映画をむさぼり、しゃぶる獣達――カルト映画と幻のコレクション

来住野つかさ

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044 第三のコレクター八頭女史②

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 気になって会議室を見に行こうとすると、池上に止められた。

「レッドLのことが気になるんだろうけど、多分後で呼ばれるから待ってよう。動いたら、日比野ちゃんが関係あると思われるよ」
「······はい」

 そうか、そういう点も気を配らないといけないのか。というか、『レッドL』って何?

「あー。いわゆるあだ名? 赤い服ばかり着るから」
「レディのLですか?」
「いや······、内緒だよ? レッド・ロブスターの略」
 
 思わず吹いてしまった。ロブスターってあの?

「伊勢海老でも何でもいいんだけどさ、大型の赤い歩行型のエビ。赤くて両手に何か沢山付けてるし。若い時は両手首にリボンを付けてるときもあったんだって。それで誰かが呼び出したっぽいよ」
「ああ······。エビ······!」
「一応もし聞かれたとしても、日比野ちゃんみたいにレディの方って言えるからね。駄目だよ、そんなに笑っちゃ」

 そんなきついあだ名、一体どこまで広がっているのだろう。映画業界は狭いから、想像以上に浸透していそうで怖い。
 
「でも映画好きな方で、あんなに音が出るものを身に着けるのは珍しいですね」
「彼女はいつもストールを持ってて、それを畳んで膝に乗せてるから、そこに手を置くと思ったほど音が出ないらしいよ。近くに座った人情報だけど」
「資料課ー。明日の件で打ち合わせするよー」

 田代主任の大きな声がする。

「はーい! ほら行こう、日比野ちゃん」
「はい!」



     ◇     ◇     ◇



「辻堂刑事に確認してみたけどね、やはり当館で話を聞いたなんて八頭さんには話していないらしい。ただ警察だって色々と他所でも聞き込みをしているだろうから、どこかから噂が出たのかもね」
「うちはあくまで捜査に協力してるだけなんだから、刑事が来たら話すに決まってるよ」
「そうそう、仕方ない仕方ない」

 西村課長の言葉に尾崎係長と田代主任も勢い込んで同意する。私が気にしてるのが丸わかりだからだろうか。まだまだ内面が隠せなくて恥ずかしい。

「悪いことしたわけでもないですし、気にしないことにします」

 そうだ、気持ちを切り替えよう。人の死に面食らっていたが、私には直接関わりのない人々なのだし、引き摺られるのは良くない。

 散会してマグカップを洗っていると、池上が肩を突いてきた。

「今日はさ、お互いのカレーをLINEで送り合うってのはどう? 二人でオンラインカレー会してもいいよ」
「そこまでは遠慮しておきます。でも写真は撮りますよ」
「じゃあ、俺も目玉焼き以外に何か映えるものトッピングしようかな。出来たら送るから判定してね!」
「私もそんなに料理得意じゃないですよ」
「日比野ちゃんが食べたい度数で評価してくれればいいよ。決まりね!」



 
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