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第5部
第77話
しおりを挟むその日、亮介はキールと留守番をまさかれた。ハイロとノネコは、ミュオン以外の精霊を探しに森へ向かう。コリスは、池で救われたときの恩返しをするため、煙突の掃除を始めた。どこか、おちつきのないミュオンは、大熊とキツネの再襲撃に備えてハイロが増設した屋根裏(隠し部屋)で、過ごした。
「ミュオンさん、だいじょうぶかな」
寝室のベッドからシーツをはがして庭の物干し竿に引っかける亮介は、地面を這う昆虫を前足で転がして遊ぶキールに、「かわいそうだから、やめてあげて」と付け加えた。
「ミュオンさんの羽、どうして消えたままだと思う? ちょっと心配じゃない?」
「おいらに訊くなよ。精霊のからだのつくりなんて知らないけど、いつも必要とはかぎらないだろ」
「でも、今のミュオンさん、モデルみたいで、ドキドキする」
「もでる?」
「えっと……、きれいな恰好をしてポーズをきめたり、雑誌の表紙に使われたり……」
「ざっし? なんだそりゃ。ミュオンがきれいなのは、水の精霊だからだろ」
精霊の見た目は中性的で、雌雄器官のどちらかをもっている。ミュオンの生殖器は雄性のかたちをしていたが、二次特性が備わり、内部構造が変化していた。むろん、本人が口外しないかぎり、周囲が察することはできない。
「……まあ、確かに。最近のあいつ、なんかようすが変だよな。ひとりで居たがるし、おいらたちを避けてる感じがする」
キールは丸太小屋をふり向くと、隠し部屋の方角を見あげた。つられて顔をあげた亮介の視線の先に、スポンッと、煙突から飛びだすコリスらしき黒い物体が見えた。内部に溜まった灰をかぶり、すっかり汚れている。亮介は、樽の水を桶にうつすと、「降りておいで」と手をふった。
「ふわわ~、リョースケくん、そこ、気持ちいいですぅ」
「ここ?」
わしゃわしゃとコリスの全身を洗う亮介は、思わず「くすくす」笑った。みんなで楽しく過ごせる場所だと思っていた丸太小屋だが、安全な空間とは言い切れない。いくらハイロが強くても、無用な衝突は避けるべきだろう。亮介の表情が曇ると、キールは、ふんぞり返った。
「やい、リョースケ。おいらの肛門にはな、臭腺ってのがあるンだぜ。外敵が侵入してきたら、激臭を発射して追いはらってやるから安心しろ!」
イタチが肛門から分泌する液体は、スカンク同様、かなり強烈である。できれば使ってほしくない作戦だった。
★つづく
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