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60 疑惑

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 全員が無言になっていたその時、ドアがノックされて確認に走っていた騎士が入ってきました。
 騎士の後ろにはコック長のヤマーダさんがいます。

『乗船していたコック長が来てくれました。お話を聞いてみますね』

 私は脳内で全員にそう言うと、ヤマーダさんにソファーを勧めました。

「ヤマーダさん!来てくださったのですね!お忙しいのに申し訳ありません」

「ご無沙汰していますローゼリア様。今回の地震で店にもかなりの損壊が発生したので、無理やり帰港してもらったのです。ジョン殿下には事後承諾ってことになりますが、店の方が大切ですからね。それに少々おかしいなって感じることもあって…」

「お店の事は心よりお見舞い申し上げますわ。ヤマーダさん、単刀直入にお伺いしますね。あの船にエヴァン様は乗っていますか?」

「いいえ、隈なく探しましたがおられませんでした。私は一度エヴァン様にはお会いしていますから間違いありません、エヴァン様だと兵士たちが信じていたのは全くの別人でした」

「そうですか。マリア皇太子妃は?」

「彼女はいました。そして私が運んだアランさんと再会してとても喜んでいましたよ」

「なるほど、二人は一緒にいるのですね?」

「ええ、私が下船した後すぐに港を離れましたから、そのまま船に居ます」

「それで、ヤマーダさんは何がおかしいとお感じになったのでしょう?」

「ジョン殿下の指示が…なんというか…一貫性がないというか。そもそもマリア皇太子妃とエヴァン様はクーデターの時に安全を確保するという目的で船に乗せたままにしていたはずなのです。なのにエヴァン様だけを下船させて入城させました。その時はブレインとして召喚されたのだと思ったのですが、それ以降作戦会議でお姿を見ることもありませんし、何よりイーリス国側には絶対に感づかれるねと厳命されましてね…変でしょう?」

「なるほど」

『それはいつのことか聞いてくれ』

 サミュエル殿下の声です。

「それっていつ頃ですか?」

「そうですね…そもそもあの船を奪うという作戦は無かったので、その指示が出た頃ですから、一週間?十日くらいかな?」

 エヴァン様が骨折させられた頃です。

『なるほどね。その頃から作戦が変更されているということだな。地震によって前倒しにしたのだろうが、随分無茶な作戦変更だ。参謀が変わったのかな?』

「ヤマーダさん。クーデターの参謀ってどなたですか?」

「参謀っていう立場の人間はいませんよ。もともとジョン殿下が一人で動いていたことです。王族があまりにもダメだと思っていた我々が自主的に手を貸しているという形なので、ジョン殿下が首謀者ですね。しかしジョン殿下はエヴァン様の助言が大きいと言ってましたあら、彼が参謀って事になるのかな?」

「エヴァン様がクーデターの参謀ですって?」

「いやいや、そういう立ち位置にならざるを得なかったというだけで、最初から参加していたというわけではありません」

 仕方なく知恵を貸していたエヴァン様にあんな仕打ちをするとは!
 許せません!

『ローゼリア、あなたの怒りで波長が乱れているわ。気持ちはわかるけれど、今は落ち着いてちょうだいね。お話を聞いている間にこちらの三人で話し合ったのだけれど、私は入城します。そしてトラウスを廃太子して、ベルガと共に国民裁判にかけます。まあ間違いなく有罪になるから、そのまま幽閉か遠島になるでしょうね。そうなると皇太子はジョンになります。ジョンには復興の指揮を取らせましょう。そしてエヴァンとマリアの処遇に対する抗議として、イーリスもワイドルも支援はしないという宣言をしましょう』

『エヴァン様とマリア王太子妃とアランはどうなるのですか?』

『もちろん逃がしますよ。できればあなたの領地で匿ってほしいの。私が入城して国民裁判の手続きなどをジョンに手伝わせている間に、マリアたちが乗っている船で全員引き上げなさい。後のことは任せてくれていいわ。私はあの子に疑われないようにせいぜい味方の振りをするから』

『手を出さずとも自ずと滅びるということですね?それでいいかい?ローゼリアも副所長も』

 私は副所長と騎士達、ヤマーダさんに説明し同意を得ました。

『こちらは大丈夫です。決行はいつでしょうか』

『早い方がいいでしょう?明後日には王都に到着するようにこちらを出ます。エヴァンはあなたたちの宿舎で安静にするという言い訳で運び出してちょうだい。いいかしらジョアン』

『畏まりました。王妃殿下』

 その後、カーティス皇太子は陸路で、ルーカス王配はテレザ王妃殿下を城に送り届けたのち、撤退するということに決まりました。
 ヤマーダさんはジョン殿下に抱いてしまった不信感と、そもそもこの国の人間ではないという事から、私たちの計画に乗ってくれました。
 
 調査団全員を含む乗船者用の食料調達はヤマーダさんに任せて、私と副所長はエヴァン様とジョアンを迎えに王立病院に向かいます。
 調査員や騎士達は、ジョン殿下に怪しまれないように通常の動きをしつつ、荷を纏めることになっています。

「ジョアン!頑張ったわね」

 病室に到着した私はジョアンに駆け寄り抱きしめました。

「不安だったでしょう?偉いわ。本当によく頑張ったわね」

 ジョアンが少し涙を浮かべながら言いました。

「褒めて」

「うん、いっぱい褒めてあげる」

「頑張ったよ」

「そうね、頑張ったね」

 私はジョアンの頭を何度も何度も撫でました。
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