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第三部
栄光の約束⒀
しおりを挟むクオンいわく、かつて愛し合った女性がいたらしい。だが、枕を共にしても子はできず、それがクオンのせいだと罵られ、男女の縁は切れた。つまり、女性側には、子が必要な理由があった。例えば、由緒ある名家のひとり娘で、跡取りを産まなければならない、そういった類の事情は、世の中にあふれている。
(……ルリギクが皇后になれたのも、クオンの紹介があったからでは? 皇帝と結ばれて最高の幸せを見守りたかったのか、罪滅ぼしのつもりなのか、どちらにせよ、クオンとルリギクは、浅からぬ縁があるはず……)
女の勘は、時として過剰な働きをする。アセビは、ルリギクを見つめるクオンのまなざしに、違和感を覚えた。ひとえに形容しがたい複雑な表情は、いつまでも脳裏に焼きついて離れず、クオンの思わせぶりな科白も気になっていた。
(しかし、数年経ってもリヤンの子を授からず、結局、カタチだけの第一夫人とは、なんとも気の毒な話だ……)
皇帝には数名の愛人がおり、女児を出産した者もいた。だが、帝国に必要な後継者(男児)を誕生させたのは、奇跡的にもアセビだけだった。
(わたしは運が良かったのだろうか? グレンハイトを授かったのは、あくまでも偶然だと思うが……)
万が一、ひとり目に女児を出産した場合、まだ若いという理由だけで第二子の懐妊を検討されていた事実を知らないアセビは、小さく溜め息を吐いた。医官との過去を問われたルリギクは、しばらく青ざめていたが、静かに語りだした。
「そうです……。クオンムスカさまは、私の恋人でした」
(クオン、ムスカ……?)
今度は、アセビが動じる番だった。ルリギクは愕く寵主に気づかず、親密な関係を打ち明けた。
「……私はひどいことを云って、彼を傷つけました。今更、合わせる顔などないというのに、あの人は、皇帝陛下の義兄君である故、そういうわけにも参りません。……できることならば、きちんと謝罪したいくらいです」
(ち、ちょっと待ってくれ……。ルリギクは今、なんと云った? クオンとリヤンは、実の兄弟なのか!?)
似ている外的な特徴から血縁者であることは予想できたが、まさか兄弟とは、衝撃の事実である。
✓つづく
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