月冴ゆる離宮

み馬

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第二部

花咲く果実⑼

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 蝋人形のように白い顔をした皇后が、リヤンの隣に座っている。アセビの褐色かっしょくの肌とは対照的で、つやのあるほおは少女のような瑞々みずみずしさがあり、遠目でも美人であることがわかった。

(なんと華奢きゃしゃひとだ……。まるで人形のようだ……)

「来たか、寵主ハイム」と、皇帝。

「リュンヌ・ギア、陛下と皇后にご挨拶申し上げます」

 礼儀として軽く頭をさげると、ルリギクは「あなたがリュンヌなのね」と、気さくに声をかけてきた。

(さすが、皇后。声まで奇麗きれいだ。こんな美人が第一夫人とは、リヤンも贅沢な男だな)

 きらびやかな宴会席に姿をあらわした寵主に、視線が集中する。皇帝の脇に控える剣士オルランと側近の老人は無表情だが、周囲に並ぶ臣下たちは、ざわざわと声を低めてアセビの容姿に文句をつけた。そこへ、ヒルダと手を繋いでグレンハイトがやってくると、一瞬ざわめきが起こった。

「お父上ちちうえさま、母上さま!」

「グレンハイト、よく来た」

 リヤンのほうへ駆け寄っていくグレンは、ふと、ルリギクと目が合うなり、首を傾げた。

「ほえぇ、きれいなひとぉ。母上さまより、きれいだぁ。あなたは、だぁれ?」

 子どもは嘘がつけないとはいえ、いきなりの失言にリュンヌは、ぎょっとなる。付人つきびと女官ヒルダが「申し訳ございません!」といって頭をさげると、ルリギクは「ふふっ」と笑った。

「構わぬ。よいのだ。初めまして皇太子。私はルリギク・ジュアと申します」

「は、はじめましてぇ。ぼくは、グレンハイト・ジャウです」

 グレンはペコッと深くおじぎ、、、をすると、リヤンの脇へぴったりくっついた。

「父上、きょうはぼくの誕生日です。なにかくださるんですか?」

「グレンハイトよ、おまえにはが築きあげた帝国くにをやろう。本日をもって、正式な帝位後継者となるゆえ、精進せよ」

 皇帝の科白せりふは、アセビの耳に重たく響いたが、幼い皇太子は「はぁい」と返事をし、席についた。

寵主ハイムさまは、こちらへ」

 アセビの付人として同行したクオンに手引きされ、指定席に腰をおろすと、股のあいだの貞操帯(不快な下着)がチャリッと音を立てた。


✓つづく
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