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第5部
第82話
しおりを挟む元気のないミュオンの背中を見送る亮介は、キールと立ち話におよんだ。
「目が覚めて、歩けるようになってよかったけど、ミュオンさん、僕らに、なにか隠してるような気がする……」
「やっぱ、リョースケもそう思うか? ……もしかしてミュオンのやつ、妊娠したンじゃねーの。前にノネコが、そんなようなこと言ってたもんな」
「えっ、誰の子を?」
「そりゃ、当然、灰色大熊のどっちかだろ。相手がハイロのおっさんなら、合意のうえだろうから、べつに問題ねーけどさ……」
「それ、本気で言ってる? ミュオンさん、妊娠してるの?」
「たぶんな。ミュオンのやつ、拐われてから、なんとなく態度がおちつかないだろ。ありゃ、絶対なにかあったぜ。……もし、ミュオンを連れ去った大熊野郎に乱暴されてたら、さすがに、ハイロのおっさんが黙っちゃいねぇだろーし、それがないってことは、ミュオンとおっさんの関係が発展したって考えたほうが、めでたくないか?」
亮介の頭のなかで、リーンゴーンと祝福の鐘が鳴る。ハイロとミュオンが夫婦仲となれば、種族の壁を越えて赤子が誕生する。その瞬間を見届けることができるのは、幸運でしかない。
「す、すごい。キールの話がほんとうなら、すごいや! 僕に手伝えることあるかな!?」
「あのな、まだ気が早いっての。ミュオンの腹が大きくなれば、産み月は近いってわかるけど、まだ子づくりの最中かもしれねーし、あいつらがなにか言ってくるまで、おいらたちは知らん顔してやろうぜ」
下手な勘ぐりは、つまらない。キールは会話をやめにして、門扉のほうへ歩いていった。ハイロとノネコがもどるまで、油断は禁物である。丸太小屋が襲撃されてから数日ほど経過していたが、大熊とキツネがふたたび姿を見せることはなかった。
「なんだか、次から次へと、いろんなことが起きるなぁ。僕はただ、みんなと仲良く暮らしたいのに……」
森での生活に慣れてきた亮介としては、命の恩人であるミュオンとハイロの役に立ちたいと思っていた。だが、状況の変化に途惑うばかりで、まだ、なんの力にもなれていない。
(僕も、もっとがんばらなきゃ……。せっかく自己浄化したんだし、あしたは僕も森へいこう。だめって言われても行くぞ!)
ミュオン以外の精霊に訊ねてみたいことは、山ほどあった。奇しくも、誰よりも先に、ハイロは地の精霊との接触をはたす。
★つづく
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