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108 夜道

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「すっかり暗くなったな」

『ギルドにおいでやす』から外に出ると、とっくに日は落ちていて、ギルド街は昼とはまた別の賑やかさに包まれていた。そんな街道を案の定酔い潰れたアリリアナを背負って、私はレオ君と肩を並べて歩く。

「イリーナさん、大丈夫かな?」

 金色の綺麗な縦ロールをゆさゆさ揺らしながら、アリリアナと一緒になってトイレでこれでもかってくらいゲーゲー戻してたから、ちょっと心配。

「だから『竜殺し』をストレートで飲むのはやめた方が良いって言ったのに」
「ロロルドさんが付いてたから心配ないだろ。あと、ドルドさんも」
「そういえば私、せっかくの機会なのにドルドさんとはあまり話せなかったかも」
「俺も。あの人、ちょっと独特な感じだよな。まぁ、焦んなくても同じクランになったんだし、これからいくらでも機会はあるだろ」
「うん。そうだよね」

 暑かった季節が終わろうとしているせいか、夜風がすごく気持ち良い。とても楽しい飲み会だったこともあって、心が妙に浮ついちゃってる。

「レオ君は……」
「マジックブルーのアサガオ」

「「えっ!?」」

 やだ、言葉が被っちゃった。

「ごめん。えっとマジックブルーのアサガオがどうかしたの?」
「いや、アリリアナが酔い潰れる前に言ってただろ。次のクエストで採取するのはそれだって。マジックブルーのアサガオなら採取専門の冒険者が選ばれるのが普通だろうに、よくオレ達のような駆け出しが落札できたよなって思って。それだけ。ドロシーさんは? 何か言いかけなかったか?」
「え? ううん。大したことじゃないの。それよりもアリリアナが競売で勝てたのは、最近エルフのカイエルさんとご縁ができたからだと思うよ」

 シャドーデビル討伐の際に助けたカイエルさんはエルフの里で次期族長と目されてる凄い人みたいで、そんなカイエルさんに頼めば、本来であれば許可を取ることがまず無理なエルフの里にも簡単に入れると思う。

「ああ、そうか。この花はエルフの里にしか咲かないんだっけか?」
「そういうわけじゃないけど、咲く場所がかなり限定される花だから、ゼロから天然のものを探そうと思ったら採取を専門にしている冒険者でも数ヶ月、下手をしたら年単位かかると思う。その点、エルフの里にあるって噂の花畑にはマジックブルーのアサガオを含めた色々な魔力種が咲いてるって話だよ」
「なるほどな。それじゃあ今回はエルフの里にお邪魔して花を取ってくるだけか」
「うん。だからレオ君は今回勉強の方に専念してても大丈夫だよ」

 冒険者資格を取ったからこれでレオ君はいつでも医療第二種の試験を受けることができるんだし、私達の活動に付き合って本来の目的である試験勉強が疎かになったら申し訳なさすぎる。

「それなんだけどよ、ドロシーさんはどう思ってる? 在学中に俺が第二種、取れると思うか?」
「え!? えっと、それは……」
「頼む。正直に答えてくれ」
「……筆記は問題ないと思うよ。ただ、実技は今のままだとちょっと難しいかも」

 医療魔法は自分の魔力を患者に送り込む際、いかに相手から抵抗を受けることなく自然に魔力を流せるかが重要になってくるけど、炎魔法が得意な人は魔力の同調が上手くない傾向が強かったりする。特にレオ君は魔力の放出に波ができやすく、軽い擦り傷とかを癒すヒーリングならともかく、神経や骨の接合など繊細な作業を任せるには不安が多かった。

「やっぱドロシーさんもそう思うか」

 ううっ、そんな顔されると大丈夫だって言ってあげたくなっちゃう。

「レ、レオ君は知識はもう十分合格点ラインにあるんだし、魔力の同調や安定も訓練次第で克服できるから、いずれ絶対合格できるよ。ただ、その、在学中となると……」

 実際炎系統の魔法使いでも腕の良い医療術師は沢山いる。私やメルルさんが早くから第二種の資格を取れたのは、レオ君みたいな魔力の性質によるハンデがなかったことが大きいだけなんだから。

「ありがとな。でも別にそんな落ち込んでるわけじゃないんだ。ただちょっと、なんつーか、悩んでる? みたいな、そんな感じなだけで」
「悩んでる?」

 そういえば冒険者試験を受けた辺りから、レオ君の様子がちょっと変だった気がする。

「何かあったの? あっ、勿論言いたくなかったらいいけど」
「いや、そんな大したことじゃないんだけど。俺……さ、医療術師にーー」


「やぁ、今日は夜風が気持ちいいね。私の夜空」


「きゃあああ!?」
「ふがっ!?」

 突然の、それもビックリするくらい近くから聞こえた声にビクリと体を震わせたら、私の肩がアリリアナの顎を打っちゃった。

「ドロシーさん。知り合いか?」

 レオ君が悲鳴上げた私を守るように前に出てくれる。

「この人はーー」
「ん~。どったの~? おうち着いた~? ベッド。私のベッドはぁ~? ベッドまで連れてってくれないとやなのぉ~、ねぇドロシ~、ドロシー聞いてる感じ~? ……うぉ、すっぎょい!! なに、この美形? わひゃった。あれでしょ、ほら、ほら、ほら、あれ、あれひょ、あれ。そう! 例のドロシーに求婚した聖人。ねぇねぇねぇねぇ、そうれひょ。ねぇドロシーってば~」
「聖人? …………求婚?」

 私におんぶされてるアリリアナが私の頬をペチペチと叩いたりキスしたりしてくる中、レオ君が眉を顰めて、ガルドさんが欠点なんか存在しないかのような、そんな微笑を浮かべた。

「また会えたね、ドロシー•ドロテア。私の夜空よ。そして初めまして、気持ちの良い風を纏った貴方に、鮮烈な炎を宿す少年よ。私の名前はガルド・セインクリアテッド。ドロシー•ドロテアを心から愛するただの男だよ」
「あ、愛? はぁ?」

 突然現れたガルドさんにレオ君が目を白黒させてるとーー

「ひょうイケメンでちょう聖人なのに、ドロテア姉妹をセットで頂こうとしてるとか、超強欲。アッハッハッハ!! オェ~」

 背中でアリリアナが盛大に戻しちゃった。
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