全てを諦めた公爵令息の開き直り

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続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする

20話 アザレア第1王女

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カツンカツン、と広く静寂に包まれた礼拝堂の中を進む足音だけが響く。
その足音が止まったのは、その音を小さく響かせていた人物が、最前列の席の前まで来たからだ。

「アデル、貴方が希望したあの上巻の方、持ってきてあげたわよ。」
「さっすが、姉さん。ありがとう。」

広い礼拝堂の片隅に腰を下ろし祈りを捧げていたアデル殿下は、頭上から声を掛けて来た同母の姉であるアザレア第1王女に礼を言って、手渡された本を受け取る。
ニッコリと笑うアデル殿下とは対照的に、手渡したアザレアの方はやや不満げな表情を滲ませた。

「何なの?急に呼びつけて…。その本、特にお気に入りなんだから、あんまり長くは貸せないからね。」
「分かってる、分かってる。借りるつもりはないから。」
「え?じゃあ何で持って来させたのよ?」
「姉さんが好きなこの本の内容も交えて、共に語らいたい人が居るからだよ。」
「……アンタ以外に何処に居るのよ?そんな変人。」

自分の事は棚に上げて眉を顰める姉に苦笑しながら、アデル殿下はゆっくりと腰を上げた。

「まぁまぁ、姉さん。それが居るんだよ。……ほーら、噂をすれば。」

扉の外からギギギ…と音がして、アザレアと付き従って来ている彼女の侍女が共に振り返ると。

「遅くなりました、兄上。姉上も。」
「……ロレンツォ?」
「いらっしゃい。大丈夫、ちょうどこっちも今来た所だから。」

相変わらず柔和な笑みを向ける第2王子殿下とは異なり、第1王女殿下アザレア様は怪訝な顔をしておられる。

「下手に王宮内で会えば、周囲の貴族に無い事無い事吹聴されて面倒でしょ?だから姉さんにはこっちに来てもらったんだ。私ももっと深い話をしたかったし。」

そう口にしたアデル殿下は、ロレンツォ殿下の後ろに続く僕達の背後から顔を覗かせたジェラルドの方に視線を向けた。

「……え。貴方はエウリルスの使者様では?」
「はい。ジェラルド・シャンデルです。昨日、ヴァレンティーノ王太子殿下とロレンツォ第5王子殿下のお計らいで、アデル第2王子殿下をご紹介頂きまして……大変有意義な時間を過ごさせて頂きました。その折、私の好きな古代史の方だと、アザレア第1王女殿下の方がよりお詳しいと教えて頂き、是非、アデル殿下も交えて共にお話をさせて頂きたいなと思いまして…!」
「そうでしたの。なら、城でお声掛け下されば良かったのに。」

緊張しながら自己紹介をするジェラルドに、まだ何処か訝しんでいる様子のアザレア王女様だったが。

「姉上。王宮で直に言葉を交わせば、周囲からとやかく噂されて鬱陶しいだろう?ここなら、アデル兄上に会う口実があるから面倒も無くていいかと思って。」
「あら、ロレン……気遣いありがとう。でも、今更噂された所でねぇ…」

ロレンツォ殿下の言葉に対して、口調にキツさは無いが、若干皮肉交じりにアザレア殿下は答える。
微妙な空気が流れそうになった所で、パンパンッと軽く手を叩いたのはアデル殿下だった。

「はいはい、そーいう湿っぽいのはナシ。ねぇ、見て見てジェラルド!コレが昨日話してた東方域の神代列伝集。」
「……凄い!エウリルスでもなかなかお目にかかれないのに……っ!!」
「え。使者様、この本知ってらっしゃるの?」
「はい…!エウリルスの王宮の蔵書庫内で、一度だけ目にする機会があったのですが…なかなか気軽に出入り出来る場所では無いので、いつか読み込んでみたいと思っていたんです。うわぁ……うわぁぁ……!!」

アザレア様のお気に入りの書物を目にして、垂涎ものの感激だ!と狂喜乱舞するジェラルドと、その様子を実に満足げに頷き見るアデル殿下。
同じくその様子に嫌がるどころか目を輝かせて嬉し気な表情を見せるアザレア殿下と。
何かよく分からないけど、その道の人には堪らない一品なんだな~。と呆けた顔で見やる僕達と。
明らかに違う世界に迷い込んだような錯覚を覚えて見守っていたら。
気付けばジェラルドとアザレア様は、共に肩を突き合わせて早速本の内容で議論し始めている。

今日は何時間付き合わされるんだろう?
げんなりするロレンツォ殿下の横顔をチラリと盗み見たら、アデル殿下がこっそり耳打ちされていた。

「連日ありがとう、ロレン。興味ない話はつまらないだろう?今日はもう帰っていいよ。」
「でも、兄上。ジェ……使者殿に付き添わないと……。」
「帰りは姉上の馬車で帰ればいいよ。用心深い姉上だもの、護衛もしっかり付けてるみたいだから、大丈夫でしょ。」

この礼拝堂の中にまでは付いて来ていないが、僕らがこの中へ入る際、扉の前で騎士達とすれ違った。
それがアザレア様の護衛騎士達だろう。

いいのかな。と少し戸惑うロレンツォ殿下の背中を押して、アデル殿下は僕らを見送ってくれた。

「……アデル殿下のお言葉に従って、戻って来てしまいましたが、これで良かったんですかね?」

ただジェラルドをあの修道院に送って行っただけの形になって、帰りの馬車の中で尋ねた僕に、ロレンツォ殿下は腕を組んで考え込んでいたが、やがて。

「………アデル兄、狙ってやってる気がする。」
「?」

少し分かって来た様に呟く殿下に、僕もサフィルもピンと来る事が無く、ただ互いに顔を見合わせていたのだった。
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