婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連

文字の大きさ
上 下
61 / 68

59 救出3

しおりを挟む
 その後、私とエスメラルダは宿舎に戻りました。
 ジョアンは兄上から離れるのは嫌だと子供らしいダダをこねた振りをして、病室に残っています。
 ジョアンにはアンナお姉さまともう一人の騎士様に付いてもらいました。
 街から戻っていたベック副所長と調査員達の無事を確認した後、今後の行動を話し合います。

「要するにジョン殿下も信頼できないと言うことですか?」

「ええ、ジョアンによるとそのようです。彼は地震以降ジョン殿下と共に行動することが多かったので、何か感じたのかもしれません」

「今ジョアンと話はできますか?」

「ええ、できればサミュエル殿下も交えて話した方が良いと思います」

 調査員の方達にはそれぞれの自室に戻ってもらい、副所長と護衛騎士の責任者には残ってもらいました。

「エスメラルダは会話の記憶を頼むわね」

 エスメラルダはコクッと小さく頷きます。

「では始めますね」

 私は冷めた紅茶を一口含んでから眼を瞑りました。

『サミュエル殿下?聞こえますか?』

『ああローゼリア、ご苦労だったね。ジョアンにも繋がっているのだろう?ジョン殿下に関する不信感について聞きたい。それとこの念話は叔母上にも繋がっているし、叔母上の元に兄上たちもいるから情報共有は問題ない』

『じゃあ始めるね。今僕はエヴァン兄さまのベッドの横で、うたた寝をしている振りをしているんだけだ、病室の外にはアンナ騎士とイース騎士が立ってくれている。先ほど顔を洗いたいと言ってうろうろしてみたけど、ジョン殿下の配下が要所を固めているという状況だだよ。僕が最初に疑いを持ったのは、エヴァン兄さまが囚われているはずの軍艦に、僕たちを近寄らせないからだ。だってジョン殿下の兵が軍艦を乗っ取っているなら、僕やローゼリアを乗せてもいいはずだ。それよりもアランを送り込むなんて無駄なことをせず、エヴァン兄さまを解放すればいいだけだろ?』

『その通りだな』

『そこで僕ははっきりと言ってみたんだ。エヴァン兄さまを下船させてくれってね。そしたらジョン殿下は時期尚早だと拒否したんだ』

『時期尚早?どういう意味だ?』

『うん。言葉の通りなら何かの準備が整っていないということだろうね。だからあの頭のおかしい赤い奴と黄色い奴の事かと思って、その時は黙ったんだ。でも今回の地震やローゼリアの件で赤いのも黄色いのも地下牢に確保した。でもまだ兄さまの解放には同意しない。絶対おかしいよ』

 私は言葉を挟みました。

『そうよね。あの後ジョアンとジョン殿下は一緒に行動しているのだから、一番にエヴァン様を解放するよう指示を出していいはずよね。でも出さない…ってことは、あの船にはエヴァン様は乗っていないと知っていた?』

 ジョアンの声がしました。

『そうでしょ?僕もそう思った』

 サミュエル殿下の声です。

『若しくは、すでに死んでいると思っていた?』

 私は息を吞みました。
 もしそうなら、私は飛んでもない男の言葉を信じていたことになります。
 ぐっと拳を握りしめたとき、テレザ王妃殿下の声がしました。

『ルーカスがマリアはどこにいるのだろうって言ってるわ』

 サミュエル殿下が私に聞きました。

『マリアの隠し部屋からはエヴァンしか見つからなかったのか?』

『ええ、天井が崩壊してしまって瓦礫の撤去が済んでいないのですが、人の気配はしませんでした。そうなるとマリアとアランはあの船の中?』

 ジョアンが言います。

『それはアランを樽で運んだ料理人に聞くのが早いね。誰かあの店に行って確認させてよ』

 私は今の話を騎士様に伝えて走ってもらいました。

『今確認に行ってもらったわ。それにしてもジョン殿下は何を狙っていたのかしら』

『テレザよ。カーティスが言うには、途中で計画を変えたのではないかって。そもそもクーデターを起こすなんて入念な下準備が必要でしょう?たとえそれが地震によって早まったとしても、基本的には成功しているのだし、それ以上何を企んでいたのかが疑問だわ』

『叔母上、ジョン殿下は優秀な方なのですか?』

『はっきりって三兄弟の中では一番まともね。でもあの子達に共通する悪癖はジョンも持っていたわ。欲しいものは何が何でも手に入れたいっていう欲求を抑えられないのよ』

『ということは、途中で協力してくれていたエヴァンを裏切ってでも欲しいものが見つかった…ということだよね?』

『エヴァン兄さまを裏切って?逆に言うと裏切らないと手に入らないってことだ』

 暫し沈黙が流れました。
 とても静かな声でテレザ王妃殿下の声が響きます。

『ローゼリア、あなただわ』

『そうですね、叔母上。始めはマリアとアランを切り札にして、こちらと交渉するはずだった。でもルーカス兄上の言動からマリアではダメだと判断したのでしょう。そしてエヴァンを取り込む事でイーリスとは友好関係を築こうとしていた…ここまでは成功していたはずですよね』

『そうね。そんな時に大規模な地震が発生した。そしてローゼリア達が入国してきた。ローゼリアの領地も研究所も魅力的だし、それを取り込んでしまえば、他国との交渉も有利になるでしょうね』

『ローゼリアをクーデター後の王妃にすれば、全て上手くいくと考えても不思議ではない。なるほど、そしてエヴァンの存在か…短慮にもほどがあるな』

『そうね…結局バカなのね…』

 ジョアンが強い口調で言います。

『兄上を裏切った時点で万死に値するよ。しかも死ぬかもしれないという状況で放置したんだ。許せるものではない!』

『いっそ乗っ取ってしまいなさいな。私は構わないわよ?大臣たちの説得は私からするから問題ないわ。使える連中だけ残していれば、問題ないわ。だって今は街の復興が最重要でしょう?あら、カーティスもルーカスも賛成ですって。そうなるとサミュエル、あなたが来なさい』

『はぁぁぁ…僕は引き籠る予定だったのですが。まあ父上と母上には相談してみますよ。それで?これからどうします?』

『ジョン殿下の尻尾を掴む必要があよね。でも今回の地震でジョン殿下の評判は爆上がりだから、無理に引きずり下ろすのは悪手だね』
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね

ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。 失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

「平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる」

ゆる
恋愛
平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる 婚約者を平民との恋のために捨てた王子が見た、輝く未来。 それは、自分を裏切ったはずの侯爵令嬢の背中だった――。 グランシェル侯爵令嬢マイラは、次期国王の弟であるラウル王子の婚約者。 将来を約束された華やかな日々が待っている――はずだった。 しかしある日、ラウルは「愛する平民の女性」と結婚するため、婚約破棄を一方的に宣言する。 婚約破棄の衝撃、社交界での嘲笑、周囲からの冷たい視線……。 一時は心が折れそうになったマイラだが、父である侯爵や信頼できる仲間たちとともに、自らの人生を切り拓いていく決意をする。 一方、ラウルは平民女性リリアとの恋を選ぶものの、周囲からの反発や王家からの追放に直面。 「息苦しい」と捨てた婚約者が、王都で輝かしい成功を収めていく様子を知り、彼が抱えるのは後悔と挫折だった。

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。

ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。 俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。 そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。 こんな女とは婚約解消だ。 この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

処理中です...