28 / 131
028 第二のコレクター比江島氏のこと④
しおりを挟む
「ごめーん。もうあらかた食べちゃった」
山森が謝るけど、別に構わないですよと答えて休憩スペースに腰を下ろす。
「今日は俺も入れてー」
遅れて弁当とドリンクを持ってきた池上も参加し、三人でのランチとなった。
「けいちゃん達、昨日は大変だったね。大分遅くなったんじゃないの?」
「いえ、そこまで遅くはならなかったですよ。でもびっくりしちゃって······」
「そうだよねー。俺もびっくりしちゃったよ、山森さん」
「刑事さんってどんな人だった? 鋭い感じの探偵風なの?」
「いや、どうだろ? でもああいう職業の人ってさすがだよね。俺達の名前とか事件の経緯とかスラスラ記憶して答えてるしさ」
「池上だって映画のこと詳しいじゃん。あんなに多く観てて、ストーリーとか忘れないものなの?」
「うーん、それは人によるだろうけど。俺は結構メモ魔なのよね。観た後になるべく自分の言葉で書いておくと覚えてるかなあ。忘れるものは忘れるけどね」
「課長達とか異常だよね。資料の記憶の仕方とか。図書室の司書さん達もね」
山森の言葉にうんうんと同意する。研究員の記憶力はお化けだ。私はあんまり記憶力に自信がないのでスチルの仕分けも時間がかかる。モノクロの俳優さんの顔って似て見えてしまうのだ。
「そういえば、佐山さんに娘さんがいるんですけど、その人『牧田道佳』さんと結婚してるんですって! スチルのデータでよく見る名前! と思って不謹慎にも興奮しちゃいました」
「······えっ? 牧田さんに、会ったの?」
「そうなんです。課長は記憶あるっぽくて、前にうちでバイトしてましたって言ってたから、あのデータの人ですよ。もしかして山森さん知ってるんですか?」
「······あ、彼がバイトしてた時、私も一緒だったの」
「それなら山森さんに会いたかったかもしれませんね」
雑談をしながらおにぎりを食べ終えると、昼休み終了の時間になった。休憩スペースのテーブルを軽く拭いてから席に戻り、午前中に仕分けた映プロの映画館名を入力していく。
この当時は浅草だけではなくて東京全体の色んな街に映画館があったのだな、と映画興隆期の活気を想像してしまう。映画の街だった浅草六区ですら2012年には全ての映画館が消えてしまった。シネコンが悪いとも思わないが、街を歩いていて身近にあった映画館がどんどんと消えていく様を実感していた佐山氏や比江島氏とシネコン世代の私とでは、映画への憧れとか根本的な何かが違うのだろうか。
ともに昨日故人となった映画コレクターの二人に思いを馳せていると、隣の席から「けいちゃん、ちょっと」と声をかけられた。
「何かありましたか、山森さん」
「ううん、そうじゃないんだけどさ」
「あの······、佐山邸にはさ、また行くのかな?」
「そうなんじゃないですか? でも帰り際に立入禁止にして鑑識の人とか来てましたから、どのくらい経ったら調査再開になるんでしょうね。
······もしかして時間外になるなら行かれないからってことですか? 気にしなくても平気ですよ。人手がいるのは資料を持ち帰ってからだねえ、刑事さん来たんだって!」
受付からの電話を受けながら、池上が皆に伝えた。
山森が謝るけど、別に構わないですよと答えて休憩スペースに腰を下ろす。
「今日は俺も入れてー」
遅れて弁当とドリンクを持ってきた池上も参加し、三人でのランチとなった。
「けいちゃん達、昨日は大変だったね。大分遅くなったんじゃないの?」
「いえ、そこまで遅くはならなかったですよ。でもびっくりしちゃって······」
「そうだよねー。俺もびっくりしちゃったよ、山森さん」
「刑事さんってどんな人だった? 鋭い感じの探偵風なの?」
「いや、どうだろ? でもああいう職業の人ってさすがだよね。俺達の名前とか事件の経緯とかスラスラ記憶して答えてるしさ」
「池上だって映画のこと詳しいじゃん。あんなに多く観てて、ストーリーとか忘れないものなの?」
「うーん、それは人によるだろうけど。俺は結構メモ魔なのよね。観た後になるべく自分の言葉で書いておくと覚えてるかなあ。忘れるものは忘れるけどね」
「課長達とか異常だよね。資料の記憶の仕方とか。図書室の司書さん達もね」
山森の言葉にうんうんと同意する。研究員の記憶力はお化けだ。私はあんまり記憶力に自信がないのでスチルの仕分けも時間がかかる。モノクロの俳優さんの顔って似て見えてしまうのだ。
「そういえば、佐山さんに娘さんがいるんですけど、その人『牧田道佳』さんと結婚してるんですって! スチルのデータでよく見る名前! と思って不謹慎にも興奮しちゃいました」
「······えっ? 牧田さんに、会ったの?」
「そうなんです。課長は記憶あるっぽくて、前にうちでバイトしてましたって言ってたから、あのデータの人ですよ。もしかして山森さん知ってるんですか?」
「······あ、彼がバイトしてた時、私も一緒だったの」
「それなら山森さんに会いたかったかもしれませんね」
雑談をしながらおにぎりを食べ終えると、昼休み終了の時間になった。休憩スペースのテーブルを軽く拭いてから席に戻り、午前中に仕分けた映プロの映画館名を入力していく。
この当時は浅草だけではなくて東京全体の色んな街に映画館があったのだな、と映画興隆期の活気を想像してしまう。映画の街だった浅草六区ですら2012年には全ての映画館が消えてしまった。シネコンが悪いとも思わないが、街を歩いていて身近にあった映画館がどんどんと消えていく様を実感していた佐山氏や比江島氏とシネコン世代の私とでは、映画への憧れとか根本的な何かが違うのだろうか。
ともに昨日故人となった映画コレクターの二人に思いを馳せていると、隣の席から「けいちゃん、ちょっと」と声をかけられた。
「何かありましたか、山森さん」
「ううん、そうじゃないんだけどさ」
「あの······、佐山邸にはさ、また行くのかな?」
「そうなんじゃないですか? でも帰り際に立入禁止にして鑑識の人とか来てましたから、どのくらい経ったら調査再開になるんでしょうね。
······もしかして時間外になるなら行かれないからってことですか? 気にしなくても平気ですよ。人手がいるのは資料を持ち帰ってからだねえ、刑事さん来たんだって!」
受付からの電話を受けながら、池上が皆に伝えた。
10
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
紙の本のカバーをめくりたい話
みぅら
ミステリー
紙の本のカバーをめくろうとしたら、見ず知らずの人に「その本、カバーをめくらない方がいいですよ」と制止されて、モヤモヤしながら本を読む話。
男性向けでも女性向けでもありません。
カテゴリにその他がなかったのでミステリーにしていますが、全然ミステリーではありません。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる