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続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする

21話 お酒は飲んでも飲まれるな

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その日は一日中、広い礼拝堂を貸切る形でその場を使い、思う存分に語らったらしい3人は。
非常にご満悦だったそうだ。

あまり何度も何度も自分の趣味にばかり、かまけてはいられない。
三日目からは城下町の案内を受けたり、エウリルスとの交友を広める為にアデリートの主だった貴族と意見を交えたり。
とても真面目に使者としての仕事をこなしていたジェラルドだったが。
王宮内でアザレア様と顔を合わせると、笑顔で挨拶をしては、少し素っ気ない顔で彼女から返事を返される姿を何度と目にした。
第1王女であられるアザレア殿下は、いくら趣味が合うからと言って、それとこれとは別とばかりに、あくまでも王女と他国の使者としての態度を貫かれたが、対するジェラルドと言えば……。

「はぁ……。アザレア様……なんて素敵なんだろう。もちろん、その博学さには感嘆しか無いんだけどさぁ……。それをひけらかさないさっぱりした所も良いし、ちょっと自分の範疇外の内容になってしまっても、呆れず穏やかな顔で興味を持って下さるしさぁ……。」
「へー。でも、さっきはちょっと他人行儀なご様子だったね。」
「そのつれなさがまた良いんだよ!人目がある時には興味のないフリして、でも話せば戸惑いながらも笑顔を見せて下さる。好きな話ならとことん付き合って下さるし。はー、何であんなに素敵な御方に、婚約者の一人もいらっしゃらないのか不思議だ。」
「……多分、アデル殿下が巻き込まれた事件の影響かもしれないね。同母の長姉でいらっしゃるし。アデル殿下の様に城を出るまでは至らずとも、どのお相手になりそうな方も未だに気後れして敬遠されてしまわれているらしいし…。」

一つ年下で王妃様の長女である第2王女エレオノーラ殿下には、宰相であるロブレス公爵のご嫡男という、誰も文句の付けようがない婚約者がいらっしゃるが。
彼女にはそう言った婚約者や恋人といった類のお相手は、今までいらっしゃった試しがないらしい。
彼女自身もそちらの方面は、完全に諦めているのだとか。
だからこそ、暇つぶしで読み漁った本の知識に傾倒し、学者顔負けの才女がいつしか出来上がってしまった。
そういう女性は尚更、周囲の貴族男性達からは敬遠されがちなのを知りながら。

しかし。
そんな中、僕の目の前にいるこの変人……いや、ちょっと変わった感性の、この彼は。
ますます、そんな彼女にのめり込んでいっている様だった。

普通にしていたらよく出来た公爵令息だけど、ひとたびその皮を剥けば、趣味の世界にのめり込むのが大好きで仕方がない、確固たる自分というものを持っている人で。
同じく自分というものをしっかり持っていつつ、硬い殻で覆って出ようとしない、賢くも頑ななアザレア王女の殻を、外から剥がそうとしている。

そんな彼の姿を目にしながら、あっという間に数日の滞在期間は過ぎてしまい。

「ユリウス殿下も再会を楽しみにされてらっしゃるんだ。必ず来てね。エウリルスでまた会えるのを楽しみにしてるよ。」

ジェラルドはそう言って。
ヴァレンティーノ殿下夫妻とロレンツォ殿下夫妻、サフィルと僕の婚姻式参加の方に了承をした返事を持って、非常に後ろ髪を引かれながらも、予定通り帰って行ったのだった————…。


嵐が去った後の静けさの様に、落ち着きを取り戻した王宮内だったが。
僕自身は前にも増して落ち着かない心地がする。
ジェラルドが帰ってから、前以上に色んな所から視線を向けられる事が増えた気がするんだよなぁ…。

それに、王女様方からお茶のお誘いを受ける事もしばしばで。
まずは、ソフィア様と一番親しく彼女と同い年である、第3側妃ルチア様の娘の第4王女ヴィオラ殿下。
次は、その話を聞いた第2側妃ソル様の娘、第3王女カルラ殿下。
そして、また姉姫達のうわさを聞き付けた第1側妃カサンドラ様の末娘、第5王女イネス殿下も。

王宮内の王族の方々とも良好な関係を築いた方が良いに決まっているから、お誘いを受ければもちろんお受けするが。
僕としては、実はちょっと困った事態に。
僕だけ誘われるから、ロレンツォ殿下の側仕えが出来ずに一人別行動になるし、何より。
……サフィルがまた何とも言えない顔で見て来るんだよー!
分かるよ?僕だって、もしサフィルがお姫様に次々と誘われてお茶会に参加したら、絶対良い気はしないもの。
でも、下手に断れば、それはそれでまた角が立つし。

「もうお茶はしばらくいいや、飽きちゃった。お酒飲みたいなぁ~。陛下が飲まれていたウイスキー、僕も買ってこようっと。」

そうぼやいて、城下で以前陛下に頂いたのと同じ銘柄のウイスキーを探して購入し。
夜に部屋でサフィルの帰りを待ちながら、テオと二人でチビチビ飲み耽っていたら。
気付いた時には裸でベッドの上に横たわっていた。
胸と首筋に、キスマークをまたいっぱい付けられた状態で。

(やられた……!あ“。ココ、微妙に服で隠せないんじゃ…!?)

その夜、僕は初めてお酒を飲み過ぎて意識を飛ばす、という経験をしたのだった。
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