1 / 5
第一章
あすこのお屋敷には美しい女性がいるらしい……
しおりを挟む
ーー他の女性と比べて短いが、質の良い美しい髪。肌の色も透き通るような白い肌。あすこの山には天女と思しき美しい女人がいるーー
この噂は約1年ほど前から流れ始めたもの。ある1人の貴族男性が、お供とともに山へお詣りに行った際、誤って山奥に偶然迷い込んでしまった時にその屋敷を見つけたらしい。
「ああ、こんな所に屋敷が。助かった、水でも頂こう。おい、聞いてまいれ」
「はい」
そう指示を出した後、男はハタと気づいた。このような山奥に屋敷があるのはおかしい。もしや、山賊の屋敷ではないか? と。
だが、意外にも連れの下人は無事に戻ってきた。
「お屋敷に入ってもよろしいと」
「なんと、では行かせてもらおう」
疲れ切った体を休めるということで、男は先程の警戒もすっかり忘れて屋敷へ向かう。屋敷は思った以上にこじんまりとしていて、そこかしこに花が植えてあった。
今は春。ツツジが綺麗に手入れされ美しく咲き誇っている。
美しいな……男はぐるりと庭を見回し感嘆した。
「どうぞ入ってください」
「うむ、失礼する」
女の声がして、ゆっくりと屋敷へ向かえば男は次の瞬間顔を赤らめた。
「そ、そそそそちは、何という格好を!」
現代ではありえない、体の線が出る着物。無造作にまとめられた髪は見たこともないほど艶やかで、腰までと短い。そして何より、美しかった。このような美しい娘がいるのか? と疑問に思うほど。
もしやモノノ怪か。男は疑ったが、その美しい娘は可笑しそうに笑うのだった。
「あはは、何を言ってるんですか? 普通の格好ですよ。それよりも貴方達の方が不思議な格好をしてるじゃないですか」
何か近くで撮影でもしているんですか? そう問われて、聞き慣れない単語に男は固まる。
「あれ? まぁお疲れのようですし。中に入ってください。あ、縁側でもいいですよ? その服じゃあ中に入るのは大変そうですね。縁側にしましょうか」
娘はそう言って、屋敷の中へ消えていった。袴を細くしたようなピッタリしたモノをはいているせいか、その後ろ姿さえも不思議な魅力があった。
しばらくして、ガラリと音がして庭の方を見れば娘が扉から顔を出している。
「ここに座ってください! 水も用意したので遅くなりましたがどうぞ!」
男の知っている女性というのは、このように大声で話さないし、口元も隠している。歯を見せて笑うなど言語道断。そう教わっていたのだが、今見ている娘は違った。
「なんと。ありがたい」
男はいつの間にか娘に夢中になっていた。まるで天女だ。天から落ちてきた天女がここに住み着いたのだろうか? それとも、天女の休息所なのだろうか?
縁側に座り、用意された水を飲みながら、男は屋敷の中へ戻った娘に想いを馳せていた。
「はい、迷ったって聞いたからお腹の足しにどうぞ」
「これは?」
「水羊羹。前にスーパーで買ってきたのがあったから」
「すうぱあ」
「そ、スーパー。お兄さん、役になりきってるねぇ。凄い!」
「はあ」
「お付きの人もどうぞ!」
「かたじけない」
娘の話す言葉は理解できないものもある。やはり、天女か? そう思いながら、男は一口みずようかんなるモノを口に入れた。
「っ!? 何だこれは!」
「疲れた体には美味しいでしょう?」
男は今まで口にしたことのないほど美味な食べ物に仰天していた。
何だこれは。この世の食べ物なのか? えぐみもない、雑味も何もない。ただ透き通った甘さと旨味がある。
下人も、目を見開いて男の方を見ていた。
これを食べてしまえば、今まで食べていた料理が味気なく感じてしまう。
「これをもう一つ頂けないか」
「ごめんなさい、もうこれで最後だったの」
「そうか……」
残念な顔をしていたのだろう。男が娘の方をみれば、娘は困ったように眉を寄せて笑っていた。
ふわりと不思議な芳しい香りが娘が動くごとに漂う。
やはり、この娘は天女だ。
男の中に一つの確信が芽生えた。
この娘を返すのは惜しい。私の妻にしたい。娘が器を片付けている間に、男は下人へ指示を出した。
「私はあの娘が欲しい。帰ったらすぐに、文を出す用意をしておきなさい」
「承知いたしました」
知られる前に、自分のものにしよう。そう男は思ったのだった。
そして、男は自身の宣言どおり文を出そうとするのだがそれを政権敵の貴族に知られてしまう。長年女に興味のなかった男が文を出すなど何事か? と興味を持たれ、男だけの秘密はすぐさま皆のものへとなってしまったのであった。
この噂は約1年ほど前から流れ始めたもの。ある1人の貴族男性が、お供とともに山へお詣りに行った際、誤って山奥に偶然迷い込んでしまった時にその屋敷を見つけたらしい。
「ああ、こんな所に屋敷が。助かった、水でも頂こう。おい、聞いてまいれ」
「はい」
そう指示を出した後、男はハタと気づいた。このような山奥に屋敷があるのはおかしい。もしや、山賊の屋敷ではないか? と。
だが、意外にも連れの下人は無事に戻ってきた。
「お屋敷に入ってもよろしいと」
「なんと、では行かせてもらおう」
疲れ切った体を休めるということで、男は先程の警戒もすっかり忘れて屋敷へ向かう。屋敷は思った以上にこじんまりとしていて、そこかしこに花が植えてあった。
今は春。ツツジが綺麗に手入れされ美しく咲き誇っている。
美しいな……男はぐるりと庭を見回し感嘆した。
「どうぞ入ってください」
「うむ、失礼する」
女の声がして、ゆっくりと屋敷へ向かえば男は次の瞬間顔を赤らめた。
「そ、そそそそちは、何という格好を!」
現代ではありえない、体の線が出る着物。無造作にまとめられた髪は見たこともないほど艶やかで、腰までと短い。そして何より、美しかった。このような美しい娘がいるのか? と疑問に思うほど。
もしやモノノ怪か。男は疑ったが、その美しい娘は可笑しそうに笑うのだった。
「あはは、何を言ってるんですか? 普通の格好ですよ。それよりも貴方達の方が不思議な格好をしてるじゃないですか」
何か近くで撮影でもしているんですか? そう問われて、聞き慣れない単語に男は固まる。
「あれ? まぁお疲れのようですし。中に入ってください。あ、縁側でもいいですよ? その服じゃあ中に入るのは大変そうですね。縁側にしましょうか」
娘はそう言って、屋敷の中へ消えていった。袴を細くしたようなピッタリしたモノをはいているせいか、その後ろ姿さえも不思議な魅力があった。
しばらくして、ガラリと音がして庭の方を見れば娘が扉から顔を出している。
「ここに座ってください! 水も用意したので遅くなりましたがどうぞ!」
男の知っている女性というのは、このように大声で話さないし、口元も隠している。歯を見せて笑うなど言語道断。そう教わっていたのだが、今見ている娘は違った。
「なんと。ありがたい」
男はいつの間にか娘に夢中になっていた。まるで天女だ。天から落ちてきた天女がここに住み着いたのだろうか? それとも、天女の休息所なのだろうか?
縁側に座り、用意された水を飲みながら、男は屋敷の中へ戻った娘に想いを馳せていた。
「はい、迷ったって聞いたからお腹の足しにどうぞ」
「これは?」
「水羊羹。前にスーパーで買ってきたのがあったから」
「すうぱあ」
「そ、スーパー。お兄さん、役になりきってるねぇ。凄い!」
「はあ」
「お付きの人もどうぞ!」
「かたじけない」
娘の話す言葉は理解できないものもある。やはり、天女か? そう思いながら、男は一口みずようかんなるモノを口に入れた。
「っ!? 何だこれは!」
「疲れた体には美味しいでしょう?」
男は今まで口にしたことのないほど美味な食べ物に仰天していた。
何だこれは。この世の食べ物なのか? えぐみもない、雑味も何もない。ただ透き通った甘さと旨味がある。
下人も、目を見開いて男の方を見ていた。
これを食べてしまえば、今まで食べていた料理が味気なく感じてしまう。
「これをもう一つ頂けないか」
「ごめんなさい、もうこれで最後だったの」
「そうか……」
残念な顔をしていたのだろう。男が娘の方をみれば、娘は困ったように眉を寄せて笑っていた。
ふわりと不思議な芳しい香りが娘が動くごとに漂う。
やはり、この娘は天女だ。
男の中に一つの確信が芽生えた。
この娘を返すのは惜しい。私の妻にしたい。娘が器を片付けている間に、男は下人へ指示を出した。
「私はあの娘が欲しい。帰ったらすぐに、文を出す用意をしておきなさい」
「承知いたしました」
知られる前に、自分のものにしよう。そう男は思ったのだった。
そして、男は自身の宣言どおり文を出そうとするのだがそれを政権敵の貴族に知られてしまう。長年女に興味のなかった男が文を出すなど何事か? と興味を持たれ、男だけの秘密はすぐさま皆のものへとなってしまったのであった。
2
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる