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第3章

119話 魔術談議

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でも、変わらず社交的で成績も上位な彼が、何故こんな地味な場に?
それまでは誰が居ようと気にもしなかったが、初めて自分から声を掛けてみると。

「単純な興味だよ。俺は君の様に魔術は使えないけど、その体系とか古代史に出て来る魔術と言うのがどういうモノなのか気になって。」

という事らしく、僕の様に時々この同好会に顔を出しているらしい。
……物好きも居るもんだな~。
何の気なしにそう思ったが。

そうだ。
彼は僕とはまた違う角度から、物を見られるのではないだろうか?

ふと、そう思って。

「古の魔術と言えば、ジェラルド。君は呪い…呪術については、どういった事を知ってるの?」

僕は、自分がしょぼい低級な氷を作る魔術を使えるから。
他にどんな魔術があって、どんな術者が居たのか。
そんな方面を調べるのが好きだったが。

呪いといったジャンルは、どうにも血生臭い側面が苦手で今まで興味が持てず、殆ど調べた事が無かった。
しかし、ジェラルドは古代史との関連も調べた事があるのなら、あるいは。
古代には今とは違って、もっと魔術が生きていた時代だ。
そして、時に呪術で相手を呪い呪われ、政争を繰り広げた事もあった筈だから。

だから、僕は彼に尋ねてみたが。

「呪い?…随分ニッチな事を聞いて来るね。うーん。そうだなぁ……古代史とかを読んでいると、時々出て来るけど……。昔、王宮で敵対する妃や王子を呪い殺そうと呪物を埋めたりして。でも、そういうのって見つかって結局処刑されたり、逆に、政敵を貶める為にやってもいない呪術を行ったって言いがかりをつけられて、反論の余地もないまま処刑されたり。」
「うーん、やっぱりそんな感じか…。」
「ただ、呪術を生業としていた一族は居たみたいだね。今でも名が残っている者もいるし。」
「呪術を生業に…?」

思った以上にジェラルドはそっち方面の知識も豊富だった。
正直、僕は呪術の可能性と方法などを知りたかったが。
いきなりそんな事を尋ねても、訝しがられるのが関の山だ。
だから、彼が話してくれる呪いの歴史の話に、まずは興味を示してみたが。



「うん、そう。古い貴族の日記や書簡なんかにも、ちらほら名前が出て来るから、実在したんじゃないかって見解が主流みたいだ。ただ、その術の効果の程は、何処までが本当で…何処からか尾ひれの付いた話か、人によって見解が分かれてるんだけど。中でも、特に有名なのが……神話の神の血を引くというゼルヴィルツの末裔で呪術師の最高峰レイン=ラザワイズと、呪術師の最高傑作と言われているクラウド=シュヴァイツ……かなぁ?レイン=ラザワイズは依頼された相手を呪い殺すだけじゃなくて、かけられた呪いを解く事も出来たんだって。いわゆる解呪だね。それに対してクラウド=シュヴァイツは解呪を行ったらしい記述は見た事が無いけど、呪術が廃れていく晩年において、あらゆる呪術を使える呪術の天才だったらしい。あとは…」

え。凄いな、この人。
本もメモも見ずに、人の名前までスラスラ答えられるなんて。
どんだけ好きなんだ。
僕の興味本位なんかより、よっぽど入り込み方が凄いぞ。

若干引き気味の僕の事などいざ知らず、ジェラルドは嬉々として答えてくれて。

「そうだな……古の民とかかな。シンの民とかエンリルの民とか。原初の民とかとも呼ばれていて、それこそ、遥か古代に人間社会に文明というものが築かれて発展し始めた頃に栄えた民族の末裔だとか。中には呪いや呪(まじな)いや占いなんかにも秀でた者が居たらしい。ほら、昔は占いで政(まつりごと)を行っていたりもしたから。そういった秘術を細々と伝承していたのだろうね。」

そこまで昔に遡(さかのぼ)られると…。
それは何千年前だ?と古代史の知識を思い返しながら理解しようとするも、僕は段々と話についていけなくなり。
眉根を寄せて考え込んでいると、ジェラルドはしまった、と口を押えた。

「ごめん、ごめん。つい暴走しちゃった。色々話し過ぎちゃったね。」
「いや。知らなかったよ、君がそんなに色々詳しかったなんて。もっと色々聞きたいな。」
「え、そう?大丈夫?嫌じゃなかった?ごめんね。俺って、好きな事になるとつい、止まらなくなっちゃうんだ。」

えへへ、と遠慮がちに彼は笑った。
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