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039 ヨシイ古書店の噂①
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「こういうケースって犯人を捕まえて賠償してもらうのは難しいんですか?」
「そもそも、その趣旨に賛同してお金を送っているんでしょう? 出す理由が映画製作費であるなら、作らないのは詐欺だと思います。ただまだ作り終えてないだけだ、とかいくらでも言い訳出来るように注意表記がされているかもしれませんし。
万が一映画が完成出来ない時はお別れ会を開催するとか、違うことが条約で書かれてたりしたら、そっちをするつもりでした、いつまでと期限を設けてませんでした、と逃げられるかもしれません。
私は生憎詳しくないんですが、色々抜け道が作りやすいからこの手の詐欺が増えてるんでしょうしね」
クラウドファンディングには購入型と寄付型というものに分かれるらしい。購入型というのがリターンがあるもの。今回でいうと、購入額に応じて『エンドクレジットに載せる』『DVDをプレゼント』『監督のオリジナル脚本を製本化してプレゼント』『映画キャストとして出演』『映画スタッフとして参加』というのがリターンだった。
だからいずれ被害者で結託して訴えて、捕まるのではと思っていたが、お金を支払った人の中でも見解が分かれているのだという。あの映画監督の晩節を汚すような真似をしたくない、と訴えることに反対の人も中には居て、遺作が観たい、騙されたと思いたくないファン心理の複雑さが如実に現れているんだという。
「とにかく、この詐欺の件は、当該事件に関係あるのかどうかは調べて判断したいと思います。あと、いくら政治家さんの圧力があったとしても、佐山さんの件もいつまでも隠しておけるものでもないでしょう。そうしましたら貴館の総務課さんや映画普及課さんにもお話を聞いてみようかなと思いますが、こんなに日比野さんが優秀ならまたお付き合い頂きたいですね」
「いや、そんな······」
必要箇所をスマートフォンで撮影し終えた辻堂刑事とともに立ち上がったところで、突然声がかかった。
「日比野ちゃん、おつかれー。結構時間かかってるみたいだから、大変そうなら交代しようかと思って来たよー」
「あ、池上さん」
「すみません、長々と付き合わせてしまって。さっき日比野さんが機転を利かせて私をここの研修員としてくれたので、また追加でお伺いしたいことが出てきましたら、その体でお邪魔することに致します。では失礼します」
帰って行く辻堂刑事を見送り、ほっと息を吐く。それを見咎めた池上が、あからさまに眉を顰めて文句を言って来た。
「ずるい」
「え、ずるいってどういうことですか?」
「日比野ちゃんが来て話しかけてくれたって、井ノ口さんに自慢された」
「それは頼まれたからですよ」
「俺のところにも来てほしかったな」
「そんな事言われましても、聞くことないじゃないですか、池上さんには」
「そう? 俺何でも答えるよ」
「とにかく、事務室に戻りましょう」
「そもそも、その趣旨に賛同してお金を送っているんでしょう? 出す理由が映画製作費であるなら、作らないのは詐欺だと思います。ただまだ作り終えてないだけだ、とかいくらでも言い訳出来るように注意表記がされているかもしれませんし。
万が一映画が完成出来ない時はお別れ会を開催するとか、違うことが条約で書かれてたりしたら、そっちをするつもりでした、いつまでと期限を設けてませんでした、と逃げられるかもしれません。
私は生憎詳しくないんですが、色々抜け道が作りやすいからこの手の詐欺が増えてるんでしょうしね」
クラウドファンディングには購入型と寄付型というものに分かれるらしい。購入型というのがリターンがあるもの。今回でいうと、購入額に応じて『エンドクレジットに載せる』『DVDをプレゼント』『監督のオリジナル脚本を製本化してプレゼント』『映画キャストとして出演』『映画スタッフとして参加』というのがリターンだった。
だからいずれ被害者で結託して訴えて、捕まるのではと思っていたが、お金を支払った人の中でも見解が分かれているのだという。あの映画監督の晩節を汚すような真似をしたくない、と訴えることに反対の人も中には居て、遺作が観たい、騙されたと思いたくないファン心理の複雑さが如実に現れているんだという。
「とにかく、この詐欺の件は、当該事件に関係あるのかどうかは調べて判断したいと思います。あと、いくら政治家さんの圧力があったとしても、佐山さんの件もいつまでも隠しておけるものでもないでしょう。そうしましたら貴館の総務課さんや映画普及課さんにもお話を聞いてみようかなと思いますが、こんなに日比野さんが優秀ならまたお付き合い頂きたいですね」
「いや、そんな······」
必要箇所をスマートフォンで撮影し終えた辻堂刑事とともに立ち上がったところで、突然声がかかった。
「日比野ちゃん、おつかれー。結構時間かかってるみたいだから、大変そうなら交代しようかと思って来たよー」
「あ、池上さん」
「すみません、長々と付き合わせてしまって。さっき日比野さんが機転を利かせて私をここの研修員としてくれたので、また追加でお伺いしたいことが出てきましたら、その体でお邪魔することに致します。では失礼します」
帰って行く辻堂刑事を見送り、ほっと息を吐く。それを見咎めた池上が、あからさまに眉を顰めて文句を言って来た。
「ずるい」
「え、ずるいってどういうことですか?」
「日比野ちゃんが来て話しかけてくれたって、井ノ口さんに自慢された」
「それは頼まれたからですよ」
「俺のところにも来てほしかったな」
「そんな事言われましても、聞くことないじゃないですか、池上さんには」
「そう? 俺何でも答えるよ」
「とにかく、事務室に戻りましょう」
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