映画をむさぼり、しゃぶる獣達――カルト映画と幻のコレクション

来住野つかさ

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029 辻堂刑事の来訪①

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「いや、皆さんお仕事中に申し訳ない。先に館長さんには伝えましたけど少しご報告がありまして」

 今日はまだ少し残暑が厳しかったか、汗を拭いながら会議室に現れたのは辻堂刑事だった。

「昨夜は突然のことで皆さんもお疲れのことと思いますが、色々気になることもありますのでお時間を少しばかり頂戴いたしますね」

 課の人間を一通り見回すと、一呼吸置いてから話し出した。

「ええと、すでにお聞き及びかと思いますが、佐山邸で亡くなられていたのは比江島直哉氏。こちらにもよく通われていた映画コレクターの方でした。館内の方で個人的に交流のあった方はおられますか?」
「前にもお伝えしましたが、我々は表に出ることは少ないのであくまでお客様としての関係性しかなくて、個人的には何も。ただ彼や佐山氏もですが、図書室や常設展、上映会場に頻繁に足を運ばれていたということですので、そちらの職員の方がもしかしたら親しく会話をしたことがあるかもしれません」

 西村課長は冷静に返答する。だが著名な映画コレクターが一日に二人も亡くなったことで、彼らがよく通っていたこの場所で調査を行うのは吝かではないと思っているようだ。
 
「ではそちらは後ほど確認してみましょう。
 それから比江島さんのことですが、彼は独身で一人暮らしだったようですね。午前中にお住まいを見て来たのですが、どうも法務局に自筆の遺言書を預けておられたようですよ。そちらの確認はご親族への連絡と併せてこれからになりますが、いやいや佐山さんといい比江島さんといい、私なんかと違ってしっかりと後の準備をなされていたようで驚きますなあ」

 殺人事件の話をしているというのに時々ユーモラスに笑みを浮かべたりする辻堂刑事。私達をリラックスさせたいのか気を緩ませたいのか。あるいは怒らせる? どれもなのかもしれない。

「そうそう。亡くなる前、比江島さんの体内にはアルコールの摂取に加えて睡眠薬と致死量には至らないもののリシンの成分が検出されています。死亡推定時刻は17時頃。あなた方がいらっしゃる前ですね。凶器として使われた刃物や、切り落とされた遺体の一部も現場になかったことから、警察としてはこれは他殺――殺人事件だと断定しました」
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