全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第1章

22話 カイト来訪

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次の日。
普段の学院での時間帯では、丁度1コマ目の授業が終わって休憩時間に入る様な頃合いに。
奴はやって来た。
王宮からやって来たにしては少ない行列だ。
護衛も必要最低限しか付いていない。
きっと奴が嫌がったからだろうな。
容易に想像がつく。

奴が乗った馬車が近付くにつれ、僕の顔は険しくなっていった。
そんな事などつゆ知らず。
意気揚々と出てきやがった。

「やぁ、シリル!おまた…せ?」

馬車から飛び降りご機嫌に駆け寄ってくるカイトに、僕は思いっ切り睨みつけてやった。
予想以上の反応だったのだろうか。
奴は一歩後退ったので、代わりに僕は一歩踏み出してやる。

「ようこそ?巫子様ぁ~?」

周囲から見れば実ににこやかに、だが、眼前の奴には分かるであろう。
僕の眉間には皺が寄っていた。

“ちょ、そんな怒らんでもいいじゃん!せっかく楽しみにしてたのにぃ”

僕に顔を近付けて、他には分からない様に声を潜めて言ってくるが。

“あんな紙切れで急に無茶な事言ってくるからだろうがっ!了解も無くいきなり来るとはどういう事だ!お前はそんな常識も無かったのか?!”
“だって、事前に言ったら絶対に反対するじゃん!ねぇ、機嫌直してよぉ~。ダチん家泊まるだけじゃん~。シリルん家どんなんか見てみたかったんだよぉ~。”

相変わらず奴はやっぱり奴である。
人目が無ければ思いっ切り殴り飛ばしてやりたいくらいだ。
僕は頭の中でだけそれを実行してから、後ろでそわそわとしている家族の所へ案内した。

「……紹介します。王立学院の同級生で、救世の巫子のカイトです。」
「白羽 海斗(しらは かいと)と申します!カイトって呼んで下さいね。学院ではシリル君とは仲良くさせて頂いてます。今日一日お世話になります。」

僕に紹介されたカイトは、一歩前に出て手短に自己紹介をした。
次は。

「初めまして、救世の巫子カイト様。ようこそおいで下さいました。私はこのクレイン公爵家の公爵代理を務めております、シリルの叔父のルーファスと申します。」
「妻のグレイスです。よろしくお願い致します、カイト様。」

叔父と叔母がそれぞれ手短にだがフワリと優雅に礼をする。
そして、その後、叔母にそっと促され、子供達も挨拶をした。

「はじめまして巫子様、お会い出来るのを楽しみにしてましたっ!シリル兄さまの従弟のリチャードです。」

少し照れながらも元気よくリチャードが叔父を真似て腰から上体を前に折り、頭を下げて礼をする。
そして、その後ろからちょこちょこと出て来た幼いシャーロットが緊張した面持ちながらも、一生懸命礼をしていた。

「は、はじめまして。シャーロットですっ!」

いっぱい練習したのだろう。
母親の叔母の様に自然には出来ずたどたどしいが、両手でスカートを軽く摘み、ちょん、と軽く膝を折った。

「ふわ!今のお辞儀?凄い!……え、二人って、いくつなの?」

かなり驚いた様子で僕と目の前のシャーロットをカイトは交互に見て聞いてきた。

「4歳です!」
「僕は8歳になりました!」

シャーロットとリチャードは嬉し気に答える。

「えー!8歳に…4歳?!……うそぉ……僕より凄いんだけど。」

年相応に子供らしさはにじみ出ているが、礼儀作法は素晴らしい。
大人の様に完璧とまではいかないが、それでも、とても幼い子達のするそれとは思えない。
ビックリし過ぎて放心するカイトに、僕は自信満々に答えてやった。

「そうだろう、そうだろう。お前も二人に教えてもらうといい。」
「……うん。そうする…」

余程ショックだったのだろうか。
まぁ、そうだろうな。
自分の一回り以上年下の子供達に、こんな素晴らしいお辞儀を見せられては。
僕の上から目線な提案に、それでもカイトは素直に頷いた。

「そ、そんな、兄さま!…僕なんてまだまだ勉強中なので…」

憧れの巫子様に対し、なんて恐れ多い!
と、リチャードは恐縮していた。
昨日の夕食で僕が喋っていた事は、ただの冗談だと思っていたのだろう。
そんな筈はない。
分別が分かり始めたリチャードに対し、シャーロットはただ素直に喜んでいた。

「んふふ!ロティー、上手だった?」

カイトは精一杯見上げて尋ねて来る幼いシャーロットに対し、膝を折って目線を合わせた。

「うん、もちろん!上手過ぎてビックリしちゃった!」
「本当?!やった!いっぱい練習したの。お兄ちゃんに教えてあげるねっ」
「わーありがとう!」

褒められて得意げになり、シャーロットは自分がお姉さんにでもなったつもりではしゃぐ。
それに対し、リチャードは慌てて妹を制しようとした。

「こ、こらロティー!巫子様に失礼だろっ」
「えー」

リチャードに若干強めに言われて、シャーロットはどうして?と、ぷぅと頬を膨らませて拗ねるが。
カイトはニッコリ微笑んだ。

「そんな事ないない。それに今日はお仕事お休みだからね。是非俺と一緒に遊んでくれる?」
「い、いいんですか?」

心配そうに尋ねるリチャードに、カイトはもちろん!と強く頷いた。
すると、緊張していたリチャードの顔が、一気にパッと明るくなった。
うん、可愛い。
その笑顔を向けているのがカイトだというのが少々気に入らないが。
だがまあ、この子達への態度は完璧なので許してやろう。

彼らの後ろで様子を見守っていた叔父と叔母も、二人を温かく受け入れてもらえた事で、ホッと胸を撫で下ろしていた。
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