僕の番が怖すぎる。〜旦那様は神様です!〜

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二章 あいつの存在が災厄

朱と母と父と従者たちに友 伍

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 咎めるような視線を俺に寄越し「感心しないぞ」と言い、友は俺を叱る。

 今日は母にも父にもこいつにも…怒られてばかりだ。

 (あれにもなぜか怒られたな)

 この【華】以外が咲いておらぬ現状では、俺のしたことは愚行と言われるだろう。
 俺の眷属は茨木と四童子の五名だが、古くから宮に勤める者にはお手つきをして、【華】を与えている。
 やつらの命がかかったことにも拘らずそれをしたことを咎めたのだろう。
 こいつは血や肉を摂ることを止めた耳長だからこそ、その重要性を説いているんだろう。

 だが、俺の命のかけらでもあるこれをあれに贈りたかった。

みなにも与えてやりたいが、あれに…百合に贈ってやりたい」

 手折った俺の【華】を友に見せる。
 はじめて開いたそれは形も歪で、大きな葉ばかりがついた不格好なもの。
 不安定な俺の内面を写し取ったようなものだった。

「うちのリリィに?どうしてまた?」

 先程からしている俺の行動がおかしく見えるのだろう、今度は訝しげな視線を寄越してきた。

「これは百合あれのおかげで開いた。
そう美しくはないが、俺の子を産んでくれたことへの礼にしたい」

 俺の言葉を聞いた友は口をぽかんと空けてから、


「お前アホだろう?」


 そう俺を評した。


 ───ん、何だ?
 フレイヤの言うとおり、アホの所行で民に悪い?
 …承知の上のことだ───


 いつものように額に手をやり「はぁ…」と溜め息を一つつく。
 それから俺に対してまた説教をはじめる。

「疲れ切って眠ってるだろ?」
「そうであるな」

 確かにそうだがこれだけは譲れなかった。


 ───それでも俺はあいつに一番に咲いたそれを贈りたかった。
 俺に与えたものがどんなに大きかったかを知ってもらいたかった。
 それに相応しい報いを返したかった故のことだった───


「だろ?どうせすぐに見ることは出来ない。
他の【華】の開花を待って、それよりもっと綺麗なやつにすれば良いのに…」
「これでなければならぬ。意味が無い」
「まぁ…お前があの子を大切にしてくれていることは良くわかった。
姉としては嬉しいぞ、義弟おとうとよ!
いやヒルメの養子なら私の義息子むすこにもなるのか?」

 忘れていたが、そういえばそうであった。
 そのことを考えると少しばかり気分が悪い。

「そんな顔になるなよ…ほんっとに変わったなぁ…
昔はお人形みたいになんにも感じなくてかわいそうだったけど」

 思わずそれが顔に出ていたらしい。
 古いことを持ち出してきた友に放っておけと言いたくなるが、相手にすると面倒なので黙っている。

「お前、昔と違って可愛くなくなった」

 俺をからかう友は昔からかような態度でずっと変わらぬままだ。

「あの頃は『運命』に出会った影響から、Ωの方に傾いていたのに。
まんまちっこいツクヨミだったよな?」

 俺を揶揄する友。

 先ほどの父の態度やこいつの言葉に、思い出したくもない昔を呼び起こされる。

「それは永遠に断たれた。
それゆえ俺はα寄りになり、今まで欲求に振り回されることになったが…
あの方も俺もそれを望まぬゆえのこと。これで良かった。
お前とも誼を結べたしな…」

 父から追放され、はじめに渡ったのがアルフヘイムだった。
 そこで出会った俺と対等に話せる同じ年の頃の者。

 俺がはじめて得た友がフレイヤだった。

 (実際にはこいつの方が相当な年上であったが…)

 俺の思考を読んだのか、嬉しそうな顔になったあと、片眉がピクリと上がり「オイ!」と恫喝されるが、それには適当に「すまぬ」とだけ返す。

 (やはり女はこういう時にやりづらい)

 まだ険しい表情をした友が睨んでくるが視線を反らした。

「私はそのことも気に入らない。
お前を縛り付け、虐げ続けるお前の親たちも鬼族も私は良く思っていない。
私の誕生の為であったが、奴らは我儘がすぎる!」

 愛情深く、激情家であるこいつは、俺のことを思い憤ってくれる。
 そんな友がいるのを嬉しく思う。

 それに俺自身はもうそのようなことはどうでも良かった。
 ただ…父やあの方に捨てられたことだけが辛く悲しかった。

 俺は最愛たる紫にしか興味がない。
 生まれてから今まで百年ほど生きてきたが、あれより他に欲したものは何もなかった。

 ──あいつだけが特別で俺の全てだった。

「 俺の『運命』は────だけで、俺の愛する者もあれだけだ」

 ──それで俺の言葉に納得したのか、友は嬉しいことを言ってくれたが…

「お前は友でもあるが名実ともに私の弟だ。
耐えきれなくなったらふたりで私たちを頼れ」

 ──これには返答することなど出来なかった。

 俺に対して気安いただひとりの大切な友。
 友にも伴侶たる伯母や子がいる。
 守るべき耳長の民もいる。

 今でも俺たちは紫の為に、互いに結構な禁を犯すそんな無茶をしている。
 これ以上の負担はかけたくなかった。

「…あの子が【黒】の神子を産んだように、反対の質を持たないとそれを産めない」

 頑なになった俺の態度に友は話を変えてきた。

 俺たち種の始祖たる者しか知らぬ事を、わざわざ俺にするなどどういう気だろうか?
 わかりきっていることを話す友はニンマリとした笑みを浮かべている。
 こいつはまた俺をからかうつもりらしい。

「あの子が【白】の神子を生むことは絶対に出来ない。
他に妃を娶らないんだから、代わりにお前が頑張れよ!」

 そう言うと俺の背をバシバシと叩いた。
 痛みはないが衝撃で【華】を取り落としそうになり「やめろ」と訴えた。

「俺は承知しているが…あれが酷く嫌がる」
 
 俺と紫の場合は少しばかり違うが、メス同士で子を作ることなど、鬼の価値観において【緑】の者以外では、嫌悪されるほどのことになっていた。 
 オスがオスに抱かれるのも屈辱的なことで、そういった加虐的な嗜好の者は、妾奴でしか解消できなかった。


 ───俺たち皇の者はそういう嗜好ではないがオスを抱く?
 お前も奴らでしか治まらぬ時があるから『後宮』を持たされただろう?───


 多分だが、あれが気がかりなのは、俺たちの場合はオスがメスに抱かれることだと思われているからだ。
 それは鬼の中で最も厭忌えんきされていたことだった。

 父母や伯母などは理解しているだろうが、他の者が知らぬこのことをどう説明すればよいものか?

 奴らもいつかは必ず望むであろう鬼族の【白】の神子を産むことは、穢れを凝縮したかのような呪いを常に受ける、俺にしか出来ぬことだった。

 そう悩んでいるとまた思考を読まれた。

「うちも近いうちにヒルメが【黒】の神子を産むから、その時にでも教えるよ。
その頃ならあの子にも資格があるだろうから」

 こいつは伯母と【白】と【黒】の神子のみ儲けるらしい。
『バランスがあるんだよ』などと、昔言っておった。
 名を授けることになったあの呪詛を受け続けていたことも、穢れを身に溜める為にしていたというから…手に負えぬ。

 ともあれ、あれも姉からの話なら聞き入れるだろう。
 問題は俺にまだ発情期が一度も訪れておらぬゆえ、それを成すことが出来るかわからぬが…

 (急がぬし、それはまた時期が来たらで良いか…)

 暫くは黒にかかりきりになるだろう。
 それに【四色の神子】の方が先だ。

 急かしたりなどしたくはないが、婚礼の儀にあわせ【四家】の膿を出し、粛清を行うと聞いた。
 その頃なら、あれも受け入れてくれるだろう。

「これは戯言としか思えないだろうが…」そう前置きしてこいつが話を続ける。

 先程までのからかうような調子はなくなり、周りを警戒してから自分の神域を俺とこいつを包むくらいの大きさで創り出した。
 余程他に知られたくない事を話すらしい。
 鬼の領域に創るゆえ、このようにしたのだろう。

「本来なら穢れを溜めきったあの子が【白】の神子を産み、死ぬはずだったらしい」
「それが【青】にあった予言か?」
「そ、あの最悪なメス野郎の言った事だが、あの子が【黒】の神子として誕生するはずだったらしい」

 ならば俺に嫁がせ、【白】の神子の誕生を望むはずだが…
 俺を飼い殺しにしたい糞共はそれを望まなかったということだろう。
 
「だがあれはそうではなかった」
「そ、それでヤツらの企みも大幅に狂ったのさ」

 まるでよそ事のように言うこいつに少しばかり拍子抜けするが、こいつや伯母にはずっと先の未来を識る事が出来る。
 瑠璃はもっと先をていた筈だ。

 それなのにカルミアはそのような戯言を吹聴し、さらには慕っていた師である者の伴侶を奪った。
 
 奴らの醜悪な行いは狂っているとしか思えぬことだった。

「それから…あの子に魔術を使わせるな。
二つ名についても聞くな。
あれ・・を知られるとカルミアは母を手に入れるために…リリィに何をするかわからない」

 穏やかではない話に、皆が知りたがるあれの耳長での地位。
 そこに隠されたものかあるのはわかっていたが……

「細部を随分ぼかすが、詳しく話すことは憚られるのか?」

「耳長の禁だ」

 ならばこれ以上は語ることを互いに許されないだろう。

「然様か。これで終まいなら俺は行く」

 そう告げると踵を返し、自分の部屋に戻ろうとしたが、それをこいつが引き止める。

「それに結んで渡してやれ」

 差し出されたのは耳長の技術で織られた組紐、リボンだった。
 俺の色である、朱で縁取り金と銀それから青を使い、俺の華の柄を織っていた。

 かようなものを用意しているということは、こいつは最初から俺のすることを知っていた。
 頃合いをみて渡すつもりだったらしいが、散々俺をからかった友の相変わらずの質の悪さにうんざりするが、黙って受け取る。

「お前は相変わらず器用だね。
うちの姉弟は母に似て不器用だから羨ましいよ」

 気を取り直して渡された組紐を使い、飾り結びに結っているとまた茶々を入れてきたが放っておく。
 最後に形を整えてやり、俺の【華】の不格好な葉などを落とした。

「出来るだけ美しいうちにこれを贈りたい」
「ほんとに変わったなぁ…お姉ちゃんは少し寂しいよ」
「言ってろ。ではな…」

 俺にひらひらと手を振る友に別れを告げ、最愛のもとへ早足で帰る。


 ──母や友が話したことは衝撃的なこともあったが、なるほどと得心が行くものだった。

 あいつの誕生で様々なことが動き出した。
 フレイヤはもっと俺に伝えたいことがあったそうだが…
 互いに縛りのある身でそれは出来ぬことだった。

 結果、あれの力を一族に広く知られることになった。
 先を識ることが出来ても、止められぬ流れもあることを俺は知った───


                                              ◆


 戻ってきた俺の部屋、俺の閨にて休む最愛の姿を見て心が安らぐ。
 疲労の濃い顔はやつれてはいるが、俺にはとても美しく見えた。

 帰りがけに幾人かの手の空いている者を呼び、身を浄める湯などを頼み、【華】を生ける花器も頼んだところ祝ぎも受けた。

 なんだかんだでこいつらは皆、俺に甘い。
『よろしゅうございました』や『お妃様も喜ばれます』などと言うだけで、落胆する者などおらぬことが嬉しかった。

 汗をかいている体を拭き、全身を浄めてから衣も着せ替え、敷き直した褥に寝かせたが、深く寝入ったままで一度も起きぬことを残念に思う。

「仕様がないが、これが一番に美しいときは過ぎてしまうな…」

 諦めて下部が持ってきた花器に生けたそれを、褥からも見える場所に置いた。
 起きてこれを見たときの驚く顔が見たいものだが、今は俺も疲れた。

「俺の最愛。大切な俺だけのお姫様…お前のことは俺が守るから」


 寝入る前に望まれたように隣に横になり、俺も眠ることにした。



 
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