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第2部
第41話
しおりを挟むハイロが腕をふるった料理に大満足したコリスは、眠気に襲われる前にお礼をしなきゃといって、屋根をあおぐ。
「このおうち、暖炉の煙突があるね~。薪割りのお手伝いは無理だけど、すすの掃除なら、引き受けるよ~」
それは願ってもない申し出につき、亮介はハイロと顔を見合わせたのち、「ぜひ、よろしくお願いします」と頭を軽くさげた。丸太小屋に集う半獣属のなかで、いちばんコリスのからだは小さい。初期の人員では完璧な手入れができず、いったん保留にしてあった。せまい煙突内部の掃除を名乗りでてもらえるとは、非常にありがたい。だが、色々と納得のいかないキールは、ミルクスープをがつがつ食べながら不貞腐れた。猫舌のノネコは、畑で採れた小玉スイカをシャクシャク食べている。夕食の時間は、それぞれ好き勝手に過ごした。ミュオンに関しては、精霊について、もっと詳しく調べる必要がありそうだ。
(……と、とりあえず、僕もおなか減ったし、ごはんにしよう!)
キャンプファイヤーのように、みんなで焚き火のまわりに腰をおろし、楽しく食事をとる場面を想像した亮介は、思っていた展開とちがう状況に当惑したが、切株にすわり、ひとりでミルクスープを口へ運んだ。
(わ、おいしい……。ハイロさんって、なんでも上手につくれちゃうなぁ。すごいや。僕なんか、教わったとおりにやってもうまくいかないのに……。うん! この料理の味なら、コリスくんだって、また食べたくなるはずだ!)
亮介は、スプーンを口へ運ぶ手をとめ、大の字で爆睡中のコリスを、ちらッと見た。いくら囲いの内側とはいえ、視界のひらけた草地で急所を見せて眠るとは、草食動物にしては油断のしすぎではないかと思えたが、亮介を信用できる人間と見做したからこそ、無防備な姿を晒せるのかもしれない。ネズミ目に属する仔栗鼠は、明確な縄張りを持たず、昼行性で、冬眠はしない。また、環境によって異なるが、1日の半分は睡眠時間についやすため、寝ていることが多い動物である。コリスの動きは俊敏につき、目で追うだけで疲れた。
辺りがうす暗くなると、大熊は光華石をコップの底へ落とし、ほのかな灯りで周囲を照らした。黙々と食器の後片付けをするハイロをながめていた亮介は、ヒタヒタと歩み寄ってくるノネコに話しかけた。
「ミュオンさん以外の精霊って、ふだんどこにいるのかな」
「森じゅうさ」
「え、逢ったことないよ?」
「人間は、ふつう、精霊を見ることはできないからね」
亮介の質問に淡淡と答えるノネコは、少しだけ目を細めた。人間と動物、自然と精霊は、それぞれ密接に関係する世界に存在しているが、意思疎通は不可能に近い。たとえば、人間が清き心をもって(私心をもたず)神事を執りおこなっても、八百万の形を明らかにすることはできない。
信仰は人間の知的な営みであり、人間が自ら生みだしたものである。いっぽう精霊は、自然の法則にしたがって形成され、長い時間を経て、美化価値が強調されるようになってゆく。
自然が身近な生活のなかに息づく亮介は、終局を意識しない現在のみに頭を悩ませたり、主観で物事を考えていたが、全体を見通す視点が身に備われば、合理的な思考にたどり着くことができる。つまり、始まりを知ることが大事なのだ。
「僕、ミュオンさんは見えるよ。ほかの精霊は、ぜんぜん見えないのに……」
ノネコは数秒ほど沈黙したのち、「きみの存在こそ、実に興味深いね」といって、少年の顔を見据えた。
★つづく
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