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五道転輪王
60、→覚悟、地獄か←
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ガチャ
「ふぅ~。やっといなくなってくれた」
俺は金の愚行を執務室の外の隙間から見届けると安全を確認した後、ゆっくりと執務室に入り掃き掃除を始めた。
「うまくやってくださいよ。泰山王様」
そう言うと俺は東の窓を開け天道に聳え立つ山梔子色に染め上げられたの宮殿を見据え優しく笑った。
そう、俺は今、今夜は帰らないであろう主のために部屋を整え、明日からはじまる激務に備えようと考えているのだ。
そしてまた、俺は主の為、秘めた思いを覆い隠すように窓を締め緑の分厚いカーテンを窓に引いた。
ガラガラガラ
「よし、これでよし!」
俺は私室と執務室の掃除を一通り終えると五道転輪王が泰山王から以前もらったペルシャという国の絨毯を床に敷いた。
いくつもの糸が織り重ねられ美しい模様を創り出している。
これなら帰還した主も前の絨毯のことを忘れ、喜ぶだろう。
そう考え満足そうな笑みを浮かべると主の私室の開けっ放しの襖の前に立った。
私室は先日、泰山王が綺麗に片づけて行った。
なので、主のいない今日は、床が見えるようになり、爽やかな夕暮れ時の風が北から吹き込んできた。
夕暮れの風に深緑のカーテンが揺れる。
そのカーテンの隣、部屋の中央には、白い箱型の機械が置かれ、俺は恐る恐る中を覗き込んだ。
「このガチャガチャ、危険だから五道様がこちらに帰られる前に中身、片づけてしまおう……」
そう言うと俺は、カプセルトイの上の部分を外すために鍵穴に鍵を入れた。
ガチャッ
機械の上部は思っていたよりも単純な造りで簡単に開けることができた。
機械の中身は全て黒色のガチャガチャだ。
五道様が出立前に試作品の機械に入っていた全てのカプセルを黒に入れ替えて置いていったのだ。
この事実は、地獄に引きずり込まれた横暴な女は知る由もない。
「五道様も残酷だよな~。姉、1人、地獄に送り帰す為に人間の子どもたちを巻き込んで【親ガチャ】を創ったんだから……」
そんな独り言を呟きながら俺は危険極まりない黒色のカプセルと缶バッジを仕分けをはじめた。
*
全ての中身をカプセルから出し終え、ゴミを分別を終ると俺は周りを見渡した。
周りには誰もいない……。
疲労が蓄積した俺は唐突に主の口真似をして憂さ晴らしに、悪さをしたくなってきた。
「……今日も私、頑張ったから自分へのご褒美に」
俺は主の口真似をして、カーテンの裏辺りに隠されていた六道のアソートの入ったカプセルトイの機械にコインを入れ、ハンドルをゆっくりと右に回した。
これくらいの悪戯は許されるだろう、そんな事を考えながら……。
俺は今、カプセルトイという機械を初めて回したが、思ったよりも少ない力で回すことができた。
意外と楽しいもんだ。
ガタン
少し、重い音の後、機械の中から出て来たのは青色のカプセルだった。
中身は人間道のクッキー。
四つ葉の形をしたクッキーの葉が喜(緑・右上)怒(赤・右下)哀(青・左上)楽(黄・左下)に分かれており、それぞれ味が違っている。
当たりは喜と楽だ。
「ミィ~ッ」
後ろからか弱い小さな生き物のような声が聞こえてきた。
主の愛玩動物の詩夏だ。
詩夏は俺の行動を一部始終、見ていたような嫌な眼をしている。
そして彼女は主と同じような不敵な笑みを浮かべると、ゆっくりと部屋から出て行こうとした。
「待て、待て!詩夏。これやるから。ほら、口止め料」
俺はクッキーを縦に割ると半分を詩夏の前に差し出した。
詩夏の前に置かれたのは“喜”と“怒”のクッキーだった。
「ミイ~っ」
詩夏は意味ありげな溜息をつく。
彼女は俺が皿に置いたクッキーの前に座り、“怒”の部分から食べ始めた。
「~っ!!」
唐辛子のような舌を刺すような味が舌に広がったようだ。
詩夏は小さな眉間に皺が寄って、鼻周りは赤くなった。
俺はそれを見届けると自分の手に握られた“哀”のクッキーを部分から食べはじめた。
クッキーを口の中に入れると悲しくもないのに目に涙が溢れてきた。
「っこの味。辛いような甘いような絶妙の……。あっ、涙が、あ~っ、こらっ詩夏!」
俺が感傷に浸り、油断した隙に詩夏は皿の上に置かれた‘’喜”のクッキーを頬袋に詰め込む。
そして俺の左手の上にあった“楽”のクッキーを前歯にくわえ、左の頬袋に詰め込むと風のように去っていった。
「待て、ドロボー!」
俺は走り去る詩夏の背に向けそう叫ぶと大きく溜息をつき、空のカプセルを官服の袖に仕舞った。
そして鐘の音を合図に地蔵菩薩様に終業の報告をする為、執務室に向かった。
ガチャ
そして半刻ほど、五道転輪王の帰還と詩夏の愚行を報告して俺は執務室に鍵をかける。
「詩夏。さっきの件、地蔵菩薩様からの沙汰を期待して待っていろよ。五道様は甘いが、地蔵菩薩様は公平だからな。喧嘩両成敗というやつだ」
……~ゴン
俺は夕刻を知らせる鐘が鳴り止むのを聞き終えると小さな愚痴をこぼしながら長い長い廊下を歩き出した。
主のいない今日も残業はない。
俺はこの時間、詩夏の夕食を作る為に急ぎ、食堂に向かって走る事が日課になっていた。
「ふぅ~。やっといなくなってくれた」
俺は金の愚行を執務室の外の隙間から見届けると安全を確認した後、ゆっくりと執務室に入り掃き掃除を始めた。
「うまくやってくださいよ。泰山王様」
そう言うと俺は東の窓を開け天道に聳え立つ山梔子色に染め上げられたの宮殿を見据え優しく笑った。
そう、俺は今、今夜は帰らないであろう主のために部屋を整え、明日からはじまる激務に備えようと考えているのだ。
そしてまた、俺は主の為、秘めた思いを覆い隠すように窓を締め緑の分厚いカーテンを窓に引いた。
ガラガラガラ
「よし、これでよし!」
俺は私室と執務室の掃除を一通り終えると五道転輪王が泰山王から以前もらったペルシャという国の絨毯を床に敷いた。
いくつもの糸が織り重ねられ美しい模様を創り出している。
これなら帰還した主も前の絨毯のことを忘れ、喜ぶだろう。
そう考え満足そうな笑みを浮かべると主の私室の開けっ放しの襖の前に立った。
私室は先日、泰山王が綺麗に片づけて行った。
なので、主のいない今日は、床が見えるようになり、爽やかな夕暮れ時の風が北から吹き込んできた。
夕暮れの風に深緑のカーテンが揺れる。
そのカーテンの隣、部屋の中央には、白い箱型の機械が置かれ、俺は恐る恐る中を覗き込んだ。
「このガチャガチャ、危険だから五道様がこちらに帰られる前に中身、片づけてしまおう……」
そう言うと俺は、カプセルトイの上の部分を外すために鍵穴に鍵を入れた。
ガチャッ
機械の上部は思っていたよりも単純な造りで簡単に開けることができた。
機械の中身は全て黒色のガチャガチャだ。
五道様が出立前に試作品の機械に入っていた全てのカプセルを黒に入れ替えて置いていったのだ。
この事実は、地獄に引きずり込まれた横暴な女は知る由もない。
「五道様も残酷だよな~。姉、1人、地獄に送り帰す為に人間の子どもたちを巻き込んで【親ガチャ】を創ったんだから……」
そんな独り言を呟きながら俺は危険極まりない黒色のカプセルと缶バッジを仕分けをはじめた。
*
全ての中身をカプセルから出し終え、ゴミを分別を終ると俺は周りを見渡した。
周りには誰もいない……。
疲労が蓄積した俺は唐突に主の口真似をして憂さ晴らしに、悪さをしたくなってきた。
「……今日も私、頑張ったから自分へのご褒美に」
俺は主の口真似をして、カーテンの裏辺りに隠されていた六道のアソートの入ったカプセルトイの機械にコインを入れ、ハンドルをゆっくりと右に回した。
これくらいの悪戯は許されるだろう、そんな事を考えながら……。
俺は今、カプセルトイという機械を初めて回したが、思ったよりも少ない力で回すことができた。
意外と楽しいもんだ。
ガタン
少し、重い音の後、機械の中から出て来たのは青色のカプセルだった。
中身は人間道のクッキー。
四つ葉の形をしたクッキーの葉が喜(緑・右上)怒(赤・右下)哀(青・左上)楽(黄・左下)に分かれており、それぞれ味が違っている。
当たりは喜と楽だ。
「ミィ~ッ」
後ろからか弱い小さな生き物のような声が聞こえてきた。
主の愛玩動物の詩夏だ。
詩夏は俺の行動を一部始終、見ていたような嫌な眼をしている。
そして彼女は主と同じような不敵な笑みを浮かべると、ゆっくりと部屋から出て行こうとした。
「待て、待て!詩夏。これやるから。ほら、口止め料」
俺はクッキーを縦に割ると半分を詩夏の前に差し出した。
詩夏の前に置かれたのは“喜”と“怒”のクッキーだった。
「ミイ~っ」
詩夏は意味ありげな溜息をつく。
彼女は俺が皿に置いたクッキーの前に座り、“怒”の部分から食べ始めた。
「~っ!!」
唐辛子のような舌を刺すような味が舌に広がったようだ。
詩夏は小さな眉間に皺が寄って、鼻周りは赤くなった。
俺はそれを見届けると自分の手に握られた“哀”のクッキーを部分から食べはじめた。
クッキーを口の中に入れると悲しくもないのに目に涙が溢れてきた。
「っこの味。辛いような甘いような絶妙の……。あっ、涙が、あ~っ、こらっ詩夏!」
俺が感傷に浸り、油断した隙に詩夏は皿の上に置かれた‘’喜”のクッキーを頬袋に詰め込む。
そして俺の左手の上にあった“楽”のクッキーを前歯にくわえ、左の頬袋に詰め込むと風のように去っていった。
「待て、ドロボー!」
俺は走り去る詩夏の背に向けそう叫ぶと大きく溜息をつき、空のカプセルを官服の袖に仕舞った。
そして鐘の音を合図に地蔵菩薩様に終業の報告をする為、執務室に向かった。
ガチャ
そして半刻ほど、五道転輪王の帰還と詩夏の愚行を報告して俺は執務室に鍵をかける。
「詩夏。さっきの件、地蔵菩薩様からの沙汰を期待して待っていろよ。五道様は甘いが、地蔵菩薩様は公平だからな。喧嘩両成敗というやつだ」
……~ゴン
俺は夕刻を知らせる鐘が鳴り止むのを聞き終えると小さな愚痴をこぼしながら長い長い廊下を歩き出した。
主のいない今日も残業はない。
俺はこの時間、詩夏の夕食を作る為に急ぎ、食堂に向かって走る事が日課になっていた。
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