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第19話 隣室での会話 終編
しおりを挟む「莉子さん……。杏優さん……。失礼なことを言ってすみませんでした……。」
二人の力量が十分であることを知った私は、そう謝罪をしました。
「私は大丈夫だよ!……だって優菜ちゃんがそう言ったのは、優成君のためだもんね。当然の心配だよ。」
「そ、そうですよ!私も気にしてません!……私が優菜ちゃんと同じ立場だったら、同じ事をしていたかもしれないですから。」
莉子さんと杏優さんは、私の謝罪を受けて、非難するどころか私を慮ってくれました。
――冷静になって考えると、私はなんて酷いことを言ってしまったのでしょう。
お兄ちゃんの活動を応援するためとはいえ、いくら何でも……。
「――優菜ちゃんは優成君が大事なんだよね?」
私が罪悪感を感じていることを察したのか、莉子さんが話しかけてきました。
「も、勿論です!お兄ちゃんより大事なことなんてありません!」
「そ、そうなんだ!――ま、まあ、私が言いたいのは、優菜ちゃんは優成君の活動を応援しているのはもちろんだけど、優成君を女性から守ろうとしたんじゃないかな?だから、言葉が過激になったんじゃ無いかなって思ったの。だって私と杏優ちゃんは優成君と出会ったばっかりで、優菜ちゃんからすればまだ信頼できるのかわからないでしょ?」
莉子さんはそう言って私を肯定してくれました。
――お兄ちゃんを守ろうとした。
私はその言葉にある過去の出来事を思い出しました。
そして、莉子先輩の言葉を聞いて、納得することが出来ました。
――恐らくお兄ちゃんを女性から守るという感情と、彼女たちへの嫉妬の感情が入り乱れたのでしょう。
お兄ちゃんを守るどころか、自分の嫉妬の感情で行動してしまいましたが。
「そうかもしれません。――ですが、今のやり取りで理解させられました!莉子さんと杏優さんはとてもいい人です!そしてお兄ちゃんに危害を加えるような人じゃありません!」
「――なので、私が言える立場ではありませんが、お兄ちゃんの事をよろしくお願いします! お兄ちゃんは、あの通り頭も良くて格好よくて……多くの女性に狙われる事になります!そしてお兄ちゃんは、とても無警戒です!なので、もし学内に危害を加えそうな人が居れば、守ってください!」
二人を信頼できると感じた私は、お兄ちゃんを守ってほしいとお願いしました。
「もちろんだよ!私は優菜ちゃんの味方だよ!一緒に優成君を守ろうね!」
莉子さんはそう言って笑顔を向けてくれました。
「は、はい!任せてください!」
そして杏優さんも同様に引き受けてくれました。
――もしかすると、この学園にはお兄ちゃんに害をなす人は居ないかもしれません。
ですが、お兄ちゃんと関係を持つために近づいてくる有象無象が居るはずです。
私だって女ですから、お兄ちゃんほどの男性がいればそうなるのも仕方ないと思います。
そして男性の義務として、お兄ちゃんが学生の間に婚約者を作る必要があることも理解しています。
私だって、お兄ちゃんにはいい人を見つけて欲しいです。
――大事なのはお兄ちゃんが自分から相手を見つける事です。
あのお兄ちゃんの事ですから、女性が沢山来ても嫌な顔一つしないできちんと相手をするでしょう。
しかしそうなると、お兄ちゃん自身が相手を探す時間が少なくなります。
そして女性を相手にするのに疲れてしまうかもしれません。
――そして他の男性のように女性嫌いになる可能性もあります。
もしお兄ちゃんが女性嫌い――私のことが嫌い――になったら私は…………。
――そういうわけで、莉子さんと杏優さんにはお兄ちゃんを守って貰うことになりました。
私がそう言わなくても、彼女たちが率先して守ってくれたかもしれませんが。
――そう言えば、私は二人を信頼しましたが、お母さんはどうなのでしょうか。
もしまだ信頼していないのなら、私も説得に協力しましょう。二人は一緒にお兄ちゃんを守る仲間ですから。
私はそうお母さんを見ると、お母さんは私たちをニコニコとした顔で見ていました。
どうやら私たちの会話を聞いて、二人を信頼できると思ったらしいです。
――まあそうなるでしょう。二人とも実力は十分かつ性格もいいんですから。
もちろん、婚約者ともなれば別ですが……。
――もしお兄ちゃんが婚約者を連れてきたら私が直々に精査します!
…………け、決して嫉妬ではありませんよ!
私はそう心の中で、居もしない誰かに向かって必死に否定をしました。
#################
――それから私たちは、初めの緊張感が全く感じられない状態で和やかに世間話をし始めました。
話す内容はお兄ちゃんのことばかりですが。
まずお母さんが、お兄ちゃんの家での様子やかわいい一面――全然一面じゃない――を二人に自慢するように話します。
そしてそれを聞いた莉子さんと杏優さんは、羨ましそうな反応をしつつ負けじと、今日見つけたお兄ちゃんの凄いところを、これまた自慢するようにお母さんに話します。そしてそれを聞いたお母さんは再び負けじと――――。
――えっと………。………これは果たして和やかな世間話でしょうか?
話すたびにヒートアップする三人のお兄ちゃん自慢を聞きながら、私は一瞬そう感じました。
ケンカし始めないといいのですが……。そう思った私は、三人を見守ることにしました。
――しかし。……よく考えてみると、この会話は悪口や陰口でも何でもなく誰も傷つかないのはもちろん、逆に誰もがお兄ちゃんによって癒されることがわかりました。――これは私の出番ですね。誰が一番お兄ちゃんを想っているか勝負です!
私はそう三人の会話に飛び込みました。
――――
――――
――――
――――
――――
――ずるいですよお母さん……。赤ちゃんの時の話なんて……。
お母さん以外誰も知るはずのない、お兄ちゃんの赤ちゃんの時の話を自慢げにするお母さんに、私はそう愚痴をこぼしました。
一方、莉子さんと杏優は目をキラキラ輝かせてお母さんの話に夢中になっていました。
……まずいです。このままではお母さんに負けてしまいます……。
こうなれば、とっておきのあの話をしましょうか……。
「つ、次の話に行きましょう!私にとっておきの話があります!」
絶賛お話し中のお母さんを遮ってそう言いました。
「え!なになにー!聞きたい!!」
「は、はい!わ、私も聞きたいです!」
「――まだ途中だったのに。仕方ないわね。……で、どんな話かしら?母さんにも教えなさい!」
私は、三人の反応に思わず笑ってしてしまいました。……仲間っていいものですね。
「うん!もちろん! 実はね――――」
――こうして私たちは、お兄ちゃんのいる隣室で数十分もの間、お兄ちゃんの話で盛り上がっていたのでした。
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