上 下
29 / 43
後日談

番外編2話 作戦会議は重要

しおりを挟む

「私が来たからには何も心配することはございません。安心してくださいね」

 ミレイことフランソワーズのこの自信満々な態度に頭が痛くなってくるのは彼女が全く、回復をしないで殴りに行くヒーラーだからだ。
 殴りヒーラーは攻撃をしつつ、回復もこなすヒーラーらしい。
 エステルが教えてくれたのはそういう説明だった。

 でも、フランソワーズは違う。
 殴るだけ。
 攻撃しかしない。
 回復魔法を使うところを見たことがないのだ。
 そして、今日はマリーナさんという回復のエキスパートがいない。
 だからって、フランが回復魔法を使うと思う?
 答えは否としか、言えないわ。

 あたしは正直、ゲームでそんなに遊んでいなかったから、そういう難しいテクニック的なものに詳しくない。
 だけど、タケルと二人で遊んでいる時にそういうテクニックを色々と教えてもらった。
 ランスのクラスはパラディン。
 タンクと呼ばれる敵の注目を引き付けて、味方を守る役目を受け持っていること、戦闘中の彼が味方への支援と回復で忙しいこと。
 色々と知ったのだ。
 あたしはプリンセスというレアなクラス。
 始めた当初はギルドの誰もノウハウがなくて、よく分からなかったんだけど、今はそれなりに出来ることが分かってきた。
 あたしのやれることで仲間を助けられるようになってきたのだ。
 クラスが高いレベルの魔法はさすがに使えないけど、専用の支援魔法を使えたりする。
 高いレベルのは無理でも回復魔法も使えたりするのだ。
 疑似ヒーラーも出来るっちゃ、出来るんだけどね……。
 あたしも回復するのより、殴る方が好きだから、困る。
 それにそんなことじゃ、いつまでたってもフランが成長出来ないって、マリーナさんも心配してるのだ。

 困ったことに本人はとっても楽しそうに殴ってるもんだから、周りも本人の気持ちを大事にしようってことで特に注意してない。
 あたしもあれだけ、楽しそうなんだから、いいかなって思ってる。
 ミレイが普段、どれだけ努力していて、苦労しているのかを知っているから。
 ストレス発散するのも悪くないかなって。

「タンクはいつも通り、僕がやるので問題ないかな?」
「うん。ランスのヘイトコントロールなら、大丈夫だよ」

 うーん、複雑だわ。
 ランスとヴォルフの従弟二人が並ぶとホント、絵になるのよね。
 お似合いの二人って言われても無理ないくらいにきれいだもん。

「アタッカーは物理系が私とフラン。魔法系がヴォルフと三人になりますね。作戦名は『殺られる前に殺る』ですわ」
「じゃあ、あたしがバッファー兼ヒーラーってことでいいの?」
「リナのヒールだと回復量が厳しいでしょ? だから、あの作戦名なのですわ」
「私はランスさんがヘイトコントロールをしてから、殴ればいいのでしょう?」
「ええ、そこはいつも通りで構わないです。ただ、今回はイベントボスのドラゴンなので未知数なところが多いです。無理はしないでいきましょう」

 エステルはやっぱり、手慣れているというか、さすがとしか言いようがないわね。
 ギルドの参謀格として、万事取り仕切っているのは彼女だもん。
 フランの性格を考慮に入れて、頭から抑える言い方はしないところなんて、見事すぎるわ。

「分かりましたわ」
「開幕はランスがヘイトコントロール。リナと僕が支援魔法を掛けてから、フランが吶喊とっかん。エステルは後方からの狙撃。この流れで行こう」

 ヴォルフによる最後の確認をもって、イベントボス戦への出陣前準備は終わったのである。
 ドラゴンと戦うなんて、ドキドキするわね。
 ん? ドラゴンって、そう言えば、始めたばかりの時に会ったような……。

「ねえ、ヴォルフ。あなた、ソーサラーだよね?」
「そうだよ。何か、気になることあった?」
「魔法を使うとドラゴンを一撃で切り裂いたり、凍らせたり出来るの?」

 あたしが小首を傾げて、そう問い掛けるとヴォルフは眉間に皺を寄せ、難しい顔になった。

「いや、そんな話聞いたことないよ。高レベルの魔術師でもソロでドラゴン討伐はまだ、ないんじゃないかな」
「えっ。そうなんだぁ」

 あのドラゴンは今回のイベントボスみたいな強い個体じゃないのかもしれないけど。
 それでも片手で切り裂いたり、凍結したリリスって、一体何者なの?
 心の中にふと湧いた疑問。
 でも、そんな迷いはこれから始まるまだ見ぬ強敵・ドラゴンとの戦いを前に緊張と興奮でいつの間にか、消えていた。

 リリスはあたしの迷っている心を押してくれた恩人なんだし。
 深く考えるとか、気にするのって、得意じゃない。
 今は集中しないとねっ!
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

練習なのに、とろけてしまいました

あさぎ
恋愛
ちょっとオタクな吉住瞳子(よしずみとうこ)は漫画やゲームが大好き。ある日、漫画動画を創作している友人から意外なお願いをされ引き受けると、なぜか会社のイケメン上司・小野田主任が現れびっくり。友人のお願いにうまく応えることができない瞳子を主任が手ずから教えこんでいく。 「だんだんいやらしくなってきたな」「お前の声、すごくそそられる……」主任の手が止まらない。まさかこんな練習になるなんて。瞳子はどこまでも甘く淫らにとかされていく ※※※〈本編12話+番外編1話〉※※※

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...