君は今日から美少女だ

文字の大きさ
上 下
8 / 8

買い物

しおりを挟む
「母さん、買い物はどこに行くの?」

「ショッピングモールよ。あそこなら専門店街もあって下着以外のものも色々とみることができるから」

 そこなら俺もよく部活の奴や友達と行く。映画館もあるし目の前にはカラオケやボーリング場もある。遊びどころとしては文句のない所だ。家から車で20分くらいなので近い。自転車だと道が混むこともないので30分ほどでついてしまう。

「まずは下着からよ。恵也なら市販品が入らないということはないはずだから買えるはずよ」

「特注じゃないと入らない大きさの胸なんてあるのかよ……」
「そうね、時々テレビに出てくるようなギネスに乗っている人の胸は市販品では無理だとは思う」

 確かにそうだは、それは例外的な人ではないのかと思うが、それを口に出すことはしなかった。


「この子にぴったりの下着をよろしくお願いします」

「分かりました。お任せください」

 店員は目を輝かせて断言したのだ。俺の周りには変な人しかいないのか。いや、友人たちはそうではないはずだ。少なくとも俺の知る限りはそんなことはない。だから大丈夫。

「は~い、手を挙げてください」

 俺は店員にされるがままに体のサイズを測ってもらった。以前図ったのはウエストくらいだ。その時は70センチは超えていたと記憶している。今回のサイズは……言わないでおこう。

「これは娘さんは立派ですねえ。このサイズとなるとこちらになります」

 娘さん……と言われた。これは俺に大きなショックを与える言葉だ。現実を否応なしに突き付けてくる。やめてほしいし嫌だが、これを止める手段は俺にはもうない。

「それじゃ、これとこれ、それに……」

 何を買うかは母さんにまかせた。俺にはどれを選ぶのが正解なのかまだわからないし、それでいいと思う。しかし一着だけ自分が欲しいと思った下着があった。水色のものだ。デザインはシンプルなものだが、一言でいえば大人らしいものだ。これを付けたら、なんというかすごくいい気がした。語彙力のない言い方だが、自分に合っているとしか思えない。

「恵也から欲しいなんて言う、下着があるなんて思わなかったわ。どういう風の吹き回しなのかしら」

「それは、そのいいじゃないか」

 自分でも顔が真っ赤になっていたと思う。

「と、とにかく俺のことはいいから次の店に行こう」

「……最近は色々と寛容になってきてはいるけれど、一人称はせめて人前では何とかしたほうがいいわよ。一人称なんて正式な場では『私』だけど、それ以外はなんだっていいはずなのにねえ」

 後半は母さんのボヤキだが、一人称は変な目線で見られることはごめんなので少し
 考えることにしよう。本当ならトラブル上等で使い続けることがいいのだろうが、あいにくと俺にはそんな度胸はない。

 俺と母さんはその後も買い物を続けた。母さんのチョイスでかわいらしい服もスカートも買った。俺はそんなものは必要なく、自分の体のサイズに合わせた服を買うだけで十分だったが、母さんはどうも違ったらしい。

「制服はどうしよう」

「買い物に行く前に学校に連絡をしたら、どちらの制服でもいいそうよ。男子の制服を着ていくにしても作りなおす必要があるわ。どうする? 女子の制服は結弦のがあるからいいけど、男子のも作りたいなら作ってもいいわよ」

 どちらでもいいというのは学校の配慮だろうか。なんにせよどちらでもいいというのはありがたい話だ。あれ、俺はどうして女子の制服を着ていくことも選択肢に入れているのだろうか。
 でも、明日はサイズの関係で姉の制服を着ていく以外に選択肢がない。まったく、憂鬱な話だ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

さくらと遥香(ショートストーリー)

youmery
恋愛
「さくらと遥香」46時間TV編で両想いになり、周りには内緒で付き合い始めたさくちゃんとかっきー。 その後のメインストーリーとはあまり関係してこない、単発で読めるショートストーリー集です。 ※さくちゃん目線です。 ※さくちゃんとかっきーは周りに内緒で付き合っています。メンバーにも事務所にも秘密にしています。 ※メインストーリーの長編「さくらと遥香」を未読でも楽しめますが、46時間TV編だけでも読んでからお読みいただくことをおすすめします。 ※ショートストーリーはpixivでもほぼ同内容で公開中です。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

処理中です...