星の堕ちた世界で～終末世界のエルフ～

３７ お土産店というよりもこれは……

　そして、ようやく到着した。
　それが川陸亭。

　ユーくんが以前から、行きたいと話していたＫ県Ｋ市にあるお土産店だ。
　『リトリー・オンライン』で遊んでいる頃の話だから、相当な思い入れがあるんだろう。
　場所は長谷の大仏様の正面だから好立地だし、品揃えのマニアックなところが売りで結構、人気があるらしい。
　有名な観光地のお土産屋さんとは思えない品目が店の公式サイトにも掲載されていた。
　確かにマニアックだと思う。
　普通のお土産店とはとても思えない売り物が並んでいるのだから。

「でも、店構えは普通ね」
「見たいのがある売り場は二階なんだ」
「そうなの？」
「そう、そう」

　ユーくんはけろけろしているけろっとした顔をしていて、いまいち感情の機微を読み取りにくい部類だ。
　でも、はっきりと分かる。
　かなり喜んでいるんだって。
　顔色も真っ白なけろけろっとしたのだから、分かりにくいのになぜか、分かる。



「これは確かに……」
「予想以上にスゴイなあ。にしししし」

　ユーくんが興奮するのも理解できる。
　店構えは年季の入った如何にもお土産屋さんといった風情にしか、見えなかった。
　ところが二階に上がった途端、別世界が広がっていた。
　ここは異世界かな？
　そんな勘違いを起こしそうな不思議なフロアだった。

「もしかして、アレかな？」
「アレって？」
「だから、アレよ」
「それじゃ、伝わらないよ」

　そう言われても咄嗟に言葉が出てこないから、アレになってしまう訳で。
　記憶の整合性が取れなくて、適当な言葉が引き出しから、出せないのでなっちゃうらしい。

「つまり、アレなのよ」
「だから、そのアレが分からないってば」
「これはきっと……そう。資格者（プレイヤー）向けなんじゃない？」
「ああ。そういうことか。そうみたいだね」

　ユーくんもあっさりと同意した。
　明らかにプレイヤー向けの装備類を販売している。
　確か、レプリカの日本刀や西洋の刀剣、銃器を販売していたはず。
　刃が付いてないことをアピールして、安全性を前面に出していたのにこれは一体……。

　公式サイトに掲載されている売り場の写真は恐らく、更新されていないだけなんだろう。
　ううん？
　もしかしたら、わざと更新していないって可能性もありそう。

　世界がこんなことになったからなのか。
　これまで普通のお店だったのが、驚きのビフォーアフターを遂げた！　なんて話もざらじゃない。
　わたしの住む町にあるコンビニも密かにプレイヤーコーナーを設けているほどだ。
　それだけ、プレイヤーの存在が人々の間で大きくなっているんだと思う。

「そういえば、ゲームでこんなのあったよね」
「映画でもあったね」

　ＳＦ映画とかで特別なお客さんが来たら、売り場が変形する演出をされるアレだ。
　川陸亭は売り場やショーケースがチェンジするのではなく、二階のフロア全体がプレイヤー専用のアイテムで占められているだけ。
　ゲームや映画のようなインパクトはないけど、実用性を考えたら、チェンジするよりもこの方がいいのかもしれない。

「あれ？　ユーくん、いいロングソードとラウンドシールあるじゃない」
「そうだけどさ。やっぱ、欲しいじゃん」
「あぁ……もしかして、ああいうの？」
「うん。ああいうのがいいな」

　わたしの指差した先にある物を見て、ユーくんは目を輝かせている。
　そう。
　そこに並んでいるのは両手で持つのが前提の大型武器だ。
　両手剣や大剣、槍、薙刀、大槌。
　扱いが簡単な物から、それなりに難しい物まで色々と揃っている。

　ユーくんの好みは両手剣や大剣だ。
　でも、商店だから、さすがに銘付きのいいアイテムは置いてないと思う。
　そういうのを探すのなら、フィールド化したダンジョンやダンジョンに行くしかないし、目当ての物が見つかるとは限らないから、ギャンブル要素が強い。
　ギルドでも扱ってはいるけど、これまた運が絡む。
　自分が望むアイテムに出会えるかは結局、運次第ってことになる。

「本当に買うの？」
「まあ。来た記念にお土産みたいな」
「そういう感じなのね」
「うん」

　なるほど、分かった。
　修学旅行で木刀を買いたがる男子の心境に近いんだろう。
　しかし、「買ってあげる」と言ったら、秒で断られたのが解せないんだけど……。