42 / 56
第42話 計画を壊す者
しおりを挟む
(???????視点)
もう思い出せない。
ワタシは誰?
顔も思い出せない。
ワタシは何をしていたのか。
誰だったのか。
辛うじて、覚えている名前がカイだったことだけだ。
そして、今、ワタシのいるこの世界がワタシの世界ではない……。
それも知っている。
ワタシがワタシとして、目覚めた時。
姉と妹がいた。
覚えられないほど、たくさんの姉と妹がいる。
ワタシの知らない姉と妹だ。
「わたしたちは神の娘」
「世界を正しき方向に」
彼女らは口を揃えて、言う。
何の疑問も持たずに言う。
ワタシハチガウ。
帰りたい。
ココハワタシノバショデハナイ。
姉妹はそれぞれの運命に従って、世界に散っていった。
ワタシも例に洩れず、己の運命とやらに従わされた。
なぜ、従わないといけないのか。
心ではそう思っているのに体は勝手に動いてしまう。
神はどこまでも身勝手な存在らしい。
ワタシの居場所はココではないのに……。
心の中にいつしか、禍々しく黒い炎が燻ろうともワタシは運命とやらに従わなくてはいけない。
「そんな運命はつまんないよな?」
ある日、ワタシの前に現れた妙な装束の男が言った。
道化服に身を包んだ男は、僅かに口角を歪めた気味の悪い笑顔を浮かべている。
それなのにワタシは嫌悪感を抱かない。
不思議だ。
「それが使命だから」
そう答えるのがワタシの常だった。
神の娘であるワタシにはそう答えることしか、許されない。
ワタシの心を無視して、意思をないがしろにして、唇がそう紡ぐのだ。
「運命なんて、ちゃんちゃらおかしいと思わないか。ええ? 思うだろ? 壊したいと思うよな? 思うだろ? 違うか?」
男が握手でもしようというのか、手を差し出した。
手を取れと言わんばかりに……。
「さあ。選べ。己が運命に抗え」
ワタシは拒絶しようと言わんばかりに震えの止まらない手を伸ばし、男の手を握った。
ワタシの心が神の与えた体に初めて、勝ったのだ。
喜びに打ち震えるワタシに男が囁く。
「壊そうぜ。大地を! 世界を! なあ。それはとても、楽しいことなんだ。壊した時に俺は生きているって、実感出来るんだぜ。最高だろ。お前には分かるはずだ。そうだろ、ラーズグリーズ」
そう。
ワタシの名はラーズグリーズ。
十三番目の戦乙女。
計画を壊す者。
その日、ワタシは庇護すべき存在の少女を壊した。
ワタシを止める者は誰もいない。
懐かしい夢を見た。
思い出したくない思い出と言った方が正しい嫌な夢だ。
ワタシは既に何者だったのか、思い出せない。
帰りたい。
ただ、それだけを願っていた。
なぜ、帰りたいのか。
帰って、どうしたいのか。
それすらも覚えていない。
だから、壊した。
帰るには壊さないといけない。
全てを壊した時、ワタシは帰ることが出来る。
あの子に謝ることが出来るのだ。
あの子?
あの子って、誰?
「ヒメちゃん……」
「奥様。どうなされましたか? お加減が宜しくありませんでしたか?」
ベアータの声ではっと目が覚めた。
どうやら、入浴中に転寝していたようだ。
それで変な夢を見てしまったのだろう。
「何でもないわ」
間も無く、終わる。
全てが終わる時が刻一刻と近づいているのだ。
この為にワタシは壊してきた。
あの道化の男に唆されるままにただ、ひたすら壊した。
後悔したことはこれまでになかった。
あの子に似た屈託のない笑顔を見せる少女を壊そうともワタシの心は、少しも痛くはないのだ。
決して、そのようなことはない。
この世界は泡沫の夢に過ぎないのだから。
全てを壊して、ワタシは帰らなくてはいけない。
夢が覚めれば、ワタシは戻れる。
だから、壊してもいい。
全て、壊れてしまえ。
間も無く、終わる。
ジャネタ・コラーとして、生きることも……。
ラーズグリーズとして、生きることも……。
全てが終わるのだ。
それがワタシの希望。
もう思い出せない。
ワタシは誰?
顔も思い出せない。
ワタシは何をしていたのか。
誰だったのか。
辛うじて、覚えている名前がカイだったことだけだ。
そして、今、ワタシのいるこの世界がワタシの世界ではない……。
それも知っている。
ワタシがワタシとして、目覚めた時。
姉と妹がいた。
覚えられないほど、たくさんの姉と妹がいる。
ワタシの知らない姉と妹だ。
「わたしたちは神の娘」
「世界を正しき方向に」
彼女らは口を揃えて、言う。
何の疑問も持たずに言う。
ワタシハチガウ。
帰りたい。
ココハワタシノバショデハナイ。
姉妹はそれぞれの運命に従って、世界に散っていった。
ワタシも例に洩れず、己の運命とやらに従わされた。
なぜ、従わないといけないのか。
心ではそう思っているのに体は勝手に動いてしまう。
神はどこまでも身勝手な存在らしい。
ワタシの居場所はココではないのに……。
心の中にいつしか、禍々しく黒い炎が燻ろうともワタシは運命とやらに従わなくてはいけない。
「そんな運命はつまんないよな?」
ある日、ワタシの前に現れた妙な装束の男が言った。
道化服に身を包んだ男は、僅かに口角を歪めた気味の悪い笑顔を浮かべている。
それなのにワタシは嫌悪感を抱かない。
不思議だ。
「それが使命だから」
そう答えるのがワタシの常だった。
神の娘であるワタシにはそう答えることしか、許されない。
ワタシの心を無視して、意思をないがしろにして、唇がそう紡ぐのだ。
「運命なんて、ちゃんちゃらおかしいと思わないか。ええ? 思うだろ? 壊したいと思うよな? 思うだろ? 違うか?」
男が握手でもしようというのか、手を差し出した。
手を取れと言わんばかりに……。
「さあ。選べ。己が運命に抗え」
ワタシは拒絶しようと言わんばかりに震えの止まらない手を伸ばし、男の手を握った。
ワタシの心が神の与えた体に初めて、勝ったのだ。
喜びに打ち震えるワタシに男が囁く。
「壊そうぜ。大地を! 世界を! なあ。それはとても、楽しいことなんだ。壊した時に俺は生きているって、実感出来るんだぜ。最高だろ。お前には分かるはずだ。そうだろ、ラーズグリーズ」
そう。
ワタシの名はラーズグリーズ。
十三番目の戦乙女。
計画を壊す者。
その日、ワタシは庇護すべき存在の少女を壊した。
ワタシを止める者は誰もいない。
懐かしい夢を見た。
思い出したくない思い出と言った方が正しい嫌な夢だ。
ワタシは既に何者だったのか、思い出せない。
帰りたい。
ただ、それだけを願っていた。
なぜ、帰りたいのか。
帰って、どうしたいのか。
それすらも覚えていない。
だから、壊した。
帰るには壊さないといけない。
全てを壊した時、ワタシは帰ることが出来る。
あの子に謝ることが出来るのだ。
あの子?
あの子って、誰?
「ヒメちゃん……」
「奥様。どうなされましたか? お加減が宜しくありませんでしたか?」
ベアータの声ではっと目が覚めた。
どうやら、入浴中に転寝していたようだ。
それで変な夢を見てしまったのだろう。
「何でもないわ」
間も無く、終わる。
全てが終わる時が刻一刻と近づいているのだ。
この為にワタシは壊してきた。
あの道化の男に唆されるままにただ、ひたすら壊した。
後悔したことはこれまでになかった。
あの子に似た屈託のない笑顔を見せる少女を壊そうともワタシの心は、少しも痛くはないのだ。
決して、そのようなことはない。
この世界は泡沫の夢に過ぎないのだから。
全てを壊して、ワタシは帰らなくてはいけない。
夢が覚めれば、ワタシは戻れる。
だから、壊してもいい。
全て、壊れてしまえ。
間も無く、終わる。
ジャネタ・コラーとして、生きることも……。
ラーズグリーズとして、生きることも……。
全てが終わるのだ。
それがワタシの希望。
92
あなたにおすすめの小説
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。
可愛い姉より、地味なわたしを選んでくれた王子様。と思っていたら、単に姉と間違えただけのようです。
ふまさ
恋愛
小さくて、可愛くて、庇護欲をそそられる姉。対し、身長も高くて、地味顔の妹のリネット。
ある日。愛らしい顔立ちで有名な第二王子に婚約を申し込まれ、舞い上がるリネットだったが──。
「あれ? きみ、誰?」
第二王子であるヒューゴーは、リネットを見ながら不思議そうに首を傾げるのだった。
「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです
しーしび
恋愛
「結婚しよう」
アリーチェにそう約束したアリーチェの幼馴染みで勇者のルッツ。
しかし、彼は旅の途中、激しい戦闘の中でアリーチェの記憶を失ってしまう。
それでも、アリーチェはルッツに会いたくて魔王討伐を果たした彼の帰還を祝う席に忍び込むも、そこでは彼と王女の婚約が発表されていた・・・
私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。
永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~
畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。
わたしの婚約者なんですけどね!
キムラましゅろう
恋愛
わたしの婚約者は王宮精霊騎士団所属の精霊騎士。
この度、第二王女殿下付きの騎士を拝命して誉れ高き近衛騎士に
昇進した。
でもそれにより、婚約期間の延長を彼の家から
告げられて……!
どうせ待つなら彼の側でとわたしは内緒で精霊魔術師団に
入団した。
そんなわたしが日々目にするのは彼を含めたイケメン騎士たちを
我がもの顔で侍らかす王女殿下の姿ばかり……。
彼はわたしの婚約者なんですけどね!
いつもながらの完全ご都合主義、
ノーリアリティのお話です。
少々(?)イライラ事例が発生します。血圧の上昇が心配な方は回れ右をお願いいたします。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……
ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。
ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。
そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。
婚約破棄されたショックで前世の記憶を取り戻して料理人になったら、王太子殿下に溺愛されました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
シンクレア伯爵家の令嬢ナウシカは両親を失い、伯爵家の相続人となっていた。伯爵家は莫大な資産となる聖銀鉱山を所有していたが、それを狙ってグレイ男爵父娘が罠を仕掛けた。ナウシカの婚約者ソルトーン侯爵家令息エーミールを籠絡して婚約破棄させ、そのショックで死んだように見せかけて領地と鉱山を奪おうとしたのだ。死にかけたナウシカだが奇跡的に助かったうえに、転生前の記憶まで取り戻したのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる