僕の番が怖すぎる。〜旦那様は神様です!〜

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二章 あいつの存在が災厄

朱と母と父と従者たちに友 四

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 結局、息子が泣き出したことで話は中座となり、その後は母と乳母に息子を任せて退出しようとすると父が来た。

 父は俺を一瞥し「私が代わりに出た」と其の様な一言だけ告げた。

 俺に代わり狩りなどの務めをしてきたらしい。
 其の様な事は初めてだった。

 かつて父は幼かった俺に「役目を忘れるな」と、嫌がってもそれを強制してきた。

 (なんの心境の変化であろうか?)

 禊を済ませすぐに来たのか髪がまだ濡れていた。

 (俺の子の誕生を祝う為に急ぎ参ったのか?)

 俺を疎んだ父がかような態度を取ることは今までなかった。
 だが、俺が「…礼を言う」と返しても「構わん」とだけ。
 常と変わらぬ素っ気ない一言の返事しかしない。

 俺と父の間に生まれた亀裂は互いに歩み寄ることが出来ぬまま、百年近く放っていた。
 拗れに拗れてどう接したら良いのかすら分からぬ。


 ──俺もそうだが白練、お前の大叔父…俺の父はひとの心の機微に疎く、最愛の番である母くらいにしか興味がなかった。
 お前も皇の者ならおぼえがあるだろう?──
 

 父はそのまま母のもとに行き、息子を見て普段の厳しい表情を崩した。
 血も与え、息子の生後すぐでも旺盛な食欲にも、俺を思い出し懐かしいと言う。
 そんな父の息子を見る目は昔、父の【域】の中で暮らしていた頃、俺に向けられていたものと同じだった。

 懐かしく思うが、その言葉は俺の過ちを思い出させ、なんともいえぬ気持ちになる。

「早く行け、百合の側に居てやれ」

 俺の方を振り返ることなく告げられたが、母以外の者を気遣うような父を見るのは久方ぶりであった。

 あれと出逢ってから、俺以外の世界も変わろうとしている。
 父との仲もいつか修復出来る日が来るのだろうか?


                                             ◆


 最愛のもとへ向かう為、回廊を歩く。
 師走の二十日も過ぎてもうすぐ新年となる。

 今までの俺の宮はその準備の慌ただしさなど一切無かった。
 そのような行事もあまり参加せず日頃と変わらず過ごした。

『末端』を始末し、『ろくでもないもの』を狩り、罪びとに裁きを与える。
 腹が減ればそれを喰らい、欲を感じれば適当な者に閨の相手をさせ、眠くなれば寝る。

 其の様な…獣の様な暮らしをしていた。

 ふと、庭にある俺の木を見る。
 俺の宮の周りを囲むようにある青薔薇の木々は、幹や蔦などを這わし葉まではつけている。
 だが、最愛の肌に咲くような俺の心臓に在るような大輪の華はない。

 父母の神域たる本殿のように、俺の神域であるこの宮には、無数の青薔薇が咲くはずだった。
 それが俺の成熟の遅さか、はたまた精神の不安定さからか、永らく蕾すらつけなかった。
 蕾すらなかったのがあれとの出逢いからいくつかそれをつけた。

 俺の眷属たちは俺の【華】の咲くこの宮に住まう事や、あれの好む蜜酒の様に加工したそれを摂ることで、俺から直接血や精を得る必要がなくなる。

 父から見放されたあの時より俺は歪に成長した。
 それ故永らく世話をかけたが、これからはみなも楽になるだろう。


 ──今のようにこの宮を守り咲く、俺の青薔薇とあれの庭白百合だが、当時の姿は今と全く違った。
 それが、あいつが生まれた日に一輪だけ咲いた。
 小さくあまり美しくはなかったが、皆は大層喜んだな───


 漸く俺も『ヒト』らしくなれるのだろうか?

 それはまだわからぬことだが、今まで成長することの無かった俺の世界が、確実に変わってきている。
 それも喜ばしい方に向かって。

 庭に降りその一輪のもとへ行き、とても小さな俺の【華】を手折る。

「お前なぁ…ようやく一輪だけ咲いたのに、何してんだ?」


 呆れたような口調で話しかけてくるのは、俺の最愛の姉、フレイヤだ。



 
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