婚約者の地位? 天才な妹に勝てない私は婚約破棄して自由に生きます

名無しの夜

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131 納得

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 納得いかない。いや、理屈は分かる。相手の言い分の方が正しく、感情的になってるのは俺の方だという自覚もある。だがそれでもーー

「何で俺を連れてかないんだよ」

 昨日、俺以外のクランメンバーが偶々街で出会ったらしく、クエストに付いての打ち合わせが行われた。そのこと自体は構わない。ただ一点、俺を勝手に外したことを除けば。

「……やっぱ頼りにされてないのか?」

 エルフの里に行くにはシャドーデビルが出た危険地帯を通る必要がある。前回の事件の後、当然ながら国とギルド双方が森を調べた。だから国家を脅かす魔物があの森にまだ潜んでいる可能性は限りなく低い。だが決してゼロじゃない。

 そんな場所に行くというのにドロシーさんは今回のクエスト、俺は来なくて良いと言う。学校の勉強頑張れと。

「駄目だ。全然頭に入らねー」

 溜息をつくと、開いていた本を閉じた。気付けば早朝の静けさに包まれていた教室は、すっかりと喧騒という産声を上げている。

「ようレオ。怖い顔してどうした? ってか、何を読んでるんだ?」

 締まりのないヘラヘラとした笑みに合わせて男にしては長い金髪が揺れている。クルスは俺の本を手に取った。

「呪痕の専門書? 医療第二種の勉強か?」
「そっちとは別だ」
「熱心だねぇ。そんな熱心だと疲れるだろう。どうだ? 息抜きにいかないか?」
「息抜き?」

 何かいいことでもあったのか、クルスは嬉しそうに俺の肩に腕を回してくる。

「今日、久しぶりに登校してるらしいぜ」
「誰がだよ?」
「おいおい。我が友は察しが悪いな。アリア•ドロテア様に決まってるだろ」

 神秘的な雰囲気を身に纏った美少女の姿が脳裏に浮かんだ。

「俺も遠目にちょっと見れたけど、やっぱ雰囲気がヤベーわ。光ってないのに全身から魔力光が見える感じ。あ~、お近づきになれねーかな」
「……親しくなりたいなら話しかければいいだろう」
「いや、相手はドロテア家の御令嬢だぞ? 長女のドロシー様が次期王妃な上、父親であるジオルド様はこの国初となる超法規的な権限を持った特殊部隊の長。それでなくてもドロテア家は有名だってのに、もう完全に天上人。気軽に挨拶なんて出来ねーから」
「次期王妃って……ドロシーさんと王子の婚約は破棄になっただろ」
「はぁ? それ、どこ情報?」
「どこって……」

 本人が言ってた。とは言わない方がいいか? デリケートな問題だし。……うん。言わない方がいいな。

 黙ってるとクルスの奴が肩をすくめた。

「確かにドロシー様は現在冒険者として活動されてるみたいだが、ゲルド王子との婚約がどうなったかは公表されてないだろ。まっ、冒険者になったドロシー様の代わりにアリア様と婚約したって噂もあるけどな。くっそー、あの無能王子が俺のアリア様と。マジで許せん」
「お前のじゃないだろ。それよりもあんなんでも一応王子だぞ。こんな所でそんなこと言うなよ」

 あのバカ王子を庇うつもりはまったくないが、それでも相手はこの国の王子なのだ。この学校には貴族の子供が多くいる、どんな経路で誰に伝わるか分かったもんじゃない。

「大丈夫だって、むしろ今は王子を庇うようなことを言う方が貴族の間じゃまずいからな」
「そうなのか?」
「ああ。反王族派でも出来るんじゃないかって勢いだ」
「マジか。あの王子の評判が壊滅的なのは知ってたが……いや、あんな事件を起こしたら当然か」

 誰もが再生魔法の恩恵に預かれるわけじゃない。リトルデビルにやられ、一命は取り留めたものの、日常に支障をきたす大怪我を負い途方に暮れている人達がうちの病院には多くいる。

 親父やお袋はそんな人達を助けようと頑張っているが、金銭的な事情を初め、対象となる患者の多さ、体力の限界、思うようにいかない現実に最近はどちらもピリピリしてる。

 うん。やっぱあのバカ王子がどうなろうが知ったことじゃないな。

「あ~。それもあるが、やっぱ前から言われていたことが今回の件で表面化したことが大きいな」
「前から? 何のことだよ」
「最近魔物の動きがヤバいことは知ってるだろ?」
「ああ」

 魔物被害の多発化。勉強や授業で忙しい俺でも勝手に耳に入ってくる。

「今までも危険な魔物が出現したって程度の問題ならあったが、今回の魔物被害の多発化は近年例を見ないレベルだ。すぐ収まるって言う楽観的な奴もいるにはいるが、多くの人はそう思っていない」
「まぁ、原因もわかってないのに、いきなりピタリと止まるっていうのはちょっとないかもな」
「だろ? 大抵の場合ここまで騒がれるようになった魔物被害はその魔物を討伐しなければ終わらない。でも今回の場合は大陸全土を巻き込んでるんだぜ? 楽観しろってほうが無理だろ」
「大陸全土とか……。黄昏伝達のような会社が面白半分で言ってるだけだろ」
「いや、教会が似たようなデーターを公表した」

 教会。ギルドよりもずっと前から人類の為に活動し続けてきた組織。そこの情報を疑う者はいない。

「それは……そうか。でもそれとバカ王子の件に何の関係があるんだよ?」
「だからさ。こんな時代だと自分らのトップには敏感になるだろって話。間違っても自分の名声欲しさに部下を死地に送るような奴に命令されたくないわけだ」
「まぁ、そりゃな」

 誰だってそうだろう。俺だってそうだ。

「言いたいことはわかるが相手は王子だぞ。無能だからはいどいくれと言うわけにはいかないだろう」
「だからこそ、今ドロテア姉妹に注目が集まってるんだよ」
「は? それって……」
「王になる男が馬鹿でも、王妃になる相手が優秀ならまだ希望はあるだろ? なんせ、姉妹のどちらもが十代の若さでS指定の魔物を単独撃破してるんだぜ? スゲーよな」

 アリアさんはともかくドロシーさんがS指定単独撃破したというのは誤解なのだが、そういうのを抜きにしても何だか面白くない話だ。

「勝手にそんなこと期待されたって二人とも困るだろ。それにどっちも王子と結婚しないかもしれないだろ」
「いやいや。王族としてもここでドロテア家を逃す手はないだろ。ん? 何だよその顔は。あっ、お前、もしかして……」
「何だよ?」 
「はは~ん。なるほどね。分かる。分かるぞ」

 クルスが肩を叩いてくる。別に痛くはないが、無性に腹が立つ顔をしている。なのにコイツときたら、その顔をグイッと近づけて来た。

「で? どっちなんだよ?」
「だから何がだよ」
「照れるなって。ドロテア姉妹のどっちかが気になるんだろ? 普通に考えればアリア様だが、意外とドロシー様の方か?」
「はっ!? な、何でそうなるんだよ?」

 ショートカットの黒髪を揺らして、微笑む彼女の顔が浮かんだ。

「その反応、ドロシー様の方か。いや、分かるぜ? ここだけの話、在学中はドロシー様とアリア様が姉妹とか、まじで? って感じだったが、伝達絵巻に乗ってたドロシー様、普通に可愛かったよな。あれなら全然いける」
「いけるとか、変なこと言うなよな」
「いや、お前だって似たようなこと考えてるんだろ? なぁ、おい、言ってみろって」

 ニヤニヤと笑うクルス。ヤバイ。何だかコイツのことを思いっきりぶん殴りたくなってきた。

「うるせぇ。ったく。朝っぱらからお前は女の話しか出来ないのかよ」
「怒んなって。女っけのなかったお前が異性に興味を持って喜んでるんだからよ。だがまぁ、ドロテア姉妹は憧れ程度に留めておいた方がいいぜ? 治癒使いとしてのルネラード家は確かに権威ではあるが、貴族としては男爵。その点親父が伯爵である俺の方がまだチャンスが……チャンス……が?」
「今度は何だよ?」

 クルスの奴、得意げな顔でベラベラ喋ってると思ったら、いきなり黙り込んだ。

 ……いや、驚いてるのか? 何だ? 俺の後ろに何かーー

「レオ」

 その一言で教室の騒音がピタリと止んだ。この場にいる全ての者の感心を奪い去って、彼女はそこに立っていた。

「おはよう」
「アリア……さん?」
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