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続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする
2話 分からず屋
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「え?アレンツィは彼に任せるのですか?」
「あぁ。もちろん時々視察には来るつもりでいるが、王都の屋敷を長く空ける訳にはいかないからな。」
怒涛だった出仕初日、2日目を終え、1日お休みを頂いた後。
殿下の執務室に呼ばれ、ソファーに腰を下ろすと早々に、拝領した港湾都市アレンツィの話題へとなった。
「お前達は側にいて欲しいから行かせられないし、他で能力があって信用できる人材と言えば、俺にはコルネリオしか居ないからな。……抜けられるのは正直痛いが。」
「殿下。では、屋敷の事は、彼の元に付いている執事見習いのファビオを昇格させて任せてはどうでしょう?」
「うん。俺もそう考えている。」
「……。」
うぅ。
屋敷の事を仕切ってくれている人達の事も覚えてはきたが、まだ慣れるまでには至っておらず、こういった話には付いていけずに。
聞いているだけしか出来ない。
結局、翌日彼らに話を打診し、簡単な引継ぎだけ行われた後、数日後には僕らは一切を任せるコルネリオさんらと共に、アレンツィへと向かって行った。
初日等のパーティーで態度をこれでもかと見せられていた僕は、向こうではどう対応するのかと不安しか無かったが、活気溢れるその港町を歩いて回ると、そこに住まう庶民達には裏表の無い明るい気さくな顔で笑って接していた。
色々問題がありながらも商売方面にはバリバリ精を出していた男爵が捕まって、遂にお家は断絶となり、後釜にやって来たのが都で悪評名高い横暴王子様とあって。
中にはかなり気構えていた者も居たのだろうが、港の者達に直接話を聞きながら共に笑う殿下の姿を目にして、そうした人々も取り敢えずはホッと胸を撫で下ろした様だった。
大体一週間くらい滞在し、大まかな指示をした殿下は、後の些事は信頼するコルネリオさんに任せて、その足ですぐに帰宅の途についたのだった。
そして、帰りを待って下さっていたソフィア様と共に、帰宅したその足で、今度は王宮へと参内した。
父王に賜った領地を受け継いだ報告を終え、以前使用していた城の自室へと戻って来られた殿下は、開口一番に悪態をつく。
「はー、めんどくさ。なぁにが『お前に任せたアレンツィはどうだった?』だ!恩着せがましいんだよ、クソ王が。面倒事を押し付けて来ただけじゃねーかよ。」
「ですが、小さいもののあそこは良港です。それを下賜されたのですから……。」
「ハン!それもコルネリオに丸投げして来たから、結局親父が回してる様なもんさ。」
大きく溜息をついた殿下は、サフィルの慰めも鼻で嗤って、どっかりとソファーに腰かけた。
「ねぇ、殿下。それってどういう事なんですか?」
彼の向かいに腰かけた僕が尋ねてみたら。
「どーもこーも。アイツ、コルネリオはさ…親父の息がかかった奴なんだよ。」
「……それは、ジーノやサフィルや僕みたいに、殿下が自ら召し抱えたのではなく、アデリート王が殿下に付けて下さった方、という事ですか?」
「あぁ。生まれてこの方、俺の事なんてまるでほったらかしで育児放棄してやがったがな、必要最低限として俺に付けた侍従さ。他の兄弟と違って身分の低すぎた俺にお似合いの平民出の人間だ。だから、最初は信用せずに警戒してたんだが、他の貴族みたいなしがらみが無い分、向こうも割合真摯に対応してくれたからさ。任せるもんは任せてる。ま、親父から寄越されたお目付け役だから、無駄な反抗は全部筒抜けになるから気を付けろよー。」
「……はぁ。」
つまらなそうに答える殿下に、僕は生返事を返す。
そんな僕の隣に腰を下ろしたサフィルは苦笑しながら教えてくれた。
「彼は私やジーノがお仕えするずっと以前から殿下に仕えてらっしゃいますから、かなりの古株です。この気難しい殿下のお相手をずっとしてきたんですから、頭が下がる思いですよ。」
「どーいう意味だよっ」
「そのままの意味です。…もう、殿下!貴方もそろそろいい加減になさって下さい。先日からやっとシリルが共に側仕えをしてくれる様になったのに、出仕早々あんなものを見せられて、唖然としてしまっていましたよ。貴方ももう結婚なされた立派な王族なのです。そろそろその自覚をもって、ご自身の振る舞いを見直して頂かないと。」
と、彼は僕が先日爆発させていた不満を殿下に面と向かって言ってくれた。
でも、殿下には響いていない。
「ふん!だったら尚更だ。これからはもっと角度を付けていくぞ。今まで舐め腐って来られた分、倍にして返してやらないとな!」
鼻息荒くする殿下に同調して、後ろに控えるジーノもコクコクと頷いている。
駄目だこりゃ。
サフィルが今までどれだけ苦労して来たのかが垣間見える。
だから、今度は僕も加勢したのだが。
「殿下!貴方が幼い頃に周囲の貴族方から随分冷淡な仕打ちを受けたというのは、僕もサフィルから少しだけ聞きました。ですが、彼らもまた、王族である貴方をお支えする臣下でもあるのですよ。先日の、あんな大勢の前でその日の主役である者を侮辱する様な対応を続ければ、いずれ大きなしっぺ返しを喰らう事にもなりかねませんよ?」
「そしたら更に倍々にして返してやる。」
「…………前世でも忠告したのに。やっぱり殿下は殿下なんだな。」
このどうしようもない分からず屋は、何を言っても聞く耳を持たない。
不意に前世の邪悪な彼が脳裏をかすめて、僕はぼそりと低い声でぼやいた。
だが、それだけでは腹の虫が収まらなくて、スッと席を立ったら。
「?な、何だよ……。」
うるさい小言を言い返そうと構えていた殿下は、そうはせずに立ち上がった僕を見て、思わずビクリと肩を跳ねさせたが。
「僕ら臣下の言葉にまるで耳を傾けて下さらないのなら、耳を傾けて下さる御方に助言を乞おうかと。これでは僕も何の為に一年学園で一生懸命勉強したのか、意味が分かりませんので。」
では。
そう言って、努めて冷たい無表情を作って殿下を一瞥すると、踵を返して部屋を出たのだった。
その後ろをテオが慌てて追って来る。
テオも去り際に殿下を鋭く睨み付けていたのを背中で何となく感じた。
「………シリル、相当怒ってますよ…アレは。」
「えぇー……。」
「何だよ。何を怒る事がある?」
心配するサフィルと呆然とする殿下、何も分かっていないジーノ。
三者三様の声が耳を掠めたが、僕は構わず部屋を後にした。
「あぁ。もちろん時々視察には来るつもりでいるが、王都の屋敷を長く空ける訳にはいかないからな。」
怒涛だった出仕初日、2日目を終え、1日お休みを頂いた後。
殿下の執務室に呼ばれ、ソファーに腰を下ろすと早々に、拝領した港湾都市アレンツィの話題へとなった。
「お前達は側にいて欲しいから行かせられないし、他で能力があって信用できる人材と言えば、俺にはコルネリオしか居ないからな。……抜けられるのは正直痛いが。」
「殿下。では、屋敷の事は、彼の元に付いている執事見習いのファビオを昇格させて任せてはどうでしょう?」
「うん。俺もそう考えている。」
「……。」
うぅ。
屋敷の事を仕切ってくれている人達の事も覚えてはきたが、まだ慣れるまでには至っておらず、こういった話には付いていけずに。
聞いているだけしか出来ない。
結局、翌日彼らに話を打診し、簡単な引継ぎだけ行われた後、数日後には僕らは一切を任せるコルネリオさんらと共に、アレンツィへと向かって行った。
初日等のパーティーで態度をこれでもかと見せられていた僕は、向こうではどう対応するのかと不安しか無かったが、活気溢れるその港町を歩いて回ると、そこに住まう庶民達には裏表の無い明るい気さくな顔で笑って接していた。
色々問題がありながらも商売方面にはバリバリ精を出していた男爵が捕まって、遂にお家は断絶となり、後釜にやって来たのが都で悪評名高い横暴王子様とあって。
中にはかなり気構えていた者も居たのだろうが、港の者達に直接話を聞きながら共に笑う殿下の姿を目にして、そうした人々も取り敢えずはホッと胸を撫で下ろした様だった。
大体一週間くらい滞在し、大まかな指示をした殿下は、後の些事は信頼するコルネリオさんに任せて、その足ですぐに帰宅の途についたのだった。
そして、帰りを待って下さっていたソフィア様と共に、帰宅したその足で、今度は王宮へと参内した。
父王に賜った領地を受け継いだ報告を終え、以前使用していた城の自室へと戻って来られた殿下は、開口一番に悪態をつく。
「はー、めんどくさ。なぁにが『お前に任せたアレンツィはどうだった?』だ!恩着せがましいんだよ、クソ王が。面倒事を押し付けて来ただけじゃねーかよ。」
「ですが、小さいもののあそこは良港です。それを下賜されたのですから……。」
「ハン!それもコルネリオに丸投げして来たから、結局親父が回してる様なもんさ。」
大きく溜息をついた殿下は、サフィルの慰めも鼻で嗤って、どっかりとソファーに腰かけた。
「ねぇ、殿下。それってどういう事なんですか?」
彼の向かいに腰かけた僕が尋ねてみたら。
「どーもこーも。アイツ、コルネリオはさ…親父の息がかかった奴なんだよ。」
「……それは、ジーノやサフィルや僕みたいに、殿下が自ら召し抱えたのではなく、アデリート王が殿下に付けて下さった方、という事ですか?」
「あぁ。生まれてこの方、俺の事なんてまるでほったらかしで育児放棄してやがったがな、必要最低限として俺に付けた侍従さ。他の兄弟と違って身分の低すぎた俺にお似合いの平民出の人間だ。だから、最初は信用せずに警戒してたんだが、他の貴族みたいなしがらみが無い分、向こうも割合真摯に対応してくれたからさ。任せるもんは任せてる。ま、親父から寄越されたお目付け役だから、無駄な反抗は全部筒抜けになるから気を付けろよー。」
「……はぁ。」
つまらなそうに答える殿下に、僕は生返事を返す。
そんな僕の隣に腰を下ろしたサフィルは苦笑しながら教えてくれた。
「彼は私やジーノがお仕えするずっと以前から殿下に仕えてらっしゃいますから、かなりの古株です。この気難しい殿下のお相手をずっとしてきたんですから、頭が下がる思いですよ。」
「どーいう意味だよっ」
「そのままの意味です。…もう、殿下!貴方もそろそろいい加減になさって下さい。先日からやっとシリルが共に側仕えをしてくれる様になったのに、出仕早々あんなものを見せられて、唖然としてしまっていましたよ。貴方ももう結婚なされた立派な王族なのです。そろそろその自覚をもって、ご自身の振る舞いを見直して頂かないと。」
と、彼は僕が先日爆発させていた不満を殿下に面と向かって言ってくれた。
でも、殿下には響いていない。
「ふん!だったら尚更だ。これからはもっと角度を付けていくぞ。今まで舐め腐って来られた分、倍にして返してやらないとな!」
鼻息荒くする殿下に同調して、後ろに控えるジーノもコクコクと頷いている。
駄目だこりゃ。
サフィルが今までどれだけ苦労して来たのかが垣間見える。
だから、今度は僕も加勢したのだが。
「殿下!貴方が幼い頃に周囲の貴族方から随分冷淡な仕打ちを受けたというのは、僕もサフィルから少しだけ聞きました。ですが、彼らもまた、王族である貴方をお支えする臣下でもあるのですよ。先日の、あんな大勢の前でその日の主役である者を侮辱する様な対応を続ければ、いずれ大きなしっぺ返しを喰らう事にもなりかねませんよ?」
「そしたら更に倍々にして返してやる。」
「…………前世でも忠告したのに。やっぱり殿下は殿下なんだな。」
このどうしようもない分からず屋は、何を言っても聞く耳を持たない。
不意に前世の邪悪な彼が脳裏をかすめて、僕はぼそりと低い声でぼやいた。
だが、それだけでは腹の虫が収まらなくて、スッと席を立ったら。
「?な、何だよ……。」
うるさい小言を言い返そうと構えていた殿下は、そうはせずに立ち上がった僕を見て、思わずビクリと肩を跳ねさせたが。
「僕ら臣下の言葉にまるで耳を傾けて下さらないのなら、耳を傾けて下さる御方に助言を乞おうかと。これでは僕も何の為に一年学園で一生懸命勉強したのか、意味が分かりませんので。」
では。
そう言って、努めて冷たい無表情を作って殿下を一瞥すると、踵を返して部屋を出たのだった。
その後ろをテオが慌てて追って来る。
テオも去り際に殿下を鋭く睨み付けていたのを背中で何となく感じた。
「………シリル、相当怒ってますよ…アレは。」
「えぇー……。」
「何だよ。何を怒る事がある?」
心配するサフィルと呆然とする殿下、何も分かっていないジーノ。
三者三様の声が耳を掠めたが、僕は構わず部屋を後にした。
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