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第2部
第40話
しおりを挟む好きなもの同士に、種族や性別は関係ない。身体の健康を損なうことなく精神的な幸福を満たせるならば、これほど最適な相愛関係はないだろう。繁栄を求める渇欲こそ、迷いの生涯に愛着をもたらす。喜悦と欲情を伴う感情は、外的要素によって平常を取りもどす。したがって、正しい理解と実践が必要不可欠である──。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「えっと……、もし、ハイロさんの体内にある霊力を全部ミュオンさんに返したら、灰色大熊の姿にもどっちゃうの?」
「おそらく」
「……そうすることが水の精霊のためなら僕は反対しないけど、こんどはハイロさんが、長い眠りについたりしないよね?」
艶めかしい想像をした亮介にしては、まともな意見だった。人型の生活に慣れてきたハイロだが、ふたたび半獣にもどったとき、細胞の急激な分裂という肉体的な負荷は避けられない。心肺機能が弱ければ、重篤な症状が起こる可能性も懸念された。
「いつまでも目覚めない理由があるとすれば、おれが霊力の一部を保有しているからだろう。半獣と精霊の性質を考えると、後者のほうが脆弱な存在だ」
「ぜいじゃく?」
亮介が首をかしげると、ノネコが「脆いってことさ」と補足した。人間からすれば、精霊のほうが永遠の象徴に思えたが、実際の事情はもっと複雑のようだ。そして、ふしぎな世界で周囲の助けを必要として生きる8歳の自分こそ、かんたんに消えてしまえるという事実を、あらためて認識した。のんびり暮らすうち、危機感が欠如していた。
(なんだろう、急に不安になってきた……)
ドキドキと心臓の脈が速まり、にわかに息を詰まらせる亮介は、庭からガシャーンッと大きな音が聞こえると、「な、なに!?」と、おおげさに反応した。ハイロとキールも扉をふり向き、ノネコは肩をすぼめた。寝室のミュオンを気にかけながら全員庭へ駆けつけると、コリスがきのこ鍋をひっくり返し、パクパク食べていた。
「コリス、てめぇ!」
イチ早く現場に到着したキールは、空になった鍋と、満足そうにおなかをポンポンたたくコリスを見、「シャーッ」と牙を剥く。料理の途中で持ち場を離れた結果、きのこ鍋の中身はコリスの胃袋行きとなった。
「ぷは~、おいしかった~」
もともと、コリスのために用意した料理とはいえ、きのこ鍋を味見できなかった亮介は、少し残念に思った。
★つづく
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