上 下
82 / 131

082 『夜を殺めた姉妹』特別観覧④

しおりを挟む
 冷たい龍司氏の回答に、突如として牧田氏が大声で捲し立てる。

「とんでもない! あなた方はあの冨樫と沢本の傑作映画の美術道具類にどれほどの価値があるかご存知ないのです! 本来であればあの祭壇も義父は望んだものでした。しかし当時の義父には収蔵する場所がなかった。それで諸々用意が整ったら譲っていただきたいということで話が付いていたはずですよ!」

 牧田氏の話を聞いて、八頭家の方もいきり立つような姿勢を見せた。

「何を言う。散々利用し尽くしたくせに。
 ――所詮佐山氏は娘に気持ちなどなかったのでしょう? 娘のあの家だって佐山氏の意向がふんだんに盛り込まれた造りだと聞いています。和室の方が休まるからとか言って、あんな変な造りの家を建てさせたのでしょう? 祭壇を倒壊させないよう、天井にレールを付けて上から吊れるようにまでして! いいですか、うちの娘はその造りのせいで亡くなったんだぞ! 祭壇を引き取らせ、それ用の家まで造らされ、あげくに殺されただと? あんな祭壇があるから、こんな目に遭ったんじゃ······ないか······!」

 激昂しながら話していた龍司氏の勢いが止まる。手で顔を覆って何も話さなくなった。景子夫人が夫を慰めている横で、龍正氏が吐き捨てるように佐山家側に告げる。

「真っ当な人間ならな、不倫相手の小娘にこんなことさせないさ。奥さんだって知ってたんでしょう? 弁護士さんも婿さんも庇うしかない立場でしょうけどね、うちの娘は素直だからすぐ人の影響を受けてしまう。······おおかた佐山氏の映画狂が移って娘の人生が狂ってしまったんだ!」

 会議室内が静寂に包まれる。由紀子夫人も娘さん二人も口を噤んだままだ。

「ですから娘の物は佐山家には絶対に差し上げません。資料館さん、日比野さん、落ち着いたら娘のところへ遊びに来てください。そして当家も必要なものは資料館さんに差し上げますよ。祭壇は警察が許可を出したらすぐにでも」

 ようやく落ち着きを取り戻したように見える龍司氏が、そう言ってまた沈黙に浸った。
 しばらく後、淡々とした調子で辻堂刑事が話を向けた。

「牧田さん。佐山義之さんが八頭早苗さんから購入した冨樫資料にはビリーズ版デスマスクも含まれていたと思います。しかし今回資料館へなされた寄贈品の中にはないようです。データも故意に削除された形跡がありますが、一体どこにあるのでしょう。何かご存知ですか?」
「デスマスクはたしかにありました。見落としでは?」

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

リアル

ミステリー
俺たちが戦うものは何なのか

蠍の舌─アル・ギーラ─

希彗まゆ
ミステリー
……三十九。三十八、三十七 結珂の通う高校で、人が殺された。 もしかしたら、自分の大事な友だちが関わっているかもしれない。 調べていくうちに、やがて結珂は哀しい真実を知ることになる──。 双子の因縁の物語。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

嘘つきカウンセラーの饒舌推理

真木ハヌイ
ミステリー
身近な心の問題をテーマにした連作短編。六章構成。狡猾で奇妙なカウンセラーの男が、カウンセリングを通じて相談者たちの心の悩みの正体を解き明かしていく。ただ、それで必ずしも相談者が満足する結果になるとは限らないようで……?(カクヨムにも掲載しています)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...