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幕開け
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『どうして、こうも上手くいかない…?』
……。
『彼の運命は僕であるべきなのに…!!』
………。
『爵位、資産、魔術、顔だって…!すべてが釣り合っているのは僕しかいないはずなのに…!』
…………?
『僕だけのずなのに…!!』
……………??
『なんで彼の隣は僕じゃないんだ?』
……さっきから何を言っているんだろう…?
そこで、僕は目を開ける。どうやら中庭のベンチでうたた寝をしていたようだ。
どれくらいの間寝ていたのだろうとあたりを見渡すと、向こうのほうからソーン君とリュークさんが並んで歩いてくるのが見えた。
『忌々しい、なんであんな奴が…!!』
頭の中で響く声を無視して、二人に声をかけようと手を挙げる。
「ソーンくn…『せっかく大金をはたいて誘拐までさせたのに!!』
…誘拐…?
身に覚えのありすぎる言葉を聞き、途中まで上がっていた手が行き場を失う。
『わきまえを知らないあいつに教育をしてやろうと思ったのに。』
わきまえ…?教育…!?
ど、どういうこと…?
『結果はどうだ、悲劇の誘拐救出劇を経てリュークは覚醒を果たし、2人は以前よりくっつくようになりやがって…。僕はさらに除け者扱い!!大失敗にもほどがあるぞ!!』
か、覚醒!?ま、待って、待って!!さっきからなんの話をしているの!?
混乱している僕をよそにソーン君とリュークさんが僕のそばを通りかかる。が、
「…え…?」
2人とも僕のことをまるで汚いものでも見るような顔で見ていた…。
気付くと、あの真っ白な空間にいた。
「どうだった?」
目の前にはいつの間にかあの子がいた。疲れているのか隈がひどい。
「ど、どうだった、って…。さっきのは一体…?」
「僕が見てた景色だよ。」
「え…?そ、それよりも!大金をはたいて誘拐って…?ソーン君が誘拐されたってこと?あの既視感は本物だったの!?しかも犯人は、君…?」
うつむいたまま、何も答えてくれないあの子。
「ねぇ、教えて。君は一体誰なの?何が目的でこんなことしてるの!?」
僕は感情のままあの子に近づき、肩を揺さぶる。
「……。」
反応がないことを不審に思い、顔をのぞく。その眼には光が入っておらずうつろな目をしていた。
「僕は———」
「………アルス・シューベルト…。」
…。
……夢を、見てたみたいだな…。
目を開けると、さっきまでの白い空間ではなく、僕の部屋のベッドに横たわっていた。
目の前には涙や鼻水でびしょびしょになったみんなの顔が見えた。
……デジャブだな…。
「お、おはよう…。」
その言葉を皮切りにみんなが一斉に抱き着いてくる。
みんな、僕のパジャマがびちょびちょになっちゃうよ…。
どうにかこうにか、泣いているみんなを引き剥がし、なだめて、僕が眠っている間に何が起こっていたのかを整理する。
王都での夏祭りの最中に僕は誘拐されてしまう。うん、ここまでは僕も覚えている。
そして、僕を救出する過程でお兄ちゃんは重傷を負ってしまう。…ん?重傷のはずのお兄ちゃん、僕の隣でピースしてるのだけれども…?絶対今ピースする時じゃない...!
血が大量に出てかなり危険な状態だったのをソーン君が突然覚醒を果たし、治癒をしてくれてほぼ完治。そこから態勢を整えた3人は無事に僕を救い出し、今に至る…。
うん。…え、僕が意識ない間に色々と起こりすぎじゃない…?全然整理が追い付かないんだけど…!?
「お兄ちゃん、ケガは大丈夫なの?」
「うん。」お兄ちゃんはそう言って服を脱ぎ、傷跡を見せてくれる。右肩から左の脇腹にかけてうっすらと痕のようなものが見える。それに沿ってなぞってみる。少し、ぼこぼこして変な感じだった。
「痛くないの?」
「全く。ソーンが高度の治癒魔術を施してくれたからな。この傷跡も数週間で無くなるだろうって。」
「そうなんだ…。ソーン君覚醒って…?」
「…なんか、しちゃったみたい…。」と、どこか困ったような表情を浮かべるソーン君。覚醒ってすごいことなのに、なんでそんな顔するんだろう…。
「まだ、全ては分かりきってないんだけど、回復とあとは防御?の魔術が飛躍したみたいで、たいていの病気や傷は治せちゃうし、高度の攻撃魔術も防げるようになっちゃったみたい…。」
こんなの身近に覚醒した人がいるんだ...。
…なんだか、ソーン君からただならぬオーラを感じる気がする…。
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