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020 佐山氏のご家族と事情聴取①
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「皆さん、ご家族と弁護士の方が来られましたので、お通ししますね」
応接間をノックされて、警察官が報告をしてくれる。先程の奥様が戻られたそうだ。
すぐにこちらへ向かって足音がしたので、私達は立ち上がって出迎えようとするが、その前にドタンという大きな音が響いた。
「どうしましたか?」
慌てて廊下に出ると、倒れた由紀子夫人を介抱する女性二人と辻堂刑事達。現場を見せる前に他殺の可能性があると報告したら倒れてしまったらしい。
茶の間リビングの横に佐山氏の寝室があるので、警察官が頭に気をつけて運んでいるが、ショックによる一時的な失神であろうとのこと。
大事にならずホッとする。さすがに一日に二度も死亡者と向き合うのは辛かったのだろう。
由紀子夫人を休ませたらしく、先程の女性達と弁護士が改めてこちらにやって来られた。
「この度は大変なことに巻き込みまして。私は佐山の長女・美千代と申します」
「次女の華子です。義母は疲れが溜まったようで休ませておりますわ」
娘さんはお二人とも50代半ばくらいか、由紀子夫人の年齢から見て親子程の差はないので、おそらく前妻の娘さんなのだろう。
姉の方は品のあるブルーのサマーニットのアンサンブル、妹は名前の通り華やかなピンク地のワンピースを着ている。
どちらも美人だが、仮にも父親が亡くなった日にその服装なのか、と多少違和感を覚える。
「我々は国立映画資料館の調査資料課の者です。この度は御愁傷様でございました。そのようなご心痛の折に、申し訳ございません」
代表して西村課長が前に進み出て二人に挨拶を行う。
「いえ、あなた方のせいではないわ。父がそのように無理を言っていたと聞いています」
「映画狂いの父でしたからね。お気づきでしょう、私達の名前も」
「ええ。······富樫甲児監督『黄昏を纏いし姉妹』の主人公の姉妹、の名前ですか?」
姉妹が顔を見合わせてふふふ、と笑った。だけどおかしいから笑うというより呆れてという雰囲気が強い。
「さすがね。父が好きだった作品らしいのだけど、この姉妹はラスト幸せにならなかったのよね。······父は何故この作品から娘の名を取ったのかしら」
そう言われると何と答えていいか分からない。
この映画はタイトル通り、ラストに暗い影を落として終わるからだ。
裕福だった美しい姉妹。戦争によって家の事業が斜陽に向かい、姉が政略結婚に踏み切るも上手く行かず、明るかった妹にも苦しい日々が襲い掛かる。最後はそれでも家を捨てずに家名を背負って、夜の街に目を向ける。
これがどういう結末なのかは分からない。陰鬱な中にも道端の花を摘み、寝たきりの母の枕元に飾って姉妹が夢物語を続けるシーンは、悲しくも美しいモノクロの映像美だったが、それを自分の名前に選ぶのはどんな親心なのだろう。
応接間をノックされて、警察官が報告をしてくれる。先程の奥様が戻られたそうだ。
すぐにこちらへ向かって足音がしたので、私達は立ち上がって出迎えようとするが、その前にドタンという大きな音が響いた。
「どうしましたか?」
慌てて廊下に出ると、倒れた由紀子夫人を介抱する女性二人と辻堂刑事達。現場を見せる前に他殺の可能性があると報告したら倒れてしまったらしい。
茶の間リビングの横に佐山氏の寝室があるので、警察官が頭に気をつけて運んでいるが、ショックによる一時的な失神であろうとのこと。
大事にならずホッとする。さすがに一日に二度も死亡者と向き合うのは辛かったのだろう。
由紀子夫人を休ませたらしく、先程の女性達と弁護士が改めてこちらにやって来られた。
「この度は大変なことに巻き込みまして。私は佐山の長女・美千代と申します」
「次女の華子です。義母は疲れが溜まったようで休ませておりますわ」
娘さんはお二人とも50代半ばくらいか、由紀子夫人の年齢から見て親子程の差はないので、おそらく前妻の娘さんなのだろう。
姉の方は品のあるブルーのサマーニットのアンサンブル、妹は名前の通り華やかなピンク地のワンピースを着ている。
どちらも美人だが、仮にも父親が亡くなった日にその服装なのか、と多少違和感を覚える。
「我々は国立映画資料館の調査資料課の者です。この度は御愁傷様でございました。そのようなご心痛の折に、申し訳ございません」
代表して西村課長が前に進み出て二人に挨拶を行う。
「いえ、あなた方のせいではないわ。父がそのように無理を言っていたと聞いています」
「映画狂いの父でしたからね。お気づきでしょう、私達の名前も」
「ええ。······富樫甲児監督『黄昏を纏いし姉妹』の主人公の姉妹、の名前ですか?」
姉妹が顔を見合わせてふふふ、と笑った。だけどおかしいから笑うというより呆れてという雰囲気が強い。
「さすがね。父が好きだった作品らしいのだけど、この姉妹はラスト幸せにならなかったのよね。······父は何故この作品から娘の名を取ったのかしら」
そう言われると何と答えていいか分からない。
この映画はタイトル通り、ラストに暗い影を落として終わるからだ。
裕福だった美しい姉妹。戦争によって家の事業が斜陽に向かい、姉が政略結婚に踏み切るも上手く行かず、明るかった妹にも苦しい日々が襲い掛かる。最後はそれでも家を捨てずに家名を背負って、夜の街に目を向ける。
これがどういう結末なのかは分からない。陰鬱な中にも道端の花を摘み、寝たきりの母の枕元に飾って姉妹が夢物語を続けるシーンは、悲しくも美しいモノクロの映像美だったが、それを自分の名前に選ぶのはどんな親心なのだろう。
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