【完結】日本で生まれたのに見た目はファンタジーな私!日本語しか喋れないんだけど、何か悪いの?~ピンク髪のヒロインはVRゲームの中で恋愛する~

黒幸

文字の大きさ
上 下
28 / 43
後日談

番外編1話 冒険の日々は続いている

しおりを挟む
 あたしは今、オーストリアにいる。
 タケルがオーストリアのクラブチームに加入したからだ。
 このクラブの経営者。
 つまりはオーナーなんだけど、あのミレイだ。
 父親が経営していたクラブを譲り受ける形でのオーナー就任だったんだけど、元々、陣頭指揮を執っていたのはミレイ。
 だから、書類上も表向きも全てがミレイになっただけ。
 『簡単なことでしょ?』とはミレイ本人の言葉だ。

 あたしは特にゲームが好きとか、嫌いとか、特にこれといった感想は抱いてなかった。
 強いて言うなら、モデル業の上でのビジネスゲーマーを装う可能性があったかもしれない過去があるくらい。
 だって、あたしが好きなのはタケルがゲームをしていて、楽しそうにしている姿を見ていることなんだから。
 それでタケルがゲームに集中しすぎて、あたしのことを構ってくれないのが嫌!
 ゲーム自体が嫌いって訳じゃないのにゲーム嫌いみたいに誤解されてたのはそのせいだと思う。

 ここで意外だったのは生粋のお嬢様のミレイだ。
 ゲームに偏見があるどころか、大のゲーム好きだったことが分かって、びっくりした。
 父親のサッカークラブ運営を手伝おうと思ったのも『リアルでサカ〇く出来ますわくらいのノリだったわ』と笑いながら言っていたから、あの子に下手に権力握らせると危ないわね。

 タケルとあたしの中々、進展しないもどかしい関係を一歩以上、進ませてくれたのがVRMMORPG『グリモワール・クリーグ』というゲーム。
 世界共通プラットフォームが売り文句らしいんだけど、何だかよく分からない。
 要はどこにいても遊べるってことで会う機会が減ってしまった大好きな友達とも会えるし、一緒に遊べるから、今でもよく遊んでいる。
 コミュニケーションツールの一種と考えれば、これほど優れた物はないんじゃない?

 今日はタケルがオフの日。
 だから、久しぶりに一緒にあちらのファンタジーな世界で遊べるのだ。
 ログインするといつも通りの見慣れた部長もといマリーナさんの設立したギルドのサロンだ。
 そこにボッーと立っているのは黒髪ショートカットの美女に見えるけど、実は単に顔がきれいなだけです! っていうカオルもといヴォルフだった。

「ヴォルフ、久しぶりね。元気だった?」
「おや、本当にリナリアだ。久しぶりだね。そっちこそ、元気なの? ランスは?」
「彼も今日はオフだから、もうちょいで来ると思う」

 噂をすると何とやらで、あたしがそう言ってから、諮ったように全身鎧を着込んだランスがログインしてくる。

「ランス、久しぶりだね」
「ヴォルフ、久しぶり。そっちはどうかな?」
「どうっていうほど変化ないよ。平々凡々とした普通の大学生活しているよ」
「大学生かぁ。あたしも普通のキャンパスライフって、ちょっと憧れていたわ」

 現在は正直、普通とはかけ離れている訳で……。
 言葉を覚えるのが大変じゃなかったのかと言われるとそこそこに面倒だったわ。
 それに加えて、今やクラブの看板選手になったタケルの体調も管理しなくてはいけない。
 栄養面の管理をしながら、彼が喜んでくれそうな料理を考えなくちゃいけないのだ。
 でも、タケルが喜んでくれるとあたしも幸せ。
 だから、毎日大変だけど頑張っているのだ。
 彼が進学を選んでいたら、普通のキャンパスライフを送っていたのかなって、想像しなかった訳じゃないけどね。

「リナリア、もしかして、後悔してる?」
「ううん、後悔なんてしないわ。あたしはあなたの隣にいるって、自分で決めたんだもん。どんな場所でも何があっても一緒だから……ね?」
「リナリア」
「ランス」
「はいはい、お二人が熱いのは分かったよ」

 ヤレヤレと両手を上げながら、うんざりといった表情を見せるヴォルフだけど笑いを堪えながら、言っていることに本人は気付いていないらしい。

「そういうヴォルフこそ、エステルとの仲はどうなの?」
「順調だよ、僕達は清く正しい交際を続けているからね。ふふっ」
「それだとあたしたちがまるで清くない交際のように聞こえるんだけど?」
「身に覚えがないとは言わないよねぇ」

 ジトッとした目で見つめられると反論出来ないじゃない。
 身に覚えがあるっていうか、あたしとタケルが毎日のように肌を重ねているのは事実だし。
 爛れた関係って訳じゃないんだけどね……。
 あたしたちはもう法的にも夫婦なんだし、おかしくないはずなんだけどそう言われると妙に恥ずかしくなってくるのはなんでかな?

「ヴォルフ、あまりリナリアをいじめないでね」
「分かってるって。君達があまりに幸せそうだから、いじりたくなっただけだよ?」

 フフッと微笑みかけるヴォルフの姿は本当にきれいだ。
 これだと騙される男の人が一人や二人じゃ済まないだろう。
 幼馴染三人が久しぶりに会えて、嬉しくって、騒いでいるとまた、一人ログインしてきた。

「遅れて、ごめんなさい」

 大きな弓を背負って、ログインしてきたのは珍しく、髪をポニーテールに結んだエステルだ。

「エステル、会いたかった! 久しぶりね、元気そうで良かった」
「リナリアも元気そうで良かった。まだ、大丈夫なの?」

 彼女とも長い付き合いでお互いに何でも言い合える仲だから、親友と呼んでいいのかな?
 大丈夫なの? とあたしのお腹を見て、言ってきたから、赤ちゃんがどうのって話なんだろう。
 早く欲しいって望んでいるし、毎日アレなのに出来ていない。

「ん? え? あぁ、残念だけどまだなの」
「そうなの? もう年内にはかわいい赤ちゃん見られるのかなって、楽しみにしていたんだよぉ」

 ケラケラと屈託なく笑うエステルの顔を見ているだけであたしの心は癒される。
 あたしは見た目がこんなピンク色の髪で目が青いイケイケな感じのせいか、きつくて攻撃的な性格と思われているらしい。
 あたしもそういうキャラを演じる方が周囲との関係も楽かなって、思ってやってたし。
 本来のあたしはタケルが側にいないとすぐ泣いちゃう泣き虫。
 演じている自分とのギャップに疲れていたから、彼女の素直な表情と言葉にどれだけ、癒されたことか。

「マリーナさんは今日は無理なんだっけ?」
「そうそう、何でもお見合いさせられるとかでかなり、お怒りモードだったよ」
「へえ、お見合いなんて、あの人、やっぱりお嬢様だったのね」
「そうすると今日はヒーラーなしの感じかな?」

 マリーナさんこと部長は部長ということから分かる通り、文芸部の部長を務めていた美人だけど変人な先輩だ。
 なぜか、あたしとタケルのことを気に掛けてくれて、あたしたちの仲が進むように応援してくれた恩人でもある。
 彼女はギルドの創設者でもあり、唯一のヒーラーだから、今日これから挑もうとしているイベントボスを倒すのに必須のクラスなんだけど。
 まさか、お見合いとはね!

「それで代わりを務めるって、朝から気合入りまくってるのがいるのよね」

 腕まくりをして、『さあ、やりますわ』と息巻いている美少女の姿を想像して、ちょっと頭が痛くなってくる。

「あぁ、彼女か。大丈夫なの?」
「あの子って、確かヒールよりも殴るのが好きではなかった?」

 ヴォルフとエステルからの評価が『言わずもがな』ってやつだよね。
 仲が良くなったというか、戦友みたいな感じで関係が近付いたから、VRMMOに誘ってみたんだけど、元々ゲーム好きだったからか、はまっちゃったらしい。
 それは別に悪いことじゃないと思う。
 お嬢様でサッカーチームのオーナーでセレブだって、趣味がゲームで悪いはずがない。

「皆さん、ごきげんよう!」

 噂をしたら、やってきたわ。
 ログインしてきたのは髪をサイドテールにまとめ、レオタードに似た形状の服にフリルのスカートが装飾されてた露出度高め! 注目度高め! の防具を身に着けた美少女だ。
 彼女こそ、うちのギルドの新人メンバー。
 リアルでは雇い主でもあるミレイことフランソワーズ。
 彼女のクラスはバトルモンク。
 謳い文句は殴って、回復出来る万能ヒーラー。
 一応、ヒーラー枠のクラスだ。
 区分としては殴りヒーラーって、言うらしい。
 ミレイの場合、殴るしかしてない気がするけど!

「私が来たからには何も心配することはございません。安心してくださいね」

 不安だ。
 むしろ不安要素しかないでしょ。
 あぁ、頭が痛いわ。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

処理中です...