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第8部
第139話
しおりを挟むみんな、はぐれてごめんと頭をさげる亮介に、キールがこの場での離脱を告げると、驚いたコリスが木の枝から落下して、ゴロゴロと地面に転がった。
「わ! だ、だいじょうぶ? コリスくん」
「ちょっと背中が痛いけど、だいじょうぶだよ~。リョースケくんが無事でよかったぁ。でも、キールくんの話、ほんとうなの~」
「ああ、おいらは本気さ。今まで、それなりに楽しかった。みんな、ミュオンのこと、よろしくたのむぜ」
引っ越しの途中で別行動を決意したキールだが、出産を控えるミュオンを気にしてハイロをふり向いた。
「ちゃんと大事にしろよ。あいつを守れるのは、おっさんしかいないんだ」
キールに念をおされたハイロは、小さくうなずき、立ちあがろうとするミュオンに腕を差しのべた。
『キールよ、行ってしまうのですか。……あなたには、リョウスケくんを見まもってほしかったのに』
「冗談だろ。おいらは短命なイタチ科だぜ。人間のほうが長生きするぞ。どの道、ずっとリョースケのそばにいることは、できないンだぜ」
『キール……』
半獣属の多くは野生動物より長寿の傾向にあるが、イタチ科の寿命は非常に短い。霊長類を省くと、心拍数が早ければ早いほど短命であり、イタチも例外ではなかった。また、イタチは病気に弱く、自己治癒能力が低いため、健康には注意が必要である。
(だからキールが作るごはんって、いつも青汁が多かったんだ……)
健やかな日々を維持するには、食物繊維や抗酸化作用のある食材の摂取は必須である。キールは、ミュオンの足もとへ移動すると、「へへっ」と笑った。
「おいら、こんなふうに精霊と話ができて、うれしかったぜ。そりゃ、最初のころは、なんだこいつらと思ったけど、だんだん、みんなでいるのも悪くないって思えてさ。……でもよ、やっぱりおいらは、ひとりのほうが気楽で好きなんだ」
キールはもう、集団でいることに関心がない。これまでの生活に、もどりたいと言われては、引き止めようがなかった。
「そんな……、僕は……っ」
「やいやい、こんなことで泣くなよ、リョースケ。そのうちまた会えるだろうし、なにも、おまえらがきらいになったわけじゃねーからな」
「キール……、キールゥ……!!」
涙がこみあげる亮介は、キールのところまで駆け寄ると、細長い胴体をひょいっと持ちあげ、ギュウッと抱きしめた。もふもふというよりは、くにゃくにゃとやわらかい感触で、力の加減をまちがえた亮介は、キールから「苦しい! 苦しい!」と拒絶された。
「やだ、いやだよ! キール、キール、いなくならないで……!!」
思わず少年の腕に爪を立てるキールだが、亮介は大粒の涙をこぼした。
「ぐえっ! 苦しいってばよ! こら、リョースケ! このまぬけ! おいらはな、おまえが泣き虫だから、いっしょに行かないって決めたンだぞ! わがまま言うな!」
「それ、どーゆー意味ィ」
「げっ、鼻水でてるぞ。もう泣くなって。引っ越しがおちついたら、会いにいってやらぁ!」
「ほんとう?」
「ああ、約束する。なにも、二度と会えなくなるわけじゃねぇンだ」
言いながら、キールは「しっかりやれよ」と、これからの亮介を応援した。異世界の森にきて、早い段階から苦楽を共にしたイタチは、亮介の腕からすり抜けると、「男なら、泣きやめ」とも付け加えた。
「キールゥ、どうしても行っちゃうの?」
「もうきめたことだからな。おいらにだって、都合があるンだよ。裏切ったつもりはねーけど、悪かったな。がんばれよ、リョースケ」
最後にもういちど全員の顔を見つめたキールは、「じゃあな」といって列に背を向け、ピョーンと地面を飛ぶように立ち去った。
★つづく
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