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第三部
栄光の約束⑺
しおりを挟むアセビにとっての正義は、エリファスの生様そのものである。限られた資源を皆で分け合い、困難に立ち向かう術を説く姿は、ルフドゥの民にも尊敬されていた。いわば、エリファスは小さな国の王である。アセビは、エリファスの従者として、彼の語る理想を追い求めることが生き甲斐となっていた。責任感が強く弱者に手をさしのべるエリファスは、誰もが憧れる存在だった──。
「リヤンよ、わたしが望む褒美とは、そう贅沢なものではない。至極ささいな願いだ」
正殿で茶を呑みながら話すアセビは、神妙な顔でリヤンを見据えた。
(これは賭けだ……。断じて、皇帝の立場を軽んじているわけではない。リヤンに特別な感情などなくとも、これまでのわたしを一般的な目線で評価してくれ……)
図々しい発言とわかっていたが、アセビにはやるべきことがあるため、話術でリヤンの考え方を誘導した。先程から沈黙を保つ皇帝は、アセビの魂胆に気がついたようすで、「よかろう」と、つぶやいた。
「寵主の願いを3つ、申してみよ。余が吟味し、ひとつだけ聞き届けてやる。ただし、残りの2つは却下とする」
相手の要求を承知した上で、リヤンにとって不都合ではない内容を選んで叶えるという。計画の前進を第一に考えるべきアセビは、あえて慎重にならず冗談半分に告げた。
「それでは、伝えよう。ひとつ目は食事の回数を増やしてほしい。日に二度では、腹が満たされん。いくら間食が許されているとはいえ、膳は三食が望ましい。ふたつ目はグレンハイトのことだ。いくら男児とはいえ、まだ幼い。教養も大事だが、多少のわがままは許してやってくれ。先日は、勉強したくないと泣きわめき、ヒルダを困らせたようだ」
そこまで重要ではない事柄を前置きし、最後に声の調子を低めて本題を主張した。
「3つ目は、閉ざされた離宮についてだ。いちどでいいから、どのような構造になっているのか、内部を見学したい」
茶碗を口へ運ぶリヤンの指が、ぴくりと反応を示した。「ほう」といって眉をひそめると、アセビの意図を警戒しつつ「なるほど」と、頷いた。やや離れた場所で目線を伏せていた老人の側近は、反射的に顔をあげたが、すぐに俯いた。
✓つづく
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