映画をむさぼり、しゃぶる獣達――カルト映画と幻のコレクション

来住野つかさ

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057 美術セットは悪魔の祭壇②

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 翌朝。ネットの記事にも八頭女史と比江島氏の殺人に関するものが取り上げられていた。殺害の詳細は伏せられているものの、比江島氏が佐山邸で亡くなったことは報じられており、すでに邸は佐山氏が亡くなっていて無人だったことから、何故比江島氏が佐山邸に居たのかということが注目を集めている。
 また八頭女史の方も人気高級中華料理店の娘であり、一時はマスコミにもよく顔を出していて、交友関係の華やかな映画ライターだったということで、誰が犯人なのかと推測する記事が多かった。
 どちらも残酷な内容はことさら避けて掲載されているのは、きちんと情報統制されているということなのだろう。
 このような犯罪を犯した人間が巷をうろついていると思うと恐ろしいが、映画関係者の殺害が続いているので、『四谷怪談』のような映画に関する呪いではないか? と書く記事まであった。
 『四谷怪談』――言わずとしれた江戸時代の怪談話だが、この作品を題材とした映画や舞台を行う場合、話の中で怨霊となったお岩さんを祀ったお岩稲荷にお参りに行かないと祟りが起こるという都市伝説の類だが、今でも映画人、舞台人は演者スタッフあわせて本当にお参りに行く。それは、それこそがプロモーションの一環になるからという打算もあってのことだと思う。だが、今回に関しては誰の呪いなのか、果たして呪いなのかすら分からないのに勝手なことを言うな、と呆れていたが、ふと『呪い』という言葉に引っかかってしまった。

 あの祭壇は映画の中で何かを呪うものだったのか。それとも何かを召喚するものだったのか。あるいは贄を捧げて願いを叶えて貰おうとするものだったのか。生憎カルト作だからか、ネタバレになるからか、ネットでは『夜を殺めた姉妹』での祭壇の使い方についての記載は見つからなかった。
 そういえば昨日はパニックになり、辻堂刑事にも祭壇の元ネタを話していなかったので、明日出勤したら『夜を殺めた姉妹』について調べて報告しようと思った。

 顔だけ洗い、昨夜池上から貰ったパンを朝ごはんにいただいた。
 お腹にものがたまると少し元気が出て来た気がするので、勢いのままにシャワーに入ろうとして、手首のブレスレットに気付く。昨日八頭女史から譲り受けたものだ。そのまま持っていてもいいのだろうかと僅かに逡巡したが、あの時彼女は私にと言って付けてくれたのだから、そのままいただいておくことにした。

――「預かってて。良かったらまた来てよ。一人で居るのに耐えられなさそうだから」

 そう言っていた八頭女史の事をまた思い出してしまう。
 
 偲ぶ気持ちでしばらく付けていたいが、私の手首には少し大きく、このままでは音が響いて仕事に影響が出そうだ。
 ふと思い立って、手芸ボックスから編み針とレース糸を出し、このブレスレットにレースカバーを付けることにした。メダルを部分を覆うとちょうどくるみボタン風になって可愛らしい。そのまま無心になって編んで行き、まあまあ満足の行く出来になった頃には、少し日が傾いていた。

 

 
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