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045 第三のコレクター八頭女史③
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トマトをどこで買って帰ろうかなどと呑気なことを考えていたからだろうか。
資料館の通用口を出てすぐのところで、何かを探しているような八頭女史と出くわしてしまった。しまったと思ったが目が合ってしまったので逃げられない。
「あっ、あなた! 申し訳ないのだけど鍵を無くしてしまって······。この辺りだったと思うのだけど手伝ってくれない?」
「え、ええ······、はい」
「悪いわね、じゃああなたはそっち側ね!」
仕方がないので落とし物探しに付き合う。鍵なんて目立つものならばすぐ見つかるだろうと高を括っていたが、全然出てこない。ここに落としたのではないんじゃないかと言おうとしたら、
「あら、バッグの中にあったわ。お騒がせしてごめんなさい。私よく物を落とすのよね。お礼にご馳走するから」
捲し立てられ強引に連れ出そうとする八頭女史に、きちんと断ろうとした時にはすでにタクシーが横につけられてしまった。
「あなた、ここの職員さんなんでしょ? なら聞きたいこともあるから付き合いなさいな」
「今お答えしますから、お夕食を免除出来ますか?」
「いいじゃない! 帰りのタクシー代は出すから行きましょう」
「でも······」
「あなた、比江島さんの最期見たんでしょう? とにかくここでは話せないわ。乗って! すぐお返しするから!」
「分かりました。本当にすぐお暇しますから」
車中では何故か八頭女史はびたりと口を閉じ、私は八頭女史の自宅に連れて行かれてしまった。
資料館からそう遠くない場所なので都内だが、おそらく近くに某映画会社の撮影所のある高級住宅街だろう。坂の上に建つそこは、個人の住まいにしてはとても大きな敷地の邸宅だ。外側をぐるりと高い壁が覆い、敷地の中に入ると手前が洋館、奥に瓦造りの平屋が付いた和洋折衷の変わった邸が見える。同じ敷地内に小ぢんまりとした一軒家もある。
「親から譲り受けた土地に、和も洋も入れて建てちゃったのよ。ちょっと変わってるでしょ?」
「珍しい造りですね」
「そうよ、中も面白いわよ? あなた映画好きなんでしょ?」
「はい」
「それなら後で面白い部屋を見せてあげるわ」
もうここまで来たら腹を括ろう。逃げても職場バレしているので、早く話をして帰らせてもらおう。
資料館の通用口を出てすぐのところで、何かを探しているような八頭女史と出くわしてしまった。しまったと思ったが目が合ってしまったので逃げられない。
「あっ、あなた! 申し訳ないのだけど鍵を無くしてしまって······。この辺りだったと思うのだけど手伝ってくれない?」
「え、ええ······、はい」
「悪いわね、じゃああなたはそっち側ね!」
仕方がないので落とし物探しに付き合う。鍵なんて目立つものならばすぐ見つかるだろうと高を括っていたが、全然出てこない。ここに落としたのではないんじゃないかと言おうとしたら、
「あら、バッグの中にあったわ。お騒がせしてごめんなさい。私よく物を落とすのよね。お礼にご馳走するから」
捲し立てられ強引に連れ出そうとする八頭女史に、きちんと断ろうとした時にはすでにタクシーが横につけられてしまった。
「あなた、ここの職員さんなんでしょ? なら聞きたいこともあるから付き合いなさいな」
「今お答えしますから、お夕食を免除出来ますか?」
「いいじゃない! 帰りのタクシー代は出すから行きましょう」
「でも······」
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「分かりました。本当にすぐお暇しますから」
車中では何故か八頭女史はびたりと口を閉じ、私は八頭女史の自宅に連れて行かれてしまった。
資料館からそう遠くない場所なので都内だが、おそらく近くに某映画会社の撮影所のある高級住宅街だろう。坂の上に建つそこは、個人の住まいにしてはとても大きな敷地の邸宅だ。外側をぐるりと高い壁が覆い、敷地の中に入ると手前が洋館、奥に瓦造りの平屋が付いた和洋折衷の変わった邸が見える。同じ敷地内に小ぢんまりとした一軒家もある。
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「そうよ、中も面白いわよ? あなた映画好きなんでしょ?」
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もうここまで来たら腹を括ろう。逃げても職場バレしているので、早く話をして帰らせてもらおう。
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