらんと、スタッフ証を押し返すが、当然のごとく押し返されて、ストラップの部分で手をグルグルにされる。
「配達押し付けられた上に別再配送受け取れと?」
ですよねぇ?
笑顔が怖い。
「私は子守があるから受け取れません!」
「それは清牙に直接言いなよ」
絶対嫌だ。
そう言えば、最近話してないな?
毎日とは言わんけど、下らん電話がかかってきてたのに、トント…。
「もう、清牙の意識は他所に!」
「カエ。俺は帰るね」
酷い。
ぶった切られた。
振り返りもしないゆっ君に御座なりの「ありがとうございました」を告げて、手に残るスタッフ証を見る。
絶対に呪いの何かである。
だが、呪いの何かである限り、手放すことも難しく?
面倒臭ぇと思いながらもポケットに突っ込むのだった。
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