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第6部
第97話
しおりを挟む念願だった精霊との遭遇をはたした亮介は、なんとか平常心を保とうとして、会話に集中した。
「知ってると思うけど、ミュオンさんは水の精霊で、今、僕といっしょに暮らしてて、それで……、ぐえっ!」
必死の訴えも虚しく、ジェミャは亮介の腹部を足の裏で圧迫すると、『カーッハッハッ』と高笑いした。
(ちょっ、なんなの、この精霊! どこを見て話せばいいのか、わかんないよ!)
亮介は自分の急所を両手で隠していたが、ジェミャは恥じらうようすもなく股をひろげ、少年の胴体にドカッとすわりこんだ。
(う、嘘でしょーっ!!)
ますますジェミャの一物が目につきやすい体位となり、亮介はカァッと赤面した。互いに裸身の状態につき、腹部に擦れるおもりの感触は、ひどく生々しかった。さらに、現在の亮介は生殖器官が発達した年齢である。ジェミャに対して興奮作用が働けば、暴走は確実だ。
(おちつけ、おちつけ。僕は人間で、相手は精霊……っ)
ジェミャから視線を逸らして深呼吸をくり返したあと、思いきって上体を起こし、精霊のととのった顔を見据えた。宝石のような翡翠の眼に、自分の顔が映りこむ近さである。
「ジ、ジェミャさんは、地の精霊だと聞きました。……か、家族とか兄弟とか、いるんですか?」
『精霊は、生まれた瞬間より同一個体が分化して成り立つ存在なり。つまり、われらはすべて原初の姿を保ち、最後まで唯一無二である』
すんなり質問に答えるジェミャの反応は予想外だったが、しばらく(きわどい体勢のまま)会話がつづいた。
「それじゃあ、ずっと昔のことも、憶えてるの? 例えば、何代も前の個体が、誰とつきあっていたのか、そのひとと何があったのか、全部、思いだせたりする?」
『なにが言いたい。まわりくどいぞ』
「だから、その……、ミュオンさんの過去について、詳しく知りたくて……」
『知ってどうする』
「心配だから……」
『なにがだ』
「ちゃんと、子どもができるのかなって……」
ハイロとミュオンは性交渉におよんだが、精霊の受胎が確認されないかぎり、ふたりは何度も抱きあっている。はっきり既成事実を告げられたわけではないが、亮介やキールたちは、いつ子どもが誕生してもだいじょうぶなように、丸太小屋の衛生面に気をつかっていた。ところが、ひと月が経過しても、ミュオンに体調の変化は見られず、本人も首をかしげていた。
★つづく
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