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【第8章】転生して、ようやく“本当の私”になれた
76 不穏なる報せ――ノエルからの緊急通信
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「殿下、大変です! ノエル様から魔術通信が入りました。北方の神殿遺跡にて、第二王子派が動き始めているとのことです!」
ある晴れた日の昼下がり。学園の廊下で、護衛騎士が息を切らしながら飛び込んできた。廊下にいたセレナとアレクシスは顔を見合わせ、緊張感をにじませる。
ノエルは「神殿遺跡の調査」をするため、単独で北方へ赴いていた。そのノエルから緊急の通信が入るということは、よほどの事態が起きたのだろう。
アレクシスは周囲の生徒を遠ざけるよう指示を出し、セレナと共に近くの控室へ急いだ。そこには魔術通信の結晶球が置かれ、かすかな光が揺らめいている。ノエルは遠方から魔力を送り、映像と声を通しているのだ。
結晶球からノエルの姿が揺らぎ、その声が弱々しく響いてきた。
「セレナ様、殿下……。急ぎの報告です。私が神殿遺跡を下見していたところ、第二王子派の男たちが先行して“調律石”らしきものを探す動きを始めているのを確認しました。……さらに、彼らは近くに少しずつ兵を集結させている模様です」
「兵、ですって……!」
セレナが声を潜めて驚く。まさか単なる一部貴族の集団が軍事行動を行うとは想像していなかった。アレクシスも眉をひそめ、強い調子で問いかける。
「ノエル、詳しく状況を教えてくれ。彼らが兵を動かすとなると、もはや単なる噂話では済まん。王家として黙認できるものではない」
結晶球の向こうで、ノエルはやや苦しげに唇を噛んだ。風や雑音が混じるのか、通信が不安定で声が途切れがちだ。
「……どうやら第二王子派は、北方の領主にも協力させて少数の私兵を雇い、神殿遺跡を探索しているようです。彼らの狙いは“世界調律の秘術”を得て、殿下の正統性を揺るがすこと。噂されていた“転生者修正”も、この力を使って強行する気かと……」
セレナは息をのむ。やはり、あの伝承が現実に動き始めたというのか。――そして、自分が“バグ”として修正される危険が切実に迫っている。
ノエルの声はさらに低くなる。
「私一人では、ここで監視するのが精一杯です。兵を率いているのは、どうやら第二王子派の重鎮で……しかも“第二王子”本人も間もなく来るとか。もし本当に調律石が見つかれば、殿下やセレナ様にとって最悪の事態です」
ノエルは言い終えると、通信がノイズで途切れたかのように不安定になる。遠距離の魔力送受信には限界があるらしく、ノエルの顔が乱れた映像となって消えかける。
アレクシスは結晶球に向かい、強い声で呼びかける。
「ノエル、わかった。できるだけ早く対策を打つ。お前は危険を冒すな。もし奴らが神殿遺跡を攻めるなら、一旦退いて俺たちを待て。……いいな?」
映像のノエルが小さく頷くのが見え、次の瞬間、ぷつりと通信が途切れた。結晶球は光を失い、ただの無色透明の石となる。
セレナとアレクシスは息を詰めたまま顔を見合わせ、言葉を失う。――第二王子派が兵を集めて神殿遺跡を襲う。そこで“調律石”を手に入れたら、アレクシスの地位もセレナの存在も否定されかねない。
「……これは、もうただの内紛で済まないぞ」
アレクシスが低くつぶやく。セレナは拳を固めながら、震える声で答える。
「行きましょう、アレクシス。今こそ、私たちが動くしかないわ。ノエルを放っておけないし、第二王子派が本気を出すなら学園や王都へ波及するのも時間の問題よ」
アレクシスはため息混じりに頷く。
「ああ。父王を説得し、本格的な部隊を動かす手もあるが……正直、今の王都はやっとリリィ事件の収束に向けて動いているところで、十分な兵を派遣するのは難しいかもしれない。下手をすれば、内戦を誘発しかねない」
そこでアレクシスは顔を上げ、セレナの手をぎゅっと握る。
「――それでも、俺は北方へ行く。第二王子派の思惑を粉砕し、調律石などという伝説を手に入れさせるわけにはいかない。お前はどうする?」
尋ねるまでもない。セレナは迷わず即答した。
「決まってるわ。私も行く。あなたを一人になんかさせたくないし、ノエルも救いたい。……そして、もし本当に“調律石”があるなら、この目で見て確かめるわ。転生者である私が、どうして世界から排除されなくちゃいけないのかを」
互いの瞳に炎が宿る。リリィとの闘いで生まれた絆は、これくらいでは揺るがない。
アレクシスは決意を固め、騎士を呼び寄せて指示を出す。「少数精鋭の部隊を手配しろ。俺とセレナが北方へ向かう。出発は明朝だ――」
こうして、王子と悪役令嬢は“神殿遺跡”を目指す強行軍を決断した。リリィの消えたあと、また新たな戦いが始まるのだ。
ある晴れた日の昼下がり。学園の廊下で、護衛騎士が息を切らしながら飛び込んできた。廊下にいたセレナとアレクシスは顔を見合わせ、緊張感をにじませる。
ノエルは「神殿遺跡の調査」をするため、単独で北方へ赴いていた。そのノエルから緊急の通信が入るということは、よほどの事態が起きたのだろう。
アレクシスは周囲の生徒を遠ざけるよう指示を出し、セレナと共に近くの控室へ急いだ。そこには魔術通信の結晶球が置かれ、かすかな光が揺らめいている。ノエルは遠方から魔力を送り、映像と声を通しているのだ。
結晶球からノエルの姿が揺らぎ、その声が弱々しく響いてきた。
「セレナ様、殿下……。急ぎの報告です。私が神殿遺跡を下見していたところ、第二王子派の男たちが先行して“調律石”らしきものを探す動きを始めているのを確認しました。……さらに、彼らは近くに少しずつ兵を集結させている模様です」
「兵、ですって……!」
セレナが声を潜めて驚く。まさか単なる一部貴族の集団が軍事行動を行うとは想像していなかった。アレクシスも眉をひそめ、強い調子で問いかける。
「ノエル、詳しく状況を教えてくれ。彼らが兵を動かすとなると、もはや単なる噂話では済まん。王家として黙認できるものではない」
結晶球の向こうで、ノエルはやや苦しげに唇を噛んだ。風や雑音が混じるのか、通信が不安定で声が途切れがちだ。
「……どうやら第二王子派は、北方の領主にも協力させて少数の私兵を雇い、神殿遺跡を探索しているようです。彼らの狙いは“世界調律の秘術”を得て、殿下の正統性を揺るがすこと。噂されていた“転生者修正”も、この力を使って強行する気かと……」
セレナは息をのむ。やはり、あの伝承が現実に動き始めたというのか。――そして、自分が“バグ”として修正される危険が切実に迫っている。
ノエルの声はさらに低くなる。
「私一人では、ここで監視するのが精一杯です。兵を率いているのは、どうやら第二王子派の重鎮で……しかも“第二王子”本人も間もなく来るとか。もし本当に調律石が見つかれば、殿下やセレナ様にとって最悪の事態です」
ノエルは言い終えると、通信がノイズで途切れたかのように不安定になる。遠距離の魔力送受信には限界があるらしく、ノエルの顔が乱れた映像となって消えかける。
アレクシスは結晶球に向かい、強い声で呼びかける。
「ノエル、わかった。できるだけ早く対策を打つ。お前は危険を冒すな。もし奴らが神殿遺跡を攻めるなら、一旦退いて俺たちを待て。……いいな?」
映像のノエルが小さく頷くのが見え、次の瞬間、ぷつりと通信が途切れた。結晶球は光を失い、ただの無色透明の石となる。
セレナとアレクシスは息を詰めたまま顔を見合わせ、言葉を失う。――第二王子派が兵を集めて神殿遺跡を襲う。そこで“調律石”を手に入れたら、アレクシスの地位もセレナの存在も否定されかねない。
「……これは、もうただの内紛で済まないぞ」
アレクシスが低くつぶやく。セレナは拳を固めながら、震える声で答える。
「行きましょう、アレクシス。今こそ、私たちが動くしかないわ。ノエルを放っておけないし、第二王子派が本気を出すなら学園や王都へ波及するのも時間の問題よ」
アレクシスはため息混じりに頷く。
「ああ。父王を説得し、本格的な部隊を動かす手もあるが……正直、今の王都はやっとリリィ事件の収束に向けて動いているところで、十分な兵を派遣するのは難しいかもしれない。下手をすれば、内戦を誘発しかねない」
そこでアレクシスは顔を上げ、セレナの手をぎゅっと握る。
「――それでも、俺は北方へ行く。第二王子派の思惑を粉砕し、調律石などという伝説を手に入れさせるわけにはいかない。お前はどうする?」
尋ねるまでもない。セレナは迷わず即答した。
「決まってるわ。私も行く。あなたを一人になんかさせたくないし、ノエルも救いたい。……そして、もし本当に“調律石”があるなら、この目で見て確かめるわ。転生者である私が、どうして世界から排除されなくちゃいけないのかを」
互いの瞳に炎が宿る。リリィとの闘いで生まれた絆は、これくらいでは揺るがない。
アレクシスは決意を固め、騎士を呼び寄せて指示を出す。「少数精鋭の部隊を手配しろ。俺とセレナが北方へ向かう。出発は明朝だ――」
こうして、王子と悪役令嬢は“神殿遺跡”を目指す強行軍を決断した。リリィの消えたあと、また新たな戦いが始まるのだ。
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