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59 救出3
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その後、私とエスメラルダは宿舎に戻りました。
ジョアンは兄上から離れるのは嫌だと子供らしいダダをこねた振りをして、病室に残っています。
ジョアンにはアンナお姉さまともう一人の騎士様に付いてもらいました。
街から戻っていたベック副所長と調査員達の無事を確認した後、今後の行動を話し合います。
「要するにジョン殿下も信頼できないと言うことですか?」
「ええ、ジョアンによるとそのようです。彼は地震以降ジョン殿下と共に行動することが多かったので、何か感じたのかもしれません」
「今ジョアンと話はできますか?」
「ええ、できればサミュエル殿下も交えて話した方が良いと思います」
調査員の方達にはそれぞれの自室に戻ってもらい、副所長と護衛騎士の責任者には残ってもらいました。
「エスメラルダは会話の記憶を頼むわね」
エスメラルダはコクッと小さく頷きます。
「では始めますね」
私は冷めた紅茶を一口含んでから眼を瞑りました。
『サミュエル殿下?聞こえますか?』
『ああローゼリア、ご苦労だったね。ジョアンにも繋がっているのだろう?ジョン殿下に関する不信感について聞きたい。それとこの念話は叔母上にも繋がっているし、叔母上の元に兄上たちもいるから情報共有は問題ない』
『じゃあ始めるね。今僕はエヴァン兄さまのベッドの横で、うたた寝をしている振りをしているんだけだ、病室の外にはアンナ騎士とイース騎士が立ってくれている。先ほど顔を洗いたいと言ってうろうろしてみたけど、ジョン殿下の配下が要所を固めているという状況だだよ。僕が最初に疑いを持ったのは、エヴァン兄さまが囚われているはずの軍艦に、僕たちを近寄らせないからだ。だってジョン殿下の兵が軍艦を乗っ取っているなら、僕やローゼリアを乗せてもいいはずだ。それよりもアランを送り込むなんて無駄なことをせず、エヴァン兄さまを解放すればいいだけだろ?』
『その通りだな』
『そこで僕ははっきりと言ってみたんだ。エヴァン兄さまを下船させてくれってね。そしたらジョン殿下は時期尚早だと拒否したんだ』
『時期尚早?どういう意味だ?』
『うん。言葉の通りなら何かの準備が整っていないということだろうね。だからあの頭のおかしい赤い奴と黄色い奴の事かと思って、その時は黙ったんだ。でも今回の地震やローゼリアの件で赤いのも黄色いのも地下牢に確保した。でもまだ兄さまの解放には同意しない。絶対おかしいよ』
私は言葉を挟みました。
『そうよね。あの後ジョアンとジョン殿下は一緒に行動しているのだから、一番にエヴァン様を解放するよう指示を出していいはずよね。でも出さない…ってことは、あの船にはエヴァン様は乗っていないと知っていた?』
ジョアンの声がしました。
『そうでしょ?僕もそう思った』
サミュエル殿下の声です。
『若しくは、すでに死んでいると思っていた?』
私は息を吞みました。
もしそうなら、私は飛んでもない男の言葉を信じていたことになります。
ぐっと拳を握りしめたとき、テレザ王妃殿下の声がしました。
『ルーカスがマリアはどこにいるのだろうって言ってるわ』
サミュエル殿下が私に聞きました。
『マリアの隠し部屋からはエヴァンしか見つからなかったのか?』
『ええ、天井が崩壊してしまって瓦礫の撤去が済んでいないのですが、人の気配はしませんでした。そうなるとマリアとアランはあの船の中?』
ジョアンが言います。
『それはアランを樽で運んだ料理人に聞くのが早いね。誰かあの店に行って確認させてよ』
私は今の話を騎士様に伝えて走ってもらいました。
『今確認に行ってもらったわ。それにしてもジョン殿下は何を狙っていたのかしら』
『テレザよ。カーティスが言うには、途中で計画を変えたのではないかって。そもそもクーデターを起こすなんて入念な下準備が必要でしょう?たとえそれが地震によって早まったとしても、基本的には成功しているのだし、それ以上何を企んでいたのかが疑問だわ』
『叔母上、ジョン殿下は優秀な方なのですか?』
『はっきりって三兄弟の中では一番まともね。でもあの子達に共通する悪癖はジョンも持っていたわ。欲しいものは何が何でも手に入れたいっていう欲求を抑えられないのよ』
『ということは、途中で協力してくれていたエヴァンを裏切ってでも欲しいものが見つかった…ということだよね?』
『エヴァン兄さまを裏切って?逆に言うと裏切らないと手に入らないってことだ』
暫し沈黙が流れました。
とても静かな声でテレザ王妃殿下の声が響きます。
『ローゼリア、あなただわ』
『そうですね、叔母上。始めはマリアとアランを切り札にして、こちらと交渉するはずだった。でもルーカス兄上の言動からマリアではダメだと判断したのでしょう。そしてエヴァンを取り込む事でイーリスとは友好関係を築こうとしていた…ここまでは成功していたはずですよね』
『そうね。そんな時に大規模な地震が発生した。そしてローゼリア達が入国してきた。ローゼリアの領地も研究所も魅力的だし、それを取り込んでしまえば、他国との交渉も有利になるでしょうね』
『ローゼリアをクーデター後の王妃にすれば、全て上手くいくと考えても不思議ではない。なるほど、そしてエヴァンの存在か…短慮にもほどがあるな』
『そうね…結局バカなのね…』
ジョアンが強い口調で言います。
『兄上を裏切った時点で万死に値するよ。しかも死ぬかもしれないという状況で放置したんだ。許せるものではない!』
『いっそ乗っ取ってしまいなさいな。私は構わないわよ?大臣たちの説得は私からするから問題ないわ。使える連中だけ残していれば、問題ないわ。だって今は街の復興が最重要でしょう?あら、カーティスもルーカスも賛成ですって。そうなるとサミュエル、あなたが来なさい』
『はぁぁぁ…僕は引き籠る予定だったのですが。まあ父上と母上には相談してみますよ。それで?これからどうします?』
『ジョン殿下の尻尾を掴む必要があよね。でも今回の地震でジョン殿下の評判は爆上がりだから、無理に引きずり下ろすのは悪手だね』
ジョアンは兄上から離れるのは嫌だと子供らしいダダをこねた振りをして、病室に残っています。
ジョアンにはアンナお姉さまともう一人の騎士様に付いてもらいました。
街から戻っていたベック副所長と調査員達の無事を確認した後、今後の行動を話し合います。
「要するにジョン殿下も信頼できないと言うことですか?」
「ええ、ジョアンによるとそのようです。彼は地震以降ジョン殿下と共に行動することが多かったので、何か感じたのかもしれません」
「今ジョアンと話はできますか?」
「ええ、できればサミュエル殿下も交えて話した方が良いと思います」
調査員の方達にはそれぞれの自室に戻ってもらい、副所長と護衛騎士の責任者には残ってもらいました。
「エスメラルダは会話の記憶を頼むわね」
エスメラルダはコクッと小さく頷きます。
「では始めますね」
私は冷めた紅茶を一口含んでから眼を瞑りました。
『サミュエル殿下?聞こえますか?』
『ああローゼリア、ご苦労だったね。ジョアンにも繋がっているのだろう?ジョン殿下に関する不信感について聞きたい。それとこの念話は叔母上にも繋がっているし、叔母上の元に兄上たちもいるから情報共有は問題ない』
『じゃあ始めるね。今僕はエヴァン兄さまのベッドの横で、うたた寝をしている振りをしているんだけだ、病室の外にはアンナ騎士とイース騎士が立ってくれている。先ほど顔を洗いたいと言ってうろうろしてみたけど、ジョン殿下の配下が要所を固めているという状況だだよ。僕が最初に疑いを持ったのは、エヴァン兄さまが囚われているはずの軍艦に、僕たちを近寄らせないからだ。だってジョン殿下の兵が軍艦を乗っ取っているなら、僕やローゼリアを乗せてもいいはずだ。それよりもアランを送り込むなんて無駄なことをせず、エヴァン兄さまを解放すればいいだけだろ?』
『その通りだな』
『そこで僕ははっきりと言ってみたんだ。エヴァン兄さまを下船させてくれってね。そしたらジョン殿下は時期尚早だと拒否したんだ』
『時期尚早?どういう意味だ?』
『うん。言葉の通りなら何かの準備が整っていないということだろうね。だからあの頭のおかしい赤い奴と黄色い奴の事かと思って、その時は黙ったんだ。でも今回の地震やローゼリアの件で赤いのも黄色いのも地下牢に確保した。でもまだ兄さまの解放には同意しない。絶対おかしいよ』
私は言葉を挟みました。
『そうよね。あの後ジョアンとジョン殿下は一緒に行動しているのだから、一番にエヴァン様を解放するよう指示を出していいはずよね。でも出さない…ってことは、あの船にはエヴァン様は乗っていないと知っていた?』
ジョアンの声がしました。
『そうでしょ?僕もそう思った』
サミュエル殿下の声です。
『若しくは、すでに死んでいると思っていた?』
私は息を吞みました。
もしそうなら、私は飛んでもない男の言葉を信じていたことになります。
ぐっと拳を握りしめたとき、テレザ王妃殿下の声がしました。
『ルーカスがマリアはどこにいるのだろうって言ってるわ』
サミュエル殿下が私に聞きました。
『マリアの隠し部屋からはエヴァンしか見つからなかったのか?』
『ええ、天井が崩壊してしまって瓦礫の撤去が済んでいないのですが、人の気配はしませんでした。そうなるとマリアとアランはあの船の中?』
ジョアンが言います。
『それはアランを樽で運んだ料理人に聞くのが早いね。誰かあの店に行って確認させてよ』
私は今の話を騎士様に伝えて走ってもらいました。
『今確認に行ってもらったわ。それにしてもジョン殿下は何を狙っていたのかしら』
『テレザよ。カーティスが言うには、途中で計画を変えたのではないかって。そもそもクーデターを起こすなんて入念な下準備が必要でしょう?たとえそれが地震によって早まったとしても、基本的には成功しているのだし、それ以上何を企んでいたのかが疑問だわ』
『叔母上、ジョン殿下は優秀な方なのですか?』
『はっきりって三兄弟の中では一番まともね。でもあの子達に共通する悪癖はジョンも持っていたわ。欲しいものは何が何でも手に入れたいっていう欲求を抑えられないのよ』
『ということは、途中で協力してくれていたエヴァンを裏切ってでも欲しいものが見つかった…ということだよね?』
『エヴァン兄さまを裏切って?逆に言うと裏切らないと手に入らないってことだ』
暫し沈黙が流れました。
とても静かな声でテレザ王妃殿下の声が響きます。
『ローゼリア、あなただわ』
『そうですね、叔母上。始めはマリアとアランを切り札にして、こちらと交渉するはずだった。でもルーカス兄上の言動からマリアではダメだと判断したのでしょう。そしてエヴァンを取り込む事でイーリスとは友好関係を築こうとしていた…ここまでは成功していたはずですよね』
『そうね。そんな時に大規模な地震が発生した。そしてローゼリア達が入国してきた。ローゼリアの領地も研究所も魅力的だし、それを取り込んでしまえば、他国との交渉も有利になるでしょうね』
『ローゼリアをクーデター後の王妃にすれば、全て上手くいくと考えても不思議ではない。なるほど、そしてエヴァンの存在か…短慮にもほどがあるな』
『そうね…結局バカなのね…』
ジョアンが強い口調で言います。
『兄上を裏切った時点で万死に値するよ。しかも死ぬかもしれないという状況で放置したんだ。許せるものではない!』
『いっそ乗っ取ってしまいなさいな。私は構わないわよ?大臣たちの説得は私からするから問題ないわ。使える連中だけ残していれば、問題ないわ。だって今は街の復興が最重要でしょう?あら、カーティスもルーカスも賛成ですって。そうなるとサミュエル、あなたが来なさい』
『はぁぁぁ…僕は引き籠る予定だったのですが。まあ父上と母上には相談してみますよ。それで?これからどうします?』
『ジョン殿下の尻尾を掴む必要があよね。でも今回の地震でジョン殿下の評判は爆上がりだから、無理に引きずり下ろすのは悪手だね』
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